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君たちはどう生きるか【考察・解説】 意味がわからなかった人でも、作品の理解が深まり、面白く感じられるようになるための一解釈 【1万字以上で徹底解説】


はじめに

昨日、君たちはどう生きるかを見てきた。
結果からいうと、今までのジブリ作品で1番好きでお気に入りの作品となった。

しかし、世間的には、意味がわからない、理解できない、宮﨑駿は病んでいるのか?と言った意見も多かったり、
逆に満足した人でも、物語やストーリではなく芸術作品として素晴らしい、ジブリのパレードみたいに楽しむものだ、と言った意見があったりしたが、
どの意見や感想も、自分としてはしっくりこない。

自分も見る前はカオスな作品なんだなぁと覚悟したうえで見ようと思ったが、実際見てみるとめちゃくちゃ面白くて、
しかも、すごく作品としていて筋が通っていて、まともで秀逸にまとめられていた印象を受けた。
そして、もっと物語・ストーリーとしても素晴らしくて、秀逸に考えられた作品であることを少しでも知ってほしい!と思い立った。

最初見てよくわからないと思った人にも、よりこの作品の面白さを知ってもらって、
色んな解釈もありつつも、一解釈としてこう捉えるとすごく面白みが増すんじゃないのかということを感じたので、こちらに書き留めておく。

※ここからはネタバレが含まれますので、映画を見てない方はご注意ください。

※自分自身も作品を一度見ただけなので、内容・解釈・考察が間違っている部分もあるかもしれません。。そのあたりはご容赦くださいませ。


前提の説明

早速、解説と考察を書き始めたいところだが、この作品は説明がめちゃくちゃ足りず(あえてそうしているところもあると思うが)、それゆえに分からないところが多く、頭がこんがらがりがちになるので、まずは作品を理解するために必要と思われる前提から書き留めておく。

〈超要約〉

一言でいうと、マヒトの成長物語。
現実世界の出来事と異世界での冒険や経験から、考え方や価値観の変化により、そこからまた前へ一歩踏み出していくストーリー。

〈全体の前提〉

人によって解釈は違うし、どれが正解ということもない。
これを見て、どう思うか、感じるかはその人しだい。
ただし、おすすめの楽しみ方としては、見ている人はマヒトと同じ視点で様々な経験や体験をしていって、最終的にマヒトはこういう選択したけども、自分だったらどう考えて、どう生きていくかを考えていくのが良さそう。

実在する本で引用?されていたり、参考にされている本や話もいくつかある。
なので、その本や話の内容を知ると、よりこの作品の背景や意味合いがわかってきやすいと思う。

宮﨑駿自身の関連人物や、他ジブリ作品のオマージュもかなり多くある。ただし、補足で後述するが「これまでのジブリの総集編、パレード」として表現されているわけではないと感じた。
(少なくとも個人的な解釈としては、ジブリの総まとめのような見せ方をメインとして描くためにオマージュを多く取り入れているわけではないと思っている。ということ。)

基本的に映画内での説明はかなり少ない。
なので、普通の人からみると意味が分からないところが多いという印象になりがち。そして、映画全体的に一つの答えがない問題やテーマ、ストーリーである。

ただし、それゆえに余白があったり、読み手の解釈を問うような作品にもなっており、それがこの作品の面白みである。
そして、読み手の解釈が合ってても間違ってても楽しむこと、楽しもうとする気持ちで見るのが良いと思う。
言ってしまえば、どの解釈でも正しいと思うし、その人がそう感じたのならそれが正解だと思う。

だからと言って、この話自体が全く論理や世界観がズレていたりカオスになっていたりするわけではなく、個人的にはすごくまともで一貫していて、物語としても完結されていて、秀逸に創られた素晴らしい作品だと感じた。

〈異世界の前提〉

この作品で1番つまづきやすいポイント。
これも人によって解釈は違うが、基本は以下だと思う。

死後の世界であり、生まれる前の世界であり、地獄であり、天国。
それは世の中にある言葉では言い表せないような異世界であり、境界線も曖昧で、パラレルワールド的でもあり、現実世界とも繋がりのあるような世界。

時系列や空間はバラバラで、現実世界の理や常識とは全く別物であり、時空が歪んでいるようなイメージ。
正確には、現実世界との共通点もあるけど、全く違うところも多い感じ。
つまり、夢と現実の狭間のような世界。
全部フィクションの世界っぽくもありながら、一部現実っぽいところもあるから、余計理解がしづらくて、頭がこんがらがってしまう人が多いと思う。
しかし、この世界では現実世界の常識ではありえないことでも、当たり前に起こりうる世界であるので、今回の世界観としての演出や表現、見せ方自体は正解なのである。
→まず現実世界の常識や現状をまっさらにして、その異世界ではそういうこともあるんだという捉え方が良いかと思う。

同じ人や生き物でも、各世界によって姿形は変わる。
例としては、キリコの見た目や、インコの見た目など。違う世界では同じものでも、違う形や時系列で存在するということ。
(こちらも後述するが、アニメのサニーボーイや量子力学的な話が近そう?)

塔は現実世界も含めた色んな世界を繋ぐハブのような存在。
存在としては一つだが、色んな世界に同じ塔(見た目や大きさなどは異なる)があるイメージ。
個人的にはこのパラレルワールドのような異世界は複数あると思っている。

・この異世界はファンタジーや不思議な雰囲気があり、現実とは違う世界感ではあるが、結局は現実世界の縮図的な位置付けでもある。

上記を前提として、物語のあらすじを追いながら、途中途中で自分なりの解説を挟んでいく。↓↓↓

あらすじと解説


<01:冒頭・新しい母と学校>

主人公のマヒトは幼くして、火事で母親を亡くす。
数年経っても、マヒトの心の中でお母さんが消えずに、自分の中で感情や心の折り合いがつかず、モヤモヤしている状態が続く。

(マヒトの性格・人間性)
冒頭の火事になっている最中でも、寝起きであるにも関わらずしっかりと着替えて、かつ母親を本気で助けようと火の中に飛び込む勇気がある。
名前の印象に違わず、真面目で実直で正義感と責任感があり、まっすぐな心で悪は悪としてはっきりと罰し、恐怖にも負けず、芯のある男の子。

そんな中、父が母親の妹と再婚(時代背景的に事業を守るために戦略的な結婚?みたいなものもあったらしい)するが、マヒトはまだ心の折り合いがつかず、よそよそしいかんじ。
母の妹のナツコは自分は新しい母だといってマヒトに優しく丁寧に接する。
しかし、マヒトは新しい母とは認められずに、少し他人行儀的に距離を置いた形で物事を進める。

新しい家に向かい、そこの学校に転校するが、周りの貧しい子供たちと違って裕福であり、身なりもしっかりしたうえに、お堅そうでお高そうな雰囲気のマヒト。父が車を見せびらかすように登場したこともあり、周りからはあまり良い印象を受けられずに、些細なことから周りの子供たちと喧嘩し、ボコされる。

帰り道に大きめの石を拾って、自分で頭を殴り、血を流しながら帰る。
父に誰に何をされたか聞かれたが、マヒトは自分で転んだと嘘をつく。

[01:解説]

何故、自分の頭を石で殴り、さらに父には転んだ傷だと嘘を言ったのか。
こちらも色んな解釈があり、正解はないが以下のように考える。

正当でない理由で同級生からリンチされて腹が立ったので、より酷いことをされて大ごとに思われるように自傷行為をした。
しかし、マヒトは根が真面目なため、嘘で同級生たちを陥れるのは良くないと途中で思い立った。
さらに誰の力にも頼らず自分の中で折り合いをつけようと、何事もなかったように振る舞おうと思い立って、父には転んだということにした。

→ここでは、マヒトのような実直で真面目で正義感がある人でも、やはり人間は完璧ではないので、感情に身を任せて相手を陥れてやろうとする気持ち(悪意)は必ずしもあるということ。
しかしながら、その人間の中でも、人間性がしっかりしていて正義感・責任感が強い性格であるので最終的には自分の責任にしたという、
マヒトの中の相反する2つの性格・気持ちを表していると感じた。


<02:塔とアオサギ>

新しい家で不思議なアオサギと会い、不気味や塔の存在を知る。

ある日、ナツコが塔に導かれて、姿を消す。
それと同時に、アオサギに「マヒトの母はまだ生きているから塔に来い」と唆される。

マヒトとマヒトを心配するキリコ(おばあちゃん)は塔に向かうと、アオサギと倒れた母がいた。それは罠だとキリコは言うが、マヒトが近づき触ると、母が黒い液体となって溶けていく。
やはりアオサギによって騙されていたことを知り、対決となったが、マヒトの矢がアオサギに刺さって、とりあえず休戦。

塔の支配者である大叔父が現れて、マヒトがナツコに会いたいというと、大叔父はアオサギにマヒトを異世界に導くように指示する。
アオサギはやめたほうがいいと言ったが、結局マヒトとキリコとアオサギは異世界に移動。

(アオサギの性格・人間性)
とにかく嘘つきで、挑発的で、自分が得したり、自分に都合良く思い通りにするために人を騙す。
しかし、それは生きていくための知恵だという。
表面上だけ見ると、かなり悪くて嫌なやつ。
化け猫や化け狸のように、元来人を騙す象徴のひとつでもあるらしい。

[02:解説]

この時点でマヒトが塔に向かった理由は、ナツコを助けるためといいつつも、母が本当に生きているかもしれない、ほんの少しでもその可能性があるなら、全力で助けたいという藁にもすがる想いの方がかなり大きいと思われる。

周りには見せないが、母を亡くしたショックがずっと残っており、精神的にもかなりダメージを負っているので、少々危険で未知なものだとしても、自暴自棄になりながらでも、可能性にかけたい気持ちが強くなっていると思われる。
ナツコを助けたい気持ちもなくはないが、二の次のようなかんじ?
多分、マヒト自身も自分の行動や気持ちを理解しきれていない状態だと思う。


<03:異世界編突入>

異世界では海が広がり、大量の船が流れている。中には黒い人影が大勢いるが、ほとんどが死んでいる人とのこと。
そこで大勢のペリカンに襲われたマヒトは、異世界でのキリコ(若いバージョン)に助けられる。

マヒトも最初はその人がキリコだとは思っていなかったが、途中から気づく。
キリコ自身もマヒトの存在を知らず、年齢も全く違うし、そもそも異世界に何十年もいると言っている。
(これは前提にもある通り、異世界では時系列が異なり、同じ人でも違う姿形で、現実との境界線が曖昧なため、同じキリコだが、現実との共通点もありつつ、理屈が合わない部分も多くありうる。)

[03:解説]

何故この世界に来たのか聞かれると、ナツコを助けるためと答えるマヒト。
本当は母を取り戻したい気持ちが大きいのに、体裁を気にするような回答であり、また目の前の物事を追っていたら異世界にたどり着いたというのもまた事実であって、自分でもよくわからない感情と意思を持ちながら、答えているように思われる。


<04:異世界での日常>

その後、沼の主と呼ばれる魚を狩って、洞窟にいき、腹に刃を入れて、その魚を捌く。それをワラワラという生き物に与える。自然で生き抜くために、危険を犯しながらでも、生きるための殺生を始めて行ったマヒト。

その夜、ワラワラは満腹になって期が熟すと、膨らんで天に舞い上がる。多くのワラワラたちが集まって、DNAのような螺旋状を描き、星空の天界へと向かう。ワラワラは人間の生まれる前の姿であり、今まさに生まれようとする瞬間なのだとキリコは言う。

そこにペリカンの大群が来て、ワラワラたちを襲い食べ尽くそうとする。
そこにヒミという火使いの女が現れて、今度はペリカンを攻撃し、撃退する。
ワラワラたちをそうやって襲いかかって食べようとするから、火の攻撃を受けるんだと言って、因果応報、自業自得、至極真っ当な結末だと言わんばかりのマヒト。

その夜にマヒトの家の横に、火の攻撃を受けた老いぼれの死にかけペリカンが横たわっていた。
話を聞くと、ペリカンたちも大叔父によって異世界に連れられてきたが、ペリカンの食べる餌(魚)は全くおらず、生きるためにワラワラを食べるしかないのだという。しかし、食べたら食べたで火の女に焼かれてしまう。

そのまま、老いぼれペリカンは命を引き取ってしまい、何かを感じたマヒトはそのペリカンを土に埋めて埋葬する。

[04:解説]

異世界編になってから、マヒトは様々なものをみて、体験する。
その中でもキーとなるのは命と生きることについて。

まず異世界に着いてすぐに、死んでいる存在(黒い影)を見る。
また沼の主を狩って、殺生を行い、命をありがたくいただく。
そして、それは自分が食べるためだけでなく、他の物乞いする者や、ワラワラという生き物のために行う行為でもあるということ。
また、そのワラワラもこれから現世で命になろうとするもの。
さらに、それを生きるためにしかたなく襲い食べようとするペリカンたち。
またワラワラを救うために、ペリカンが死んでしまうほどの火の攻撃をするヒミ。

おそらくマヒトはこれまで生きてきた中で、ここまで他者の命や生きることについて、深く考えて、体験したことはなかったであろう。

このように異世界では、現実世界からするとあり得ないことが多く起こるが、ある種、現実世界の縮図のような光景を見たり経験することとなり、マヒトの成長のきっかけとなる。


<05:ナツコ救出編>

マヒトは「ペリカンは、ワラワラを襲ったから攻撃されたのだ!」と言ってペリカンを悪者のように言っていたわりに、お墓は掘ってあげるんかい!という思いのアオサギ。
その後、キリコの家でアオサギとマヒトは話し、全く正反対の意見をいったが、それを見たキリコはある意味相性が良いといって、一緒にナツコを探すように促す。

そうして、アオサギとマヒトは渋々一緒にナツコを探す旅をするが、途中でインコに占拠された家があった。アオサギいわく、ここは元々インコはいなかったという。
(インコもペリカンのように大叔父に連れてこられた?)そして、インコは人も食うらしい。

アオサギがインコの目を引いている隙にマヒトが中に入ろうとするが、中にもインコが大勢いた。インコはお待ちしておりましたといって、部屋の奥まで案内するが、手には包丁を隠し持っており、今にもマヒトを食べようとしていた。
やはりインコも弱肉強食の世界の中の1生き物であり、家などの陣地をテリトリーとして占拠したり、他者を騙して食べようとしたり、社会性を持って集団となり、コミュニティを生成しながら社会システムを構築して、生きているらしい。

そこにヒミが助けにきて、一命を取り留めた。
ヒミの家ではジャムバタートーストを振る舞ってもらい、その味が母の作ってくれたものに似ていることに気づいた。この頃から、ヒミは火を扱うことなども相まって、自分の母(異世界での姿)であると気づき始める。

ヒミはナツコ(妹)の居場所を知っていると言って、案内する。インコの警備をかいくぐりつつ、塔の地下にあるナツコのいる産屋に到着する。
周りの壁(石)も電気を帯びて、ここには近づくなと意志を持って反応しているかのように、部屋への侵入を拒んでいる。
ヒミも私は産屋には入らないといって、そこで待つもいう。

マヒトは覚悟を持って産屋に入ると、ナツコは式神のようなものが舞っている儀式のような雰囲気のベットの中で寝ていた。
ナツコを救うために起こして話しかけるが、式神のような紙が荒ぶって、マヒトの邪魔をしてくる。

ナツコも起き上がり、マヒトが来たことに気づいたが、何故来たのか、帰れ!と驚きながらも立ち去るように叫ぶ。そして、マヒトに向かってお前のことは嫌いだと言い放つ。

マヒトはあっけにとられて一瞬ショックを受けるが、初めてナツコを母さんと呼んで、最後まで助けようとした。

[05:解説]

異世界突入編では命や生きることについて深く感じ、その後のナツコ救出編では、弱肉強食の無慈悲な世界の中で生き抜くためにアオサギ・ヒミなど仲間との協力が描かれていると感じる。

強く正義感があり実直なマヒトでも、その人間性や性格だけでは、1人の力だけでは、目的は達成できない。
また色んな人と出会い、協力することで、学びながら成長できることも感じる。


その経験を得ながら、ナツコを助けたいと思う気持ちも強くなっていく。それはマヒト自身も気づかなかったが、産屋でナツコを助けるときに母さんと呼んだことで、自分自身も気付かされる。

ナツコは現実世界では優しく丁寧に接してくれたが、異世界であったときはマヒトのことが嫌いだ!とはっきり言ってきた。
マヒトは一瞬かなりショックを受けて(せっかくこんな大変な思いをしてまで困難を乗り越えて助けにきたのに酷い&あんなに表面上は優しく接してくれてたのに実は本当は嫌いだったのか!という二重のショック)、時が止まったような感じであったが、これまでの異世界での経験により成長したマヒトは、どんな人でも受け入れがたくても耐えなければいけないこともあり、相手には相手なりの事情や感情がある。
さらに、今まさに命を身ごもっているナツコをやはり助けたい!という気持ちもあって、新しい母と認めながらも、最後まで助けようとしたのだと思う。

本当の母を取り戻したい!という思いは消えたわけではないが、ある程度のところで折り合いをつけて、次に進まなければいけないと思い始めた瞬間でもあると感じる。


<06:大叔父と石>

その後、気を失って倒れてしまったが、導かれるように塔の頂上へと行き、そこで大叔父と出会う。
大叔父は1人机で、積み木のようなものを積み上げる。
それはギリギリのバランスを持って、積み上がっている。少し動かしてまたギリギリでバランスを取り、これで1日は世界が安定させられると言った。

外に出ると巨大な石が宙に浮いている。
この石から世界は少しづつ生まれていき、創り上げられていて、まだ完成の途中だという。

その世界を創りあげる巨大石のバランスを保つために、大叔父は積み木をしているらしい。
すなわち、その積み木のバランスをとることは、この世界のバランスを取ることと同義であるということ。

マヒトには一目で、その積み木のバランスの取り方がすぐにわかった。
積み木を一つ加えて、バランスをとるイメージがすぐに思い浮かんだ。
つまり、マヒトには世界のバランスを取る能力が長けていて、その世界を創造する巨大石の管理者的な位置付けのポジションの大叔父を継げるほどの才能・スキルは持ち合わせていた(もしくは異世界での成長により才能・スキルが開花した)ということがわかる。

大叔父はもう年老いてしまって後継者を探していた。そしてマヒトの才能に気づき、継いでくれることをずっと待っていた。
マヒトにその旨を伝えるが、マヒトは断った。

大叔父の積み木は、木ではなく墓の石だと言うマヒト。そして、そこには悪意があるという。その通りだと言いつつ、やはりそれを直感で感じ取れて、理解できるマヒトに継がせたいという大叔父。

(中略)

ヒミが助けに行くために、マヒトは再び塔の頂上に向かう。
そこで再び大叔父と出会う。
大叔父は悪意のない石を13個用意した。
これで問題ないだろう、だから継いでくれと再び懇願する。
しかし、マヒトはそれでも断る。
頭の傷を見せて、これは自分の悪意の印だという。
その傷は自分の悪意によって生み出された傷であり、
その石自体に悪意がなくても、自分自身にすでに悪意は少なからず介在するので、後継者にはなれない、管理者にはなれない、と考えたのである。

最終的には、自分の生きる世界に戻って、新たな気持ちで日常を過ごすことを選び進んだ。

[06:解説]

ここでは結局、何が言いたかったのか。
まず大叔父は積み木でこの世界のバランスをとっていたが、年も年なので、その役割・ポジションとしてもっと才能のある後継者を探していた。
そこで、自分以上に適任のマヒトを見つけたので、継いで欲しいといった。
そもそも、その役目は大叔父の子孫でないと継ぐ権利はないと言う。

つまりそれは、世界の創造主・管理者的な存在で、その人しだいで世界は如何様にも変えられて、ある程度コントロールできて、しかも選ばれた人でないとできない存在であるということ。
そして、大叔父はそのポジションは、世界が平穏に安定的に保つためには必要な役割であり、真っ当で正義感のある本質を見抜ける者がやるべきだと思っている。

対して、マヒトはそこにはどうしても悪意が介在してしまうからやらないという。
この「悪意」というのは、わかりやすくいうと「人為的」ということである。つまりマヒトは、誰か1人の思いや考えで世界を管理・コントロールしてはいけないと考えているのだと推測する。
なぜあえて「悪意」といっているかというと、自分にとっての「善意」は、時に他人にとっての「悪意」となる、ということをこの異世界で学んだからだ。
つまり「人為的」である以上は、必ず「善意」≒「悪意」は介在してしまうことであり、例え善意であったとしても、誰かにとっての悪意になりうるということである。

だから自分がどれだけ出来た人間で素晴らしい人格だとしても、世界のバランスをうまく取れて、管理するための考え方がわかって、その才能があったとしても、誰か1人の意思で人為的に世界を統制してはいけないと考えている。

それは、自分が正義だと思ってペリカンへの攻撃に最初は賛成したが実はペリカンも被害者という側面があったように、悪いやつだと思っていたアオサギが意外といいやつだったかのように、何が正義で何が正しいかは、その人の立場や状況によってすぐにひっくり返ってしまうほど曖昧なものだからだ。

世界は、弱肉強食で裏切りも嘘もありふれていて残酷である。
しかし一方で、仲間と絆や協力、他者を助ける心、命そのもの、家族の愛など美しいものもある。
また、善悪もその立場や見方によって変わってしまうものであり、自分や他人の正義が対立することもあって、絶対に正しいということもないものである。
それを知ったうえで、経験したうえで、考えたうえで、これからどう生きていくか。

それを知ったうえで、世界の管理者を継ぐことを断って、自分の生きるべき世界で、自分の道を進みはじめる、マヒトの成長物語である。


補足

・ナツコが塔に行った(導かれた)理由
ナツコが自分の意思ではなく、塔の魔力(異世界の魔力)に引かれていったのだと思われる。
何故導かれたかというと、塔の中で儀式が行うため。それは他者が邪魔することがかなりの禁忌(タブー)であることから、ものすごく大事で神聖なことであることがわかる。
ナツコの姉(マヒトの母)も一度塔に行って、一年後何事もなかったように戻ってきた、という話もあり、つまりこの儀式は大叔父の子孫を身籠った母が必ず訪れる通過儀礼なのだと推測する。その儀式を通じて生まれた子供は、大叔父の役割・ポジションを引き継げる権利を持つのかもしれない。
ナツコの儀式は途中でマヒトが邪魔したため、ナツコから生まれた子は、そのある意味でいう呪縛から解き放たれた子供になったのだと思う。

・石=意思?
マヒトの頭の傷は、自然的な喧嘩での傷ではなく、人為的な石(意思)によるもの。
また、大叔父の世界を生み出す巨大石も、それ自体が意思をもっている(電気を帯させて、気に入らないものを阻害するなど)ような石。
さらに、大叔父が積み上げていたものは積み木(木)ではなく、墓の石であり、大叔父の意思によって積み上げられ、創造されたもの。
自然的なものでも何かしらの意思は介在しているというとなのか。

・マヒトは精神異常から幻覚を見やすくなっていた可能性もある。
母を亡くした深いショックから、幻覚を見やすく、異世界に入り込みやすい(マヒト自身も異世界の世界観に疑問を持ちづらい)状態になっていたとも推測できる。
新しい家で寝られずに部屋からでて階段上で座り込んでいる時に、階段が燃えて母が出てきたのが夢(幻覚)だった描写などもそれを表しているのかもしれない。

・マヒトはナツコを好きになっていた?
他の方の解説・考察を見ていて、マヒトはナツコのことを好きになっていたのではないか?という解釈の人もいた。
そのため、父とナツコのやりとりはマヒトとしても複雑で、頭の傷はナツコの気を引くためで、ナツコを助けたいのも好きになったから、という見方である。
そのパターンもたしかにあるな、と思ったので一応参考として記載させていただいた。

・パラレルワールド的な異世界であるがゆえのジブリオマージュ
作品の随所にこれまでのジブリ作品を彷彿させるようなキャラクターデザインや演出が見られる。
自分の解釈であるが、それはジブリの集大成やパレードとして、これまでの総まとめ的なものではなく、この1作品の世界観としてパラレルワールド的な異世界なので、同じでも全く違うキャラでもなさそうな感じで、「そのキャラのそういう世界線もあったかもね?」みたいな他の世界とも繋がっているようなそうでもないような感じで、過去か現在か未来かわからないような異世界の世界観を醸し出すために、あえて散りばめた要素なのではないかなと思う。
これによって、見ている人はなんとも不思議な世界(ある意味カオス的)な夢と現実の狭間のような気持ちになって、より異世界の異質さ?神聖さ?パラレル要素?のような言葉では形容しがたい雰囲気が加えられているのだと思った。

・アニメ Sonny Boy -サニーボーイ- との共通点
個人的にめちゃくちゃ好きなSonny Boy -サニーボーイ- というアニメがあるのだが、物凄くざっくりいうと、そのアニメを2〜3時間の映画にギュッと濃縮したような作品・物語という印象も受けた。テーマや世界観も似ているところが多いと感じた。
もう少し詳しくいうと、サニーボーイも長良という少年が突然現れた異世界での経験や体験により、一歩ずつ成長していき、全てを経験した上でこれからどう人生を歩んでいくか。と言った話なのだ。
しかも、この作品も説明がめちゃくちゃ足りずに普通の人からみたら理解できないところも多いと思う。(自分もYouTubeやブログの考察など見ながら、やっとなんとなく分かって理解していった)
しかし、分からなくてもなんか楽しいし、分かるともっと面白いかんじである。
そして、サニーボーイでも色んな異世界があって、その世界によって時系列や空間も全く違くて、その管理者みたいな人もいて、人や生き物もその世界によって年齢や姿形が変わったりしていて、すごく共通点が多いと感じた。
こういう作品が好きな人にはめちゃくちゃおすすめなので、気になる人はぜひ見てほしい。


最後に

この作品を見てみて、世間で言われている印象と、自分自身の解釈や感じたことがあまりにも違ったので、思わず勢いでnoteを書いてしまった。

自分としては物凄く面白くて深い内容で素晴らしい作品だと思ったので、何もわからなかった、もしくはマイナスな感情しか感じなかったという人がいれば、それはなんだかすごくもったいないなと思ってしまい、少しでもプラスに感じてほしいなと思い書き留めてみました。

また違った解釈や視点、考え方の方々も、こういう考え方もあるのかな?という温かい目で見ていただけるとありがたい。

一解釈ではあるが、この考え方で少しでもこの作品をもっと面白いと感じてもらったり、一つの答えとして納得してもらったり、逆に自分なりの考えを持ってもらえたらな良いのかなと思っている。

そして、もしこの記事が良いなと思っていただけた方は、どうか周りの人にも広めていただき、よりこの作品を楽しんだり、好評してくれる人が増えると良いなと思ってます。
気に入っていただけた方は、サポートもしていただけると大変嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


※一旦とりあえずアウトプットしたかったので急ぎで書いてしまいましたが、後々で足りなかったところや、さらに理解が深まったことがあれば、追記するかもしれません!


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