46歳、スタートアップへの転職 - Vol.5 現実直視編 -
▼はじめに
・このnoteに関して
このnoteは私が46歳で大企業からスタートアップに転職した体験記です。
前回までの記事:【1】きっかけ編【2】葛藤編 【3】転職活動準備編
【4】転職エージェント利用編
・今回のnoteのサマリ
私が転職活動の中で知った現実や気づいたこと、40代の転職活動で大切だと思ったことなどを書いています。
▼45歳、現実を知る
・企業からのスカウトがこない
私の今回の転職活動スタートのきっかけは、自分の将来への漠然とした不安でした。ただ悩む日々が続いていた中で、実際に転職活動をしてみようと決意します。新型コロナ感染症の拡大でWEBツールを活用した中途採用選考が一般化し、転職活動が容易になった、という社会の変化が大きな転機となりました。
また、当時在籍していた企業には15年間在籍し、“井の中の蛙“もしくは“茹でガエル“ではないか、という不安も抱えていました。転職活動によって世の中や転職市場を知り、客観的に自分の市場価値を知ることで将来の方向性を決めていきたいと考えました。そのため、転職活動の手段も企業や転職エージェントの両者からスカウトを受けられる転職サイトを利用しようと考えました。
しかし、転職サイトに登録して約1ヶ月経過しても、企業からのスカウトメールは全く届きませんでした。
転職エージェントからのスカウトメールはたくさん届きます。返信をしないと定期的に返信促すメールが届きますので、相当な量が届いた感覚です。ですが企業からのスカウトメールは待てど暮らせど届きませんでした。
スカウトメールが届かない理由はいろいろあると思います。タイミングの問題や転職サイトに書いている経歴が分かりづらい問題もあるとは思いますが、当時の私は「企業(採用側)のニーズがない」か、「自分のキャリアが採用ニーズにマッチしない」のどちらかしか無いだろうと考えていました。
悩みながら重い腰を上げてスタートした転職活動。私はいきなり壁にぶち当たります。
やはり、45歳の転職は難しい。
これが転職サイトに登録して2ヶ月後の私の率直な感想でした。当時は“以前良く語られていた転職35歳限界説は過去の話“と言われていました。40代以上向けの中途採用の求人は増え、ミドルシニアの転職市場は活況を呈していると多くのメディアで有識者が語っていました。私はこのトレンドに希望の光を見出していたのかもしれません。やはり一部の限られた人たちだけが転職市場ではもてはやされるんだ、と拗ねた気持ちでした。
そうは言っても、私もいつまでも立ち止まってはいられません。沈む気持ちを奮い立たせて次のアクションに移りました。
・紹介される求人は同業界同ポジションばかり
私は勝手に期待していた企業からのスカウトメールが全く届かないことに気持ちが沈みましたが、一方で転職エージェントからのスカウトメールがたくさん届いていた、という事実は心強く、気持ちが救われる思いでした。転職エージェントから連絡が来る、ということは、こんな自分にも転職実現可能性(≒市場価値)があるかもしれないと考えていました。
私は“藁にもすがる思い“で転職エージェントとコンタクトをとり面談を実施します。しかしコンタクトを取った2社との初回面談が15分で終わるという衝撃の体験をします。(詳細は“Vol.4転職エージェント利用編“参照)
2社とも判を押した様な定型的なヒアリングでした。転職理由や希望条件を深掘りされることもなくサラッと聞かれて何社か求人紹介をされて終わりでした。すごく消化不良感があり、肩すかしをくらったような面談でした。そして紹介された求人は当時所属していた人材サービス業と同業他社の同ポジション求人やプレイヤーの求人でした。
その後、数社の転職エージェントとコンタクトをとりますが、紹介された求人は最初の2社同様、同業界同ポジション求人かプレイヤーの求人でした。念のため、他業界への転身の可能性を確認しますが、どの転職エージェントも年齢的に他業界への転身は簡単ではないこと、また実現したとしても待遇条件などが大きく悪化することなどを教えてくれました。
•自分と企業の視点には大きな乖離がある
転職エージェントとの面談を通じて、同業界にしか求められない自分のキャリアの現実を知り、私はとても落胆しました。一方で、当然だよな、という気持ちもありました。
採用する企業側の視点で考えてみると、多くの企業で45歳の年齢の社員は管理職として事業や組織を担っている年代だと思います。この年代を管理職で中途採用する際には、当該業務経験を求めることは当然のことだと思いますし、業務経験がなければ内部登用の方が良いと考えるのが普通だと思います。
企業視点で考えることの大切さは、採用ニーズがあるからこそ転職が実現できるという需給の関係を冷静に考えれば当たり前に気づくべきことだと思います。今振り返ると企業からのスカウトメールが全く届かなかった時点で何となくは分かっていました。転職エージェントからたくさんスカウトメールが届いたことで、自分勝手に夢と希望を抱いて大切なことを見失っていました。転職は難しいと感じて、気持ちを切り替えて転職エージェントと会っていたはずなのに、まさに“喉元過ぎれば熱さを忘れる“という状態でした。
私は自己肯定感が劇的に低いタイプです。それでも45歳の自分の可能性が無限にあるかのように錯覚してしまいました。転職活動のスタート時期とはそういうものなのかもしれません。自分と企業の視点や考えていることには大きな乖離がある。どんな時も“相手の立場に立って考える。当たり前のことですが、転職活動をする上では肝に銘じる必要があると痛感しました。私にはこの時点で転職活動において気をつけるべき点に気づくことができたことが良かった、と思う出来事が起こります。この出来事については次回書きます。
▼45歳、一歩を踏み出す
・なんとなくWILLを置いてみる
転職市場の現状や自分自身の市場価値的なものを理解した私は、今後どうすべきか悩みますが、図を使って整理をしてみることにしました。
私もそうでしたが、転職希望者にとって上の図の“★“の部分の企業(求人)に出会うことが最高の状態だと思います。これは全員が意識をしなくても本能的に目指しているものだと思います。私は今回の転職活動をスタートしてから経験したことをこの図で整理をした時に、自分に足りていないものを改めて認識しました。
自分に足りていないと理解したもの、それは“WILL“です。
自分に今回の転職活動におけるWILLが無いことは転職サイトへの登録時に気づいていました。私の今回の転職活動スタートのきっかけは、自分の将来への漠然とした不安でした。ただ悩む日々が続いていた中で、実際に転職活動をしてみようと決意します。転職活動によって世の中や転職市場を知り、客観的に自分の市場価値を知ることで将来の方向性を決めていきたいと考えました。
転職活動におけるWILLが無い私にはそもそも“★求人“は存在していなかったのです。存在しないのに、転職エージェントに紹介された求人は“★“じゃないと自分勝手に判断し、市場価値が無いと思い込んで落ち込む。今思い返すと本当に恥ずかしい限りです。転職エージェント視点に立つと、私に紹介をした求人は上の図の“❷“であり、ベストの紹介だったのだと考えられます。
私は“WILL“が無いと“★求人“には出会えないことに気がついたので、“WILL“について考えることにしました。その際に参考になったのは転職エージェントが私に紹介してくれた求人の“紹介理由“でした。私は紆余曲折がありながらも信頼のおける転職エージェントに出会っていました。そして彼らの言葉に私は“WILL”の端緒を見つけました。
転職エージェントから紹介された同業界同ポジション求人の特徴は、いずれも新規参入や事業拡大に伴うテコ入れ人材の採用求人でした。当時在籍していた企業の職務と比較して“裁量が大きい“ということ、また既存サービスモデルの磨き込みではなく“ほぼゼロからのサービス/組織の立ち上げ“である、ということでした。だから私の“CAN“が広がり市場価値も上がる、というのが転職エージェントの求人紹介理由でした。
転職エージェントから私の属していた業界、企業、就いていたポジションは外からはそう見えているのか、と求人紹介理由に衝撃を受けました。当時は15年間同じ企業で同じ事業に従事していましたが、ポジションが変わったり、新しいサービスモデルの開発にも携わっていましたので、裁量が小さいとか既存サービスモデルの磨き込みが面白くない、という感覚は持っていませんでした。ただ、転職エージェントとの面談以降、時間が経つにつれ、現状の環境や業務への閉塞感が沸々と湧き上がってきました。
転職をしようと決意して約2ヶ月。私はここ数年感じていた漠然とした将来の不安の原因のようなものを見つけることができたような感覚を持ちました。改めて、直接関係のない他者と会話をすることは客観的に自分を見つめる大切な手段だな、と思いました。
「事業やサービスをゼロに近い状態から推進できる裁量が大きい仕事に就きたい」
私はようやく転職理由の公式(転職理由=きっかけ+WILL)を埋めることができ、求人への応募、面接に臨む準備が整いました。
・面接の準備がとても大変
転職理由が固まった私は転職エージェントから紹介された求人4社に応募をしました。書類選考通過率は低いと聞いていましたので、ダメ元で紹介された企業全てに応募をしました。幸いなことに順調に書類選考が通過し、全ての企業において1次面接に進むことができました。ただ、結果的にこの軽い気持ちの応募が自分を苦しめることになります。
私を苦しめたのは面接の事前準備でした。事前準備には相当な時間がかかりました。先ほど書いたように、私が選考を受けた企業は事業に新規参入したり、拡大・テコイレしていこう、と考えている企業ばかりでした。このような状況の企業の面接を受けるには企業と当該事業の理解が必要だと考えました。
私は当該事業の理解はありましたので、企業理解に重点をおき、3C分析とSWOT分析を実施して面接に臨みました。もちろん当該企業の社員ではないので精度はいまいちだと思います。転職エージェントを通じて事業の状況や業務の内容、事業責任者や面接官の情報を入手していたので、これらの情報からも想像しながら分析をし、精度を上げる努力をしていました。
一気に4社も面接に臨むことになったので事前準備だけでなく選考時間の調整など、時間工数だけでなく精神的な負担もかなり大きかったです。何度も途中で諦めそうになりましたが、後程振り返ると本当にやっておいて良かった、と思いましたし、自分の思考の訓練にもなって良かったと感じています。ただ、次回転職活動をする際には求人への応募の量やタイミングはしっかりと考えようと肝に銘じました。
・面接で自分の経験が上手く伝わらない
私が転職活動で1番難しいと感じたことが、“面接で自分の経験を相手に伝わるように話す“ということでした。あくまでも個人の主観ですが、私はこんなに自分の伝えたいことが‘相手に伝わらない、と言う経験をするのは初めてでした。相手の質問に端的に答えているつもりなのですが、相手の反応が芳しくなく、細かい質問をいくつも受けます。私自身もその細かい質問を受けながら、なんでこんなに質問をされるのか分からない、と言うのが‘本音でした。面接では変な汗をたくさんかき、面接終了後になんとも言えない気持ちになったのを今でも鮮明に覚えています。
私はこの伝わらない感覚の原因を、面接を受けていく中で段々と理解していきます。それはすごく単純な話で、相手と自分の置かれている環境の違いからくる考え方の違いでした。同じビジネスをしていても会社が違えばやり方も考え方も微妙に違ってきます。それが経験も違う人間同士であればもっと変数が増えますので、相互理解の難易度は上がり時間がかかります。私は面接を何回か受けながら、相手の状況に合わせて伝えたいことを伝える感覚を磨いていきました。
転職面接において1番大切なことは、面接官が自分とは全く違う環境で生きてきた人である、と言うことを認識することだと思います。だからこそ相手の立場・視点に立って話を組み立てることができ、自分の経験や思いを余すことなく正しく伝えることができるようになるのだと思います。
また、転職成功の秘訣として、求人への応募の量をある程度担保すること、が言われています。これは選考通過率や本当にフィットした企業と出会う確率論的な観点の筋で語られることが多いと思います。私は、転職希望者視点で、面接慣れしていくという観点である程度の量の応募をすることの重要性を肌で感じました。自分の経歴や経験のどうような点を企業(面接官)は気にするのか、自分の伝えたい経験や強みは上手く伝わるのか。転職を実現するためにある程度PDCAを回す必要はあると感じました。
私はこのような経験を通じて、応募した4社中2社の選考が順調に進み、最終選考まで進むことになりました。数年悩み、重い腰を上げて始めた転職活動もいよいよ終盤です。この時点で転職サイトに登録してから約5ヶ月が経過していました。
でも、私がスタートアップに転職するのは、この時点からまだ約1年後です。
次回は転職実現編として、スタートアップに転職するまでの経緯を書きたいと思います。