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1.企業内デザイナーか独立してクリエイターか問題。

台東デザイナーズビレッジ村長の鈴木です。このNOTEは2010年に発行した著書「好きを仕事にする自分ブランドの作り方」の内容を一部を除いて掲載しています。この本は、モノづくり系クリエイター(アパレル、皮革、ジュエリー、クラフト、雑貨など)が独立起業して自分のブランドを作るための内容を、当時のブログを基に再編集したものです。

第1章扉

あなたがなりたいのは、どんなデザイナーですか?
ここでは、自分ブランド立ち上げ前に考えなければならないことを紹介しましょう。

テーマ01:デザイナーの種類を知ろう

◆企業内デザイナーと独立系デザイナー

アパレルや雑貨のデザイナーには、ふたつの種類があります。それは企業内デザイナーと独立系デザイナー。前者はアパレルメーカーなどに就職してデザイナー職に就き、後者は独立したデザイナーとして自分の資本でブランドを立ち上げます。言い換えれば、就職するのか、起業するのかということです。
両者の違いは、企業内デザイナーとして勤めれば安定と義務が得られるのに対し、独立系デザイナーであれば自由と責任が得られること。
どちらのデザイナーを選ぶのかを考える前に、まずは「将来どのような仕事で生活しているのか」という人生目標が必要でしょう。そのうえで、デザイナーとしてのキャリアプランを立てていくべきです。

現在活躍している有名デザイナーの多くは、パターンや縫製、デザインといった基礎となる仕事を下積み時代に大量に経験していおり、その大量の経験はデザインの質に昇華し、仕事の精度とスピードにもつながります。
なにごとも1人前になるには、最低1万時間の経験が必要だと聞いたことがありますが、これを一般的な会社の勤務時間に置き換えると、約5年。これが1人前といわれる目安です。この下積みを企業で積むなら企業内デザイナー、ひとりでやるなら独立系デザイナーです。
自由度の高い独立系デザイナーに憧れる人も多いでしょう。でも、独立・起業に必要なノウハウやネットワークを身につけるためと考えれば、企業もかなり役に立ちます。企業での仕事と個人での仕事、両方を経験したほうが、それぞれを活かす方法もわかるのではないでしょうか。

p35企業デザイナーとクリエイター図


◆社員向きか起業家向きかを考えよう

「仕事に何を求めるのか?」
「なんのために仕事をするのか?」
「仕事をした結果として何を得たいのか?」

これらの答えは、きっとひとりひとり違うでしょう。しかし、答えは違っても「、なぜ」という質問を繰り返すことで目標がはっきりしてくるのではないでしょうか。ここを見つめることで自分の仕事のスタイルが見えてきます。そして、数ある選択肢のなかから、何が自分にとって「幸せ」なのかを考えることもときには必要となります。

では、「自分でオリジナルブランドを立ち上げたい」という欲求に対しても、自分の幸せを加味しながら、「なぜ」という質問を繰り返してみましょう。その先にある選択肢によって、今後の行動が変わるかもしれません。
どこにたどりついても、自分で選ぶならどれも正解。どちらが自分に向いているか、どちらを選びたいか。これは、人から強制されるものではないのですから。

p37なぜオリジナルブランド図

◆好きなデザインをするなら独立系デザイナー

企業内デザイナーになる道を選択しても、就職してデザイナーになるのはかなり難しい状況です。
例えば、学生に人気ナンバーワンでzuccaやTSUMORO CHISATOを擁する株式会社エイ・ネットの場合、総合職は2500人のエントリーで11人採用、販売職は1800人エントリーで36人採用、専門職は作品審査段階で250作品中採用は4人だとか(『ファッション販売』’08年3月号より)。人気の会社でデザイナーになるのは狭き門です。
本当に好きなデザインをすることを仕事にしたいなら、独立しなくてはならないでしょう。

独立系デザイナーのメリットは、自分のデザインで勝負できることと、やりたいことに対してすぐに動けること
業界に何十年と身を置いている経営者たちと話すと、過去の成功体験や失敗体験を引きずっていることが多いように感じます。例えば、「○○年前に、その商品を販売したけれどダメだった」とか「○○をするには、絶対こうしないとダメ」とか。これら過去の体験を新しいことに挑戦しない言い訳にしていることすらあります。このような企業でデザイナーをしていても自由なデザインはさせてもらえません。
その点、独立系デザイナーには縛られるような過去の体験がなく身軽です。「こうしなければいけない」「こうするものだ」という思い込みがないぶん、自由に動けるでしょう。ですから、自分で体験していないことやアドバイスに対して、「まず動いてみる」ことができます。

企業もブランドもまず動かなければ、成長はありません。100の企業力があっても動かなければ100×0=0。1の企業力しかない創業者でも、1歩動けば1×1=1になります。この0と1の差が大きいのです。

テーマ02:成功しやすい道を選ぶ

◆退社するのはちょっと待って!

会社から独立して自分のオリジナルブランドを立ち上げたいという人の多くは25~34歳くらいです。ある程度のキャリアを積んで仕事に対しての自信を持ち、がんじがらめに束縛される会社にいるより、独立して自由にやりたいと思う年頃なのでしょう。

そして、デザイナーとして独立し、経営者の道を歩むとしましょう。そこではじめて気づくことがあります。会社にいるときは組織が対応してくれた問題を、独立後は自分自身で解決しなければなりません。会社員時代は苦手だからと人任せにした仕事もすべて自分でやることに。さらに、独立してもスタッフを雇うくらいの事業規模にならなければ、十分な収入は得られません。そこにはスタッフを使う新たな苦労も発生します。

今、会社に勤めているなら、独立後の自分に何が必要かよく考えてください。そして、まずは会社の中で自分の能力を発揮し、自分のやりたい仕事ができる環境を作りあげること。成果を出しながら、周りを上手にコントロールする訓練を積むのです。これも独立したときに役立つでしょう。
また、独立して会社の看板がなくなれば、生地屋や縫製工場、小売店が相手にしてくれなくなることもあります。そうならないよう、会社員時代に強い絆を作っておくべきです。

つまり、後先考えずに辞めるのは、オススメできないということ。十分に能力を高めて、周囲から独立できると認められるくらいになってから独立してもいいのではないでしょうか。大きな成果を掴むには、しっかりとした基礎力が必要なのですから


◆学生は起業より一度就職を

学生時代にブランドを立ち上げて、成功しているデザイナーは、マスコミに取り上げられやすいので、同じように成功できると思う学生も多いかもしれません。でも、それはほんのひと握りのデザイナーに過ぎません。
学生は、企画力とデザイン力だけで勝負できるような錯覚を持ちます。個性だけならプロを凌駕することがあるかもしれませんが、「売れるもの=求められるもの」を作る能力に欠けているので、ビジネスになりにくいのです。

東京コレクションにも参加しているあるデザイナーは、学生がすぐに起業して独立系デザイナーになることには反対で、まずは企業に就職してスキルを身につけろ、ということを言っています。私も同感。
ファッションは何十年やっている人でも厳しい過当競争の業界です。
仕事の仕組みを理解しないまま、自分で試行錯誤するのも勉強にはなるでしょう。でも、まずは企業に入って、経験とネットワークを作ることが不可欠です。

アパレルで仕事を始める人がつまづくのが、いいパタンナー、いい縫製工場、いい素材業者などのモノ作りのプロをいかに揃えられるか。この善し悪し、クオリティやコストでビジネスの骨格が決まると言ってもいいでしょう。
会社に勤めて、必要なネットワークを作る。生産体制を勉強する。それから起業することをオススメします。

技術職にしても同様。学校で習う技術と実際に現場で必要なスキルには、かなりの違いが。例えば、パタンナーの場合は仕様書を作り、縫製工場に指示をきちんと伝えることが大切です。さらにデザイナーやMDとのコミュニケーションも重要に。
それらは企業にいるとすんなり学べることが多いのです。企業に勤め、営業でも販売でも生産管理でもかまわないので、独立したときに武器になるさまざまなスキルを身につけてからの起業をオススメします。独立費用も貯められれば、さらにいいですね。


◆コラム:始めるのは簡単でも続けるのはたいへん

デザイナーのなかには人付き合いが苦手だから、会社員よりモノ作りで 起業する道を選んだと言う人もいます。でも、人付き合いが苦手な人は会社にいたほうがいいのではないでしょうか。
会社員なら、最低限のコミュニケーションのみでも仕事と給料が与えら れます。製造部門に入ってしまえば、ほとんど人付き合いなしでもなんと かなります。
一方、起業した場合は、デザイナーでも自分自身が経営者。経営者の仕事の大半は、人付き合いによって生まれます。たとえどんなに能力が高くていいモノを作っていても、黙っていては誰も仕事をくれません。人と関わることによって、自社を売り込み、仕事を得なくてはならないのです。
そして何より大切なことは、起業したら自分の将来に対して自分で責任 を負わなくてはなりません。会社にいたときのように、会社を頼ることはできなくなるのです。
またファッション関連で創業を目指す人に多いのが、「今の仕事よりもラ クに成功できそうだから」という勘違い。
確かにスタート時点では必要な資本も少なく、自分の技術を活かすだけなので簡単です。
しかし、始めるのは簡単でも、続けていくのが大変なのが仕事。起業す る人は、近い未来しか見ていないような気がします。なかには自分にとっ て都合がいい夢しか見ていない人も。それでもかまいませんが、一生涯の 仕事にする覚悟があるのかどうかを確認してみてください。
アパレルは何十年やっている人でも厳しいのが現状です。そこになんの 知識もノウハウもないまま飛び込んで、どうやってビジネスにしていくの でしょう。プロが苦戦していることを、自分はどうやって乗り越えるのか?
何を武器に戦うのか? その武器は果たして武器になっているのか? 自分がやったことがない仕事は簡単にできそうに思ってしまいがち。でも、実は厳しいことを覚悟しなければなりません。

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