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文芸寄せ集め

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自分の記事の中から詩と掌編小説を寄せ集めました。
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2021年6月の記事一覧

詩)夏の片鱗

詩)夏の片鱗

窓を開けて寝ないと暑苦しくなって、夏がいつの間にか私のおでこまで忍び寄っていた事に驚いた

渦を巻くような変わりやすい梅雨の天気は雨の反芻ばかりで神経が休まらず、新しい傘を買って何とか自分を宥めすかしているというのに

夏至の日は夏至だ、と皆騒いでいて、自分の生活にまるで関係のなくなった夏至を、遥か昔の和歌を摘み取るようにそっとなぞった

ふと季節の証人になりたくなった

あなたの前で浴衣が着たい

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詩)生クリーム

詩)生クリーム

あなたは生クリームが好きだと言う
この世で1番好きなのは生クリームだと

私は生クリームが好きになったあなたの道のりに思いを馳せる

あなたはどうしていつ生クリームを好きになったの
一体どのように心奪われたの
液体でもない固体とも呼びがたいあの食べ物に

あれって実は油分が多くて太りやすいのよ
ダイエットの大敵だわ
だけどあなたの腕は甘いもの好きな男の子のご多分に漏れずかなり細いわね

私は恨めし

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詩)夏のさざめき

詩)夏のさざめき

夏が来る、と思うと肩がぎゅっと固くなる
自分が溶けて外気と一体化してしまう暑さを思うと気後れしてしまう

投げやりになって足を投げ出したくなるような熱風は私をおののかせ、夏、という季節の有無を言わせぬ暴力性から逃げ出す算段をさせる

夜気すら私を休ませず、朝が来ると太陽の恒常性にうんざりする季節

アイスバーの四隅が直ぐに丸くなるから家までもたなくて、アスファルトの照り返しの中液体になったチョコレ

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詩)音楽の切れ間に

詩)音楽の切れ間に

休日の昼下がり、音色の隙間に自分を見つけた

外は穏やかに晴れている
オレンジ色の光が、フローリングの床に差し込んでいる

迂闊にもリピートを忘れたサカナクションの合間に、迷路のような森に迷い込んで途方に暮れている私がいる
音の切れ目から入り込んだ理性が、ふと私を真顔にさせたのだ

いつからだったか
もう誰にも撫でられる事のなくなった頭をそっと撫でる

捕まえようとすると宙に浮いてしまう自分
もは

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詩)ゲリラ豪雨

詩)ゲリラ豪雨

壊れてしまいそうだからそっと触れようと思ったのに壊れてしまいそうなのは私の方で、意外と強靭なあなたを羨望の目で眺める

人見知りだよと笑ったあなたは他人の目を幾つも盗んで平気な顔をする

ビオトープが欲しいくせに夏の似合わない格好をして、夏を脱ぎ去ったあなたは誰より秋の似合う顔をする

あなたが大好きだという音楽は中庸で平和を奏で、混じり気のないあなたをますます好きになる

丁寧すぎる隙のない敬

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