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note22 : プノンペン(2011.5.13)

【連載小説 22/100】

一攫千金を目指してアンコール遺跡の盗掘を狙う若きフランス人考古学者のクロードと正体不明のドイツ人ペルケン。

かつてインドシナの地に繁栄を誇ったクメール王朝の“王道”をたどる旅は、サイゴン(現ホーチミン)からメコン川を船で遡行し、プノンペンを経てシェムリアップへと続く。

密林の奥深く眠る未知なる遺跡を探索するふたりを待ち受けるのは過酷な熱帯の自然環境と猛暑、原住民の襲撃。

そして“女神の像”を手に入れた彼らが最後に見たものは…


フランス人作家アンドレ・マルローの著作『王道』の粗筋を記すと以上のようになる。

この物語をエンターテインメントとして見れば、映画『インディ・ジョーンズ』シリーズのような考古学者の冒険活劇だ。
密林の奥に眠る謎の遺跡を探り当て持ち帰ろうとするも様々な困難に遭遇し、命を賭けた旅は二転三転…といった感じ。

が、『王道』を文芸作品として見ると現代の読者にとっては少し後味の悪いピカレスク小説になる。
20世紀初頭のインドシナ半島は西洋列強の植民地時代であり、この作品で主人公が盗掘する女神像はアンコールワットに近いバンテアイ・スレイの「東洋のモナリザ」がモデルになっていて、東南アジアの歴史的資産を西洋の学者が“金”のために命懸けで略奪する物語からは植民地時代の“負の歴史”性が重たく伝わってくるのだ。

作者アンドレ・マルローは小説家から政治家に転身し、ド・ゴール政権下で文化相に就任したほどの人物だが、なんと『王道』という作品はマルローの20代における実体験がベースになっていて、彼自身カンボジアで盗掘を行い、プノンペンで起訴された経歴を持つというからすごい。

毎年15万人の日本人ツーリストが世界遺産観光で訪れるアンコールワットへの旅も、1世紀前の西洋社会では限られた層がリスクを背負って目指す危険な旅だったのである。

さて、そんな『王道』の世界観を追体験する明日からの僕の旅だが、たどるルートはメコン川とトンレサップ川沿いになる。

インドシナに栄えた数々の王朝は、エジプトが「ナイルの賜物」であったのと同様、メコン川の恵みと交通・流通網がもたらした「メコンの賜物」としての古代文明である。

このメコンデルタをベトナムのホーチミンから国境を越えてカンボジアに入り、首都プノンペンを経てアンコールワットのあるシェムリアップへ至るルートに近年豪華リバークルーズ船が次々と就航し注目を集めている。

つまり“王の道”ならぬ“川の道”が旅人を古代へ誘うのだ。

残念ながら今は乾期で水位が下がりクルーズ船が動いていないので、そのルートを小さなボートで遡上しようというのが今回のオプショナルツアー。
なんとアンコール王朝の歴史と地理を誰よりもよく知る某クルーズ船のディレクターが休暇中にも関わらず僕の専属ガイドとしてナビゲートしてくれる贅沢な旅となる。
日本語を話す通訳のカンボジア人青年と3人で、5日間かけて川沿いの村々を訪ねながらシェムリアップを目指すことになる。

今回は道中トレッキングも多いため荷物を少なくし、またネットにつながらない環境の中を旅するのでMacBookAirは持参しない。

いにしえの旅行作家のように手帳とペンを持って手記を残していくので、シェムリアップ到着後、順にアップしていくことにする


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年5月13日にアップされたものです。

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