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永遠に効く魔法の薬

入園式に向かう親子とすれ違った瞬間、タイムトラベルした。
桜吹雪が舞う校庭を母と手を繋ぎ歩いた私の一番古い記憶。小学校入学式。

人見知りすぎたのか学校に馴染めなかったのか、私はそこからしばらく口を開けない子になった。声が出せない。先生や友達に話しかけられても会話が出来ない。
学期末の通信簿で状況を知り母は驚く。家ではこんなに饒舌なのに。

夏休み、母は一計を案じ小児科医と結託して「声の出る薬」を私に処方した。これを毎朝小さじ一杯舐めていくと声が出せるようになるよ、と。

薬は、実はきな粉だった。
そうとは知らずに私は毎朝きな粉を舐め登校した。

不思議なことに効果が出た。
ある日、学校から飛び跳ねるように「今日、声出せたよ!」と帰宅した。
そこからはあれよあれよ。朝礼でコントまでするひょうきん者になった。

薬が効きすぎちゃったのかしらん。
今も人前に出る仕事の時、私はきな粉を舐める。


[今日の十七音]


万愚節

母の言ふ秘薬の効果万愚節

(ははのいうひやくのこうかばんぐせつ)
【季語(春): 万愚節、エイプリルフール】




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