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犬を飼うのが夢でした4

モカは生後4カ月目のワクチンが未接種だったので、ペットショップに併設されている動物病院で接種することになっていました。

私は息子を誘ってみようと思い立ち、動物病院で待ち合わせをしました。
もちろん夫には内緒です。

動物好きの息子にモカもすぐに慣れてくれて、これで家族皆が無事モカと対面することできました。

モカを介してその後も息子と連絡を取り合い、週末はモカの散歩を一緒にするようになりました。

万が一夫に見つかってはまずいので、自宅から離れた場所を選ぶようにしました。

息子は大学に行く以外はほぼ家にこもって寝ているようで、痩せて顔色も白く何事にも無気力でしたが、モカに会える日だけは生き生きして見えました。

たまにアパートを訪ねると、床は埃とゴミだらけ、キッチンも洗い物が放置されておりこのままだとゴミ屋敷になりそうな予感がしました。

彼には家出する前から下痢と脱毛の症状がありました。
これは明らかに夫の暴力が原因だと思ったので、精神科で薬をもらい様子をみていました。

その後一人暮らしを始めてしばらくすると、
仕事中に私の携帯に「胸が苦しい、心臓が痛い」と切羽詰まったように訴えてくるようになったのです。

家を出る前から心臓が痛いという訴えはしていたのですが、その時はあまり深刻に考えず聞き流していました。

症状を聞いて調べてみると、心臓病とは違うようでした。
念のため検査をしましたが、循環器系は全く問題がないと診断されました。

その症状は、心臓がバクバクし居ても立っても居られなくなるような苦しさを伴い、スーパーで買い物をしているときや、電車に乗っているときに突然襲ってくるのです。

症状が現れてから1年近くたってようやく、それが「パニック障害」だと判明しました。

病名が分かってホッとしたものの、その症状の苦しさ、完治の難しさなどを知って私は少し落ち込みました。

本人にしか分からないパニック障害独特の発作は本当に恐怖そのもののようで「正に死ぬ思い」だと当事者誰もが口を揃えて言っています。

息子がこの恐怖と一生付き合っていかなければならないのだろうかと思うと取り返しのつかないことをした自分を責めるしかありません。

夫の暴力を回避するために物理的に距離を取れば、息子は元気になるだろうという私の考えは甘かったのです。

つづく


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