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46歳、スタートアップへの転職 - Vol.6 転職実現編 -

▼はじめに

・このnoteに関して

このnoteは私が46歳で大企業からスタートアップに転職した体験記です。
前回までの記事:【1】きっかけ編【2】葛藤編 【3】転職活動準備編
【4】転職エージェント利用編 【5】現実直視編

・今回のnoteのサマリ

転職活動を始めましたが、オファーをいただいた企業を全て辞退するなど、紆余曲折を経て、仕切り直しをしてスタートアップ企業に転職をするまでを書いています。

▼45歳、我に返る 

・想像以上のスピードで進む選考

私は自分の将来への漠然とした不安から転職を考え始めました。ただ悩む日々が続いていた中で、実際に転職活動をしてみようと決意します。転職活動によって世の中や転職市場を知り、客観的に自分の市場価値を知ることで将来の方向性を決めていきたいと考えました。

実際に行動を起こしたのは転職を考え始めてから5年後のことでした。転職サイトの登録に1ヶ月かかり、約3週間かけて6社の転職エージェントと面談をしました。そして4社の求人へ応募し、全ての企業から1次面接の案内が来ました。うち2社が最終選考に進み、オファー面談の日程が組まれたのは求人への応募から1ヶ月後のことでした。

気付いたらオファー面談日程が確定し、意志決断をせねばならないタイミングが迫っていました。面接準備や面接の日程調整、そして自身の業務と色々なものが一気にすごいスピードで並行して進んで考える間も息つく暇もなかった、という感覚です。

転職するかどうかで5年間もぐずぐずと悩み、転職サイトの登録に1ヶ月もかかっていたことを考えると、求人に応募して1ヶ月でオファー面談という状態は、私にとっては想像すらしていなかった状態でした。だからこそ、オファー面談までの時間に一度落ち着いて考える時間をとる必要性を感じました。

話は逸れますが、“転職活動は一度動き出したら止まらない“という感覚は経験してみないと分からないことだと感じました。短い時間で意思決定をしていくことが必要になりますので軸がブレたり、勢いに流される可能性がありことを留意しておかないといけません。また、日常生活に転職活動がプラスされますので、体力・精神力的な疲労がいつも以上に溜まり、思考力も奪われていくと感じました。私は後輩などからキャリアや転職活動の相談を受けることが多いのでアドバイスする上で良い気づきとなりました。

・根拠のない自信を疑う

ゆっくりと考える時間を取る暇もなく、あっという間に選考が終わり、何らかの意思決定をせねばならない局面になりました。

オファー面談まで選考が進んだ企業は2社でした。当該企業で携わるサービスは、いずれの企業においても当時在籍していた企業の同業種ですが、事業のフェーズと就くポジション(役割)は全く違いました。つまり経験が100%活かせるわけではなく、どちらかというと活かせる経験が少ない、という状態でした。そのため、自身のCANの拡大の観点では最高の環境だと感じていました。待遇面も悪化することを想定しておりましたが当時の年収と遜色ない提示をいただいており、業務内容とともに全く文句のない条件でした。転職エージェントからも当然どちらかの企業に入社しますよね、というようなアプローチを受けているくらいの好条件でした。

しかし私は、活かせる経験が少ないと感じることがかなり気になっていました。期待に応えられないのではないかとの心配が強くあったからです。一方で全く根拠はないですが、期待に応えられる自信もありました。私の人生は常に壁にぶち当たっていて、出来ないことを出来るように努力して壁を乗り越えてきた、という自負がありました。根性論・精神論になってしまいますが、努力すればなんとかなる、と楽観的に捉えている自分もいました。

ただ、今までの努力によって壁を乗り越えられたのは、努力することや時間を許容し見守ってくれた会社や上司や同僚がいたからだ、ということも分かっています。この観点で、採用する側の立場に立ったときに、私の経験をどう捉え、どこまで何を期待しているか分からない部分が多々あったこと、一緒に働く人たちや社風と合うかどうかを入社意思を決めるまでに知っておきたいと考えました。

私は迷いや不安をオファー面談の設定の際に転職エージェントに伝えました。迷いや不安を伝えることでこの良い話が破談になる可能性もありましたが、45歳での失敗はできない転職ですので、根拠のない自信を疑って慎重に行くことを決めました。結果、1社は一緒に働く人たち(同僚)との面談、もう1社は経営層との会食を実施することになりました。

・不安をとことん解消する

不安の解消の場を設けたことは結果的に大正解でした。
そして、2社ともオファーを辞退しました。

一緒に働く人たちと面談した企業は、明らかに私のスキルでは採用目的が果たせない、と面談の際に私に伝えてくれました。面接選考では、事業責任者や担当役員の方々とお会いしていたのですが、彼らは当該ビジネスの推進経験がなく現場を全く知らないため、課題解決の打ち手の解像度がズレているようだと感じました。現場と管理側の意思疎通が図れておらず溝のようなものを随所に感じたことが辞退のポイントとなりました。

経営層と会食した企業は、仕事内容やミッションには問題なかったのですが、人間的な価値観の違いというか相性という観点で違うと感じたのでオファーの辞退をしました。経営層の方々とは面接選考でお会いしていたのですが、会食の場だからこそ感じることがあり、合わないと感じました。

小さな不安を放置せず解消に向けて動いたことは、もちろんオファーが破談になるなどのリスクはありましたが、結果良かったと感じています。リスクを多少とってでも不安の解消はしたほうが良いと勉強になりました。

・転職エージェントに失望する

話が少し本題とズレますが、オファーを辞退した時の転職エージェントの対応が酷すぎて心の底から残念な気持ちになりました。辞退した2社の担当エージェントはそれぞれ違ったのですが、1社は辞退を翻意させようと明らかに感情的に自分達のロジックで理詰めで詰めてきました。もう1社は連絡をした電話で辞退という言葉を出した瞬間に電話を切られました。

転職エージェントの立場に立つと、成約寸前のビックディールが無くなったので腹が立つ気持ちも分かります。転職希望者の人生に親身になって寄り添ってくれる転職エージェントなんて存在しない。改めて学びになりました。転職エージェントはビジネスでやっていて慈善事業ではないので当然だとは思いますが、期待しすぎていました。

▼45歳、仕切り直す

・モヤモヤの正体に気づく

2社からのオファーの辞退後、先述したオファーをもらっていた企業の経営層との会食で感じた違和感を言語化する時間を取りました。私が違和感を感じていたのは、新しいビジネスに参入する目的が“儲かるから“ということ以外に無いと感じたことでした。何度か質問もしてみたのですが、お客様の価値の観点やビジョン・ミッション的なものに関しても取り敢えず掲げています、という回答でした。“取り敢えず掲げておく“ということは多くの企業でよくある事だと思い、その場では流したのですが、時間が経つにつれ、本気でその企業への転職を考えるにつれ、どんどんと違和感になっていきました。

この違和感の正体を考え続けていたのですが、ドラッカーのマネジメントの中でも有名な“3人の石工職人の話(参考記事)“で例えると、3人目や4人目の石工職人のような回答を私は求めていたのだと気付きました。いま流行っている言葉で言うと“パーパス(参考記事)“を話してくれることを求めていたのだと思います。

私自身、仕事は“ライスワーク”だ、とことある毎に言っていたので、自分がパーパスを大切にしている、という認識は持っていませんでした。歳をとって価値観が変わったのかな、とも考えたのですが、恐らくこの価値観の変化にも転職のそもそものきっかけである“父の死(Vol.1参照)“が影響しているのだと思い始めました。亡くなる寸前まで社会福祉法人の運営の手伝いをしていた父。自分の経験やスキルを社会に還元して貢献する、困っている人を助ける、という生き方に影響を受けたのだと結論づけました。

・転職目的が定まる

自分が何のために、誰のために、何をするのか、ということを考えていく中で、すごいスピードで自分の志向が明確になっていく感覚がありました。ここ数年、自分の人生について考え続けてはいたのですが、頭の中に霧がかかったように答えがなかなか見えませんでした。その霧が転職活動をしたことをきっかけに一気に晴れたような感覚です。

その時に書き出していたメモを見返すと以下のようなことが書いてありました。

 ・世の中や日本の将来について気になっている
 ・子供たちに明るい未来を渡したい
 ・世の中の大部分を占める中小企業の変革が大切
 ・ヒトに関わる
 ・起業(ゼロからやる)志向はない
 ・イチをジュウにするのは好き
 ・お客様も関係者も全員ハッピーになるサービス
 ・ヒトの成長で勝ちたい
 ・将来的に自分のスキルが社会に買われる人材に

“お客様も関係者も全員ハッピーになるサービス“に関しては、私が当時PMとして開発に携わっていた新サービスが、顧客も従業員も満足度が低いのにめちゃくちゃ儲かる、というサービスで葛藤を抱えていた、ということが大きく影響しています。

私は書き出した9つの想いをベースに転職先を探していくことに決めました。そして、いろいろ考えた結果、SaaSサービスを提供するスタートアップに絞って転職活動をすることを決めました。転職を考え始めて5年以上かかって私は人生の目標が定まり、転職目的が芽生え、転職先イメージが固まり、転職することを決意します。45歳冬の出来事でした。

・妻に相談する

一般的にスタートアップへのイメージや収入減の想定を考えると、妻に改めて説明をしておく必要があると考えました。もちろん妻は私が転職活動をしていることは知っていますし、随時共有はしていました。ただ、今回は不安や心配を感じさせてしまう可能性があったので、しっかりと説明をしておく必要があると考えました。

妻には自分が今の考えに至った背景や収入は減る可能性があることを率直に伝えました。そして、妻の提案で現在の生活費の収支や子供の教育費や住宅ローン、貯蓄の状況などを整理し、年収の下限を決めました。

妻は私の決断に対して、いろいろと思うことはあったとは思いますが、快く受け入れてくれました。心から感謝をしています。

▼46歳、スタートアップに転職する

・就職先が決まる前に退職を決める

自身の人生の方向性が定まり、転職をすると決めた私は、転職先が決まる前に退職交渉をして退職を決めました。転職先が決まる前に退職を決めることはかなりイレギュラーだと思います。特に45歳で無職になるリスクを負うことは勇気のいることでした。

私がリスクを負ってまで先に退職を決めた理由は3つあります。その3つとも直前の転職活動中に経験したことが元となっています。

1つめは、転職先が決まった際の入社日の問題です。企業はオファー受諾後1から2ヶ月後の入社を希望することがほとんどです。一方で当時在籍していた企業では管理職は半期の査定会議を終えて退職する、ということが暗黙の慣行となっていました。その為、退職月が限定されてしまっており、転職活動のオファー受諾とタイミングを合わせることが至難の業でした。入社日が合わずオファーを受諾できない、ということを避けるにはリスクを負ってでも先に退職日を決めておいたほうが良いと考えました。

2つめは、時間確保の問題です。転職活動には相当なパワーがかかり、面接選考だけでなく事前準備の時間の捻出に苦戦をしました。人生でかなり重要な意志決断をせねばならない転職活動となりますので、時間や精神的な余裕をしっかり持っておきたい、と考えました。加えて、長期間ゆっくり休みたいという気持ちも少しだけありました。

3つめは、今回の転職活動に対する本気度を企業に示す為です。直前の転職活動において、本当に転職をするのか、本当に年収が下がって良いのか、などの質問をしつこいくらいに何度も受けました。私がいくら本気だと言っても、大手企業のそれなりのポジションに就き、それなりの待遇を受けているという客観的事実から企業はなかなか信じてくれていないな、という感覚がありました。そういったことで意図しないバイアスがかかり、機会を失わないためにも退職を決めておく必要があると考えました。

・カジュアル面談をフル活用する

スタートアップの中途採用手法として、カジュアル面談が一般化していました。中途採用は圧倒的に企業側に情報が多く、転職希望者との間に情報の非対称性が生まれていると感じています。転職希望者にとってはこの情報量の差が埋まることは非常にありがたいと感じました。企業側も工数は増えるとは思いますが、カジュアル面談にすることで企業とのコンタクトハードルが下がり普段なかなか会えない層の転職希望者に会える機会が出るのではないかと思います。転職後入社後のミスマッチを無くしていく意味で、本当に素晴らしい仕組みだと思います。

私はこのカジュアル面談の機会をフル活用し、自分自身の転職先決定の軸に合いそうな企業には機会をいただけるだけ会いました。その数は22社です。私はSaaSサービスの勉強をしていく中で、HR系のサービス提供企業に興味を持ちましたので、カオスマップを見ながら幅広い分野の企業にエントリーをしました。

カジュアル面談は、私の業界や企業、仕事内容理解にも役立ちましたが、何よりもスタートアップ企業が自分のキャリアやスキルのどこに興味を持つのか、ということも学びになり、意外な発見もありました。時間がかかりましたし疲労感も強かったですが、私の人生にとって本当に貴重な時間、体験でした。

・転職先を決める

多くの企業のカジュアル面談を受けていく中で、私自身が従業員規模が100名前後の企業とフィットすることが分かってきました。10名規模などのアーリーステージのスタートアップはプレイングが業務のほとんどを占め、私のスキルや志向の観点でアンマッチな傾向が強かったです。一方で100名前後の規模の企業は組織が拡大期であり、私のような年齢のマネジメント経験豊富な人材が喉から手が出るほど欲しており、話が盛り上がり前に進む傾向が強かったです。

組織のフェーズによって必要な人材が変わる。当たり前のことを肌で感じた転職活動でした。また、45歳という年齢に対して何の懸念も持たれない、ということも意外な気づきでした。もちろん代表以下社員の方々は私よりもかなり年下なのですが、年齢は関係ない、というスタンスの企業ばかりで、40代でも覚悟を決めれば機会は無限に広がっているな、と感じました。

従業員が100名から200名程度の企業数社からオファーをいただきましたが、結局私は、従業員90名のHR系SaaSサービスを提供するスタートアップ企業に法人営業マネージャーとして転職を決めます。転職を決めた企業は、私自身の志向や大切にしたいポイントを全て満たしているだけでなく、ミッション・ビジョンに心の底から共感し、一緒に実現したいと思えたこと、社長以下取締役、メンバーなど良い人が多かったことなどが決め手となり意思決定をしました。年収は大幅にダウンしましたが、全く気にならないくらい惚れ込んだ企業でした。

こうして、40歳に転職を漠然と考え始めた私は、46歳でスタートアップに転職することとなりました。結局6年もかかりましたが、本当に素晴らしい企業に出会いました。

次回以降のnoteでは転職後の話を書いていこうと思います。

追記;転職後1年経過後くらいから多くのスタートアップ企業から転職や副業のお誘いを多数受けるようになりました。自身の将来、市場価値が不安で転職活動を始めましたが、転職前よりスタートアップ転職後の方が世の中に必要とされている感を強く感じ、思い切って転職をしてよかった、と考えています。

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