旅するわたしたち
図書館の閲覧席で、ウサギは旅行特集の雑誌を手に取り、ぼんやりと呟いた。
「夏休みだし、どこか旅に行きたいな」
隣のカメに視線を送ると、「暑いこの時期は、涼しい図書館で本を読んでいるのが一番かな」と、彼は本から目を離さず静かに答えた。
「例えば、行ってみたい図書館とかないの?」ウサギが問いかけると、カメは読んでいた本から顔を上げ、ふと考え込んだ。そして、彼女の目の前にその本をそっと差し出し、小さく微笑んだ。
「実は、この本に載っているハスケル図書館ってところに行ってみたいんだ」カメは興奮気味に本を開いて見せた。
「この図書館は、アメリカとカナダにまたがって建っているんだって。床の上に国境線が引かれているなんて、信じられる?」
「図書館の入口はアメリカにあるけれど、本が置いてあるのはカナダ側なんだって。途中でパスポートを見せるのかな?」 カメの興奮はなかなか止まらなかった。
ウサギは彼からその本を受け取ると、慎重にページをめくり始めた。履物が四万年以上前から存在していたことや、観光旅行がすでに古代エジプトのころに行われていたことなど、旅に関する驚くべき情報に、彼女は次第に心を奪われていった。
「見て!私が宇宙に旅立つ時に役立つ情報が載っているわ」ウサギは目を輝かせた。
「宇宙における地球の住所なんて、これまで考えたこともなかったけど、宇宙人に挨拶するなら必要だよね?」
「ラニアケア超銀河団、おとめ座超銀河団、局部銀河群、天の川銀河、オリオン腕、太陽系第三惑星…だったっけ。僕は一度で覚えられなかったよ」と、カメは静かに笑った。
「この本に書かれているように、風や水は自由に旅ができていいなあ。国境線なんて関係ないし、誰にも止められることもないんだから」ウサギは本を静かに置くと、窓の外にそっと視線を向けた。
「私も風になりたいなあ」彼女は風の気配を探しながら、静かに呟いた。
※旅するわたしたち
ロマナ・ロマニーシン
アンドリー・レシヴ 作/
広松由希子・訳/ブロンズ新社
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