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金色の稲穂|掌編小説(#シロクマ文芸部)

 懐かしい色だった。

 ――そうか。もうすぐ稲刈りか。

 俺の地元では稲作農家が多く、そこら中、田んぼだらけだ。9月に入って稲刈りが近づくと、田んぼを埋め尽くす稲穂が、夕日を浴びて黄金色こがねいろに輝く。その光景は、2023年にこの世を去った作曲家、ピアニストであるジョージ・ウィンストンのアルバム「Summer」を思い起こさせる。

 都会に引っ越すと、田んぼなどというものからは無縁になるので、7年ぶりの帰省は、一瞬だけ別の国へ来たかのように錯覚した。

 高校の時、周りのみんながボン・ジョヴィだ、エアロスミスだ、ジャミロクワイだと、洋楽ばかりを聴く中、俺はいつもジョージ・ウィンストンのピアノに耳を傾けていた。嫌でも耳に入ってくる洋楽に、「あんなジャカジャカとうるさい音楽のどこがいいんだか」とうんざりしていた。

――ピアノソロっていうシンプルで、だけど奥深い音楽の良さを、なぜ分からない?

 そんな知った風なことをチラつかせ、何の意味もない優越感に浸っていた俺は、今思うと少し、いやかなりダサかったかもしれない。

 ――久々に聴いてみるか。

 黄金色の田んぼを見て、ジョージ・ウィンストンのピアノと、かなりダサかった昔の自分に会ってみたくなった。

 ――あれ?

 風に乗って、ピアノの音が聴こえた気がした。

 いや、金色こんじきの稲穂が歌っているのかもしれない。

 ――やっぱり空耳か。

 そうに違いない。

(了)


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※タイトルを「稲穂とピアノ」から「金色の稲穂」に変更しました。

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