見送られたい|掌編小説
「見送りなんか行かないよ。ドラマみたいでカッコ悪いし」
東京から三重に転勤になったと伝えると、彼女はそう言い放った。
僕は「まぁ、見送られるほど大げさなことじゃないから」と、心にも思ってないことを言う。
新幹線の発車2分前――。
「本当に来ないんだな……」
ガッカリを通り越して呆れた僕は、売店で買ったカツサンドを頬張る。
少しして、彼女からメッセージが届いた。
「バカ面してカツサンド食ってんじゃないわよ」
思わずお茶を吹き出し、きょろきょろと辺りを見回す。
「来てたなら、声かけてよ」
スーツにこぼしたお茶を拭きながら、そう短く返信すると……。
「後ろ向いてみな」
ゆっくり振り向くと、「あっかんベー」と舌を出す彼女が立っていた。
(了)
Twitterの「毎月300字小説企画」より。
今回のお題は「おくる」でした。
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