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世界一周307日

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2011年3月10日。ひとりの旅行作家が全く新しいシステムによる世界一周の旅をスタートさせた。巡る先はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、オセアニアの世界6大陸。『SUGO… もっと読む
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記事一覧

note1:香港2011.3.10

【連載小説 1/100】 世界一周の旅に出かけませんか? そんな誘いをPASSPOT社の幹部から受けたのが僅か2ヶ月前。 そして今日、僕はその旅をスタートさせ、最初の訪問地である香港に到着した。 キャセイパシフィック航空CX543便(10:45羽田発→15:00香港着)。 香港国際空港でイミグレーションを終えた僕はWiFiゾーンに移動しiPhoneのスイッチを入れると「SUGO6」アプリを立ち上げ「check in!」アイコンをタップ。 緯度経度を示すジオタグ情報が一瞬

note2:香港2011.3.12

【連載小説 2/100】 旅に出た翌日の昨日、香港市内を歩いていた僕のiPhoneに日本から大地震のNEWSが飛び込んできた。ホテルに戻ってPCを立ち上げると次々とアップされる被害状況と悲惨な映像。 1995年に阪神淡路大震災で被災生活を余儀なくされた僕には否応なく当時の記憶が蘇り、何ともいたたまれない気持ちになった。 不幸にも命を落とされた方々のご冥福と、今なお身の安全を脅かされている人々の一刻も早い安堵を祈るばかりである。 さて、事態を受けてのPASSPOT社の対応

note3 : 香港2011.3.13

【連載小説 3/100】 “現場”のリアリティとは、結局“現場”にいる者のものでしかない。 ここ香港でもインターネットにアクセスすれば地震被災地の映像が次々とアップされるから事態の深刻さや今後の不安は日本にいる人々とかなり近いレベルで共有できるような気がする。 問題は、そこに生まれる無力感なのだ。 誰かがtwitterでつぶやいていた。 「テレビをつければ、どのチャンネルも悲惨な映像が繰り返されるばかり。私たちはどうすればいの?」 そう、天災という極めて強力で容赦なき圧

note4 : 香港2011.3.16

【連載小説 4/100】 「旅は双六ゲームのごときものにして、スタートから始まりゴールで終わる一本の道筋でありながら、そこにひとつとして同じシナリオは存在せず、人は縁や運というダイスの目にも似た外力に翻弄される道程を悲喜こもごもの中に味わうのである」 PASSPOT社が提供する「SUGO6」という全く新しい旅行企画の基本コンセプトを僕なりに表現するとこうなる。旅慣れた人、旅好きの人なら共感してもらえると思うが、あまりにも計画的な旅は退屈なものである。 「日常から飛び出して

note5 : マカオ2011.3.20

【連載小説 5/100】 マカオに来て4日目。 前回、僕にとって最初の海外旅行が1985年の香港だったことにふれたが、その時に日帰りオプションで一度だけマカオを訪れたことがある。 当時、アジアでは珍しいカジノの街に「東洋のラスベガス」などのキャッチフレーズが付けられていたから、きらびやかな観光地を期待して訪れたものの、砂塵が舞う殺伐とした風景の中に建つカジノの館群と歴史的建造物の周囲に群がる物乞いの執拗な懇願にカルチャーショックを覚え、あまりいい印象を持たずに離れた覚えが

note6 : 香港2011.3.23

【連載小説 6/100】 昨夜、マカオから香港に戻った。 明日「SUGO6」第2番目の訪問地へ向けて旅立つが、まずは既に16日の段階で決定していた次なるデスティネーションについて報告しておこう。 この日「dice」アプリで出た目は「1」。以下のメッセージが表示された。 >>>>> Dice Roll ②/2011.3.16-20:00<<<<< Hong Kong → Manila 【マニラ Manila】2番目の訪問地はフィリピンのマニラ。3/30まで7日間滞在。スペ

note7 : マニラ(2011.3.28)

【連載小説 7/100】 前回、香港からマニラへ旅立つ前夜に「東洋と西洋の交差点を渡り続ける歴史紀行を続ける」と記したが、マニラに残る歴史的城郭都市跡であるイントラムロスを毎日のように歩きながら僕の「SUGO6」の旅がプロローグから本章に入ったような思いを強くしている。 香港とイギリス、マニラとポルトガル、フィリピンとスペイン。 東西の交差点を順に渡ることで見えてくるのは複雑に縦横の道で構成された“歴史という街並み”のようなもの。 現代のキーワードでいえば「グローバリゼ

note8 : コタキナバル(2011.4.1)

【連載小説 8/100】 単に出た目の数だけ進むだけなら双六ゲームは退屈なはずで、そこに「○○で1回休み」とか「○○でふたつ前進」、さらには「振り出しに戻る」などの指示が待っているからプレーヤーはスリルと共にゲームを楽しむことができる。 「SUGO6」の旅も同様で、出た目の先に与えられるミッションが旅人の行動をおおいに左右することになるから面白い。 ※ 「振り出しに戻る」はないと思うが… 最初に「5」の目が出て東京から香港へ、次が「1」の目でマニラへ移動した僕が3度目の

note9 : サンダカン(2011.4.5)

【連載小説 9/100】 もう10年以上前になるが、僕が生まれ育った兵庫県の神戸市にある王子動物園に4頭の小さなオランウータンが運びこまれ、ちょっとしたニュースになったことがある。 なんとその子どもオランウータンたちは密輸業者によって日本に持ち込まれた上、大阪市内の繁華街にあるペットショップを通じて珍ペットとしてインターネットで売りに出されていたのである。 オランウータンはワシントン条約で取引が禁止されている絶滅危惧種であり、素人がペットで飼うことなどありえないことに疑

note10 : キナバタンガン川(2011.4.10)

【連載小説 10/100】 変化と安定。 開発と保存。 破壊と創造。 世界は常に相反するパワーの駆け引きとバランスによって成り立っている。 旅についても同じ。 航空技術の進化は僕たちに世界中を旅するチャンスを与えてくれたが、短縮された時間の分、目的地に至るプロセスの旅情は相対的に少なくなった。 英語とドルさえあれば、たいていの国で何とか過ごせる利便性は整ったが、グローバルスタンダードはそれぞれの国家が積み重ねてきた歴史や文化の独自性を見えにくいものとしてしまう。 ど

note11 : ダナンバレー(2011.4.14)

【連載小説 11/100】 カタッ、カタ、カタ、カタッ・・・ とMacBookAirのキーボードを打っていると 窓の外、おそらく5mほど先から ザワッ、ザワ、ザワ・・・ と木の葉が擦れ合う音が聞こえる。 様子を伺おうとキーを打つ作業を止めて耳をすませると、相手も動きを止めるのか音は止まる。 再びカタッ、カタ、カタ・・とキーを打ち出すと、ザワッ、ザワ・・と木の葉の音。 先ほどからロッジのライティングデスクに座ってこのテキストを入力している僕は、外の闇にいる“彼”と互い

note12 : セリンガン島(2011.4.19)

【連載小説 12/100】 エコツーリズムにおけるボルネオ島の魅力の第一が広大な熱帯雨林とそこに生息する多種多様な生命であることは間違いないが、島である以上それを取り巻く海があり、こちらでも美しい自然や希少な生命と出会うことができる。 17日の朝にダナンバレーを離れた僕は、ウミガメで有名なセリンガン島で2日間を過ごし、さきほどコタキナバルへ戻ってきた。 セリンガン島が世界有数のウミガメの産卵地で、WWF(世界自然保護基金)が世界一と認める貴重なエコツアーの地であることを

note13 : シンガポール(2011.4.22)

【連載小説 13/100】 人類が築いてきた文明の成果を最も分かりやすいかたちで表現してくれるのは摩天楼、すなわち超高層建築物群だろう。 地上200メートル。 シンガポールマリーナベイに登場した「マリーナベイ・サンズ・ホテル」の最上階にある「サンズ・スカイパーク」から眺める夜景は、インドシナ半島の南端、赤道直下に位置する面積700平方kmという極めて小さな国家の中心部を宝石箱のふたを開いて見せるショーのごときだ。 シンガポールへ移動して3日目の夜となるが、僕は毎日ここへ

note14 : シンガポール(2011.4.26)

【連載小説 14/100】 その昔、激しく荒れる海に阻まれ誰も上陸できない島を目指したスリウィジャヤという王国の王子がいた。 嵐に遭遇し航海は困難を極めたが、勇敢な王子がかぶっていた王冠を海に投げ入れたところ、海が静まり未知なる島へと上陸できた。 そこに現れたのが一頭の大きなライオン。 「この島を治めるがよい」との許しを与えて立ち去った。 島に新しい国を築くことになった王子は、そのシンボルとして海の神と陸のライオンを合体させた“マーライオン”をつくり、守り神として祀る