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認知バイアス大全

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賢い人も含めて、わたしたち人間が「頭の悪い行動をしてしまう」理由は、だいたい認知バイアスによるものです。認知バイアスとは、進化の過程で得た機能の「バグ」。この認知バイアスの良いと… もっと読む
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2021年7月の記事一覧

危険な思想 「自尊心」

自尊心自尊心(Self-esteem)とは、 自分に対する主観的な評価 自分に対する信念(例:「自分は愛されていない」や「自分は価値がある」など)や、勝利、絶望、誇り、恥などの感情状態が含まれます。スミスとマッキーU(Smith and Mackie)(2007) は、「自己概念とは、自分について考えることであり、自尊心とは、自分についてどのように感じるかという肯定的または否定的な評価である」と定義しています。 自尊心は、特定の属性に適用されることもあれば(例えば、「自

実力をちょっと上回ることが出来ると信じたほうが良いみたい 「自己効力感」

自己効力感自己効力感(self-efficacy)とは、 自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していること です。カナダ人心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が提唱した概念です。自己効力感は、強いほど実際にその行動を遂行できる傾向にあると考えられています。「Efficacy」とは、「効力」という意味。 似た用語に、自尊心(self-esteem)がありますが、自尊心は、自分を信じていることに起因する感情を意

同じデータなのに部分と合計で結果が変わる! 「シンプソンのパラドックス」

問題:AくんとBくん、どっちが優秀? AくんとBくんが、1回目と2回目で合わせて110問を解くというテストを受けました。1回目のテストでは、Aくんは、100問を解き60問正解で、Bくんは、10問を解き9問が正解でした。2回目のテストでは、Aくんは10問中1問、Bくんは100問中30問が正解でした。さてAくんとBくんのどちらが優れているでしょうか? 【1回目】 Aくんの正解率:60/100=60% Bくんの正解率:9/10=90% 優劣の判断:BくんのほうがAくんより優れて

人はわかりやすいものを好きになり、信用する 「認知容易性」

次の2つの文章をくらべてみてください。•アドルフ・ヒトラーは1892年に生まれた。•アドルフ・ヒトラーは1887年に生まれた。 どちらが正しいと思いますか?実験によれば、最初のほうを正しいと思う人が多いようです。(正解は1889年。)これは、最初のほうが文字が大きく、認知が容易なため、本当っぽく見えるために起きる反応です。人は、容易に理解できるものを信用します。これは進化の過程で得た傾向です。よく知っている場所では不測の事態は起きにくく、知らない場所ではどんな危険が潜んでい

わたしたちの脳にはサボりぐせがある 「最小努力の法則」

最小努力の法則最小努力の法則(The principle of least effort)とは、 ある目標を達成するのに複数の方法があるとき、人は、最終的にもっとも少ない努力で済む方法を選ぶ というものです。ジップの法則とも言われています(後述)。「最小努力の法則」は、進化生物学からウェブページのデザインまで、幅広い分野をカバーする理論です。動物や人間はもちろんのこと、よくできた機械であっても、努力(コスト)が、最も少ない道を自然に選ぶと仮定しています。この理論は、他の多

「あなたが来てからというものろくなことが起きない!」という難癖 「前後即因果の誤謬」

迷信にみる難癖あなたはマンションの大家さんからこんなクレームを受けたとします。 「私は、あなたが問題の原因だと思わずにはいられません。なぜなら、あなたがこのアパートに引っ越してくるまで暖房設備には何の問題もなかったのですから。」 大家さんのこの話には、間違いがあります。それは、新しい入居者が、入居してから問題が起きたという前後関係のみを根拠として、暖房設備が故障したことと因果関係があると仮定したことです。出来事の前後と、結果と原因は、一緒くたにすべきものではありません。し

印象管理理論

Instagramで人は「羨ましがられそうなこと」だけ見せるInstagramなどのソーシャルメディアを通して、人は意図してかせずしてか、自分の印象を他者に向けて形成しようとしています。これを印象管理といいます。印象管理にはセオリーがあり、総じて「印象管理理論」といいます。 印象管理 印象管理理論 (Impression management)とは 人が、社会的相互作用の中で情報を調整・制御することにより、ある人物・物・出来事に対する他の人の認識に影響を与えようとする意識

自分を平均より上だと思い込む 「平均以上効果」

質問:あなたは、リーダーシップ能力があるほうですか?あなたは、リーダーシップ能力があるほうでしょうか? 下記から当てはまるものを選んでください。 (1)あると思う (2)人並以上にはあると思う (3)他の人よりはないと思う (4)ないと思う この質問に、アメリカの高校生を対象に行った調査では、自分は平均以上のリーダーシップ能力を持っていると答えた生徒は約70%、平均以下だと答えた生徒は2%しかいないという結果になりました。ある特性や能力において、一般平均以上であると自己評

人のチャレンジをとどまらせる 「悲観主義バイアス」

悲観主義バイアス悲観主義バイアス(Pessimism bias)とは、 ネガティブな出来事を過大評価し、ポジティブな出来事を過小評価する傾向 です。最悪の事態を想定するという態度は、うつ病の顕著な認知的特徴であり、個人的にも社会的にも大きな影響を及ぼす可能性があります。 悲観主義バイアスの影響は、人の行動を大きく変えます。例えば、失敗する可能性を過大評価して、新しいことにチャレンジをしないなど。ネガティブな出来事を過大評価することを端的に表しているのが、フランスで行われ

特定の人が困っていると助けたい気持ちが強くなる 「身元のわかる犠牲者効果」

身元のわかる犠牲者効果 身元のわかる犠牲者効果 (Identifiable victim effect)とは、 ある人が、困難な状況に置かれている場合、同じような状況の集団に対してよりも大きな援助を提供する傾向 です。この効果は、援助ではなく、罰を与える場合にも見られます。一人の子供が井戸に落ちたら世界は救出のために大騒ぎするが、大気汚染で数万人が死んでも大して騒ぎにならない。 スターリンの言葉ヨシフ・スターリンの言葉に、この「身元のわかる犠牲者効果」を意味すると解釈で

「~すべき思考 」:認知の歪み(2)

~すべき思考~すべき思考 (Should statements)とは 他人や自分に対し、道徳的に「すべきである」「しなければならない」と期待すること です。「誰にでも優しくしなければ!」とか「私は、全ての人に愛されなければならない」、「絶対にミスをしてはならない」など、自分で決めたルールに縛られまくる状態です。 「しなければならない」「すべきである」という発言は、アルバート・エリス(Albert Ellis)が、認知行動療法(CBT)の初期形態である合理的感情行動療法(

「認知の歪み」  とは

認知の歪み 認知の歪み(cognitive distortion)とは、 誇張的で非合理的な思考パターンであり、これらは精神病理状態、とりわけ抑うつや不安を永続化させ得るもの。個人が現実を不正確に認識する原因となる思考 です。アーロン・T・ベック( Aaron T. Beck)が、その基礎を築き、彼の弟子のデビッド・D・バーンズ(David D. Burns)が、その研究を引き継いだ概念です。最も有名なのは、バーンズが1989年に著した『Feeling Good: The

世界を、良い人か悪い人しかいないと捉える「スプリッティング」:認知の歪み(1)

スプリッティング スプリッティング (Splitting)とは、 全か無かの思考。 人間の思考において、自己と他者の肯定的特質と否定的特質の両方をあわせ、現実的に、全体として捉えることの失敗 です。「分裂(ぶんれつ)」ともいいます。全か無か思考(all-or-nothing thinking)とも呼ばれています。スプリッティングの概念は、ロナルド・フェアバーン((William Ronald Dodds Fairbairn)が、発展させてきました。極端な考え方をする傾向

中立なメディアなどない!? 「メディア・バイアス 」

メディア・バイアス メディア・バイアス (Media bias)とは、 メディアが情報を伝えるとき、ソースのどの部分を取捨選択して伝えるかによって生じるバイアス です。たとえば、危険性を指摘することは、マスコミの重要な役割ですが、危険性を強調して報道することで、市民が過剰な反応を起こすことがあります。あるいは、科学的な根拠がないままに学者の意見を報道することが、社会現象を引き起こしたり、健康被害を引き起こしたりすることもあります。真理の錯誤効果 (Illusory tr