見出し画像

人のチャレンジをとどまらせる 「悲観主義バイアス」

悲観主義バイアス

悲観主義バイアス(Pessimism bias)とは、

ネガティブな出来事を過大評価し、ポジティブな出来事を過小評価する傾向

です。最悪の事態を想定するという態度は、うつ病の顕著な認知的特徴であり、個人的にも社会的にも大きな影響を及ぼす可能性があります。

悲観主義バイアスの影響は、人の行動を大きく変えます。例えば、失敗する可能性を過大評価して、新しいことにチャレンジをしないなど。ネガティブな出来事を過大評価することを端的に表しているのが、フランスで行われた研究です。この研究では、参加者に、コインを10回トスして、表が出たら10ドルが支払われると想像してもらいました。そして、どのくらいの頻度で勝つと予想するかを尋ねました。1,500人以上のサンプルサイズにもかかわらず、平均回答は3.9。研究者たちは、悲観主義バイアスによって、人々がトスに負ける可能性を過大評価し、同時に勝つ可能性を過小評価していることを示唆しました(※2)。

このコイントスのように、人は、個人的なことに関しても悲観主義バイアスを示すことがありますが、一般的には、人は、自分自身については楽観的であるようです。その一方で、社会については悲観的になるようです。この社会的な悲観論は、特定の出来事に対する世論に影響を与えるため、政治的に重要だともいえます。例えば、暴力やテロなどのネガティブな出来事に対する不安が過大であれば、人々は特定の候補者に投票したり、誤った信念を持ったりするようになります。心理学者のスティーブン・ピンカー(Steven Pinker)は、著書『The Better Angels of Our Nature』の中でこのような議論を展開しており、現代が、恐ろしい暴力をもたらすという信念が、データと正確に一致しないことを指摘しています。ある経験的な苦しみの指標によれば、過去は現在の40倍も暴力的だったという比較もあります。このような悲観的な信念が、ネガティブな出来事を偏って取り上げるメディアや、過去をバラ色に染める人間の傾向によるものであるかどうかは別にして、悲観的な考え方が広まると、世論に左右されるシステムに幅広い影響を与えます。

文化の影響

ある研究によると、西洋人(ヨーロッパ系アメリカ人の回答者)は、東洋人(日本人の回答者)に比べて、自分に起こるポジティブな出来事を期待する傾向が強く、東洋人は自分に起こるネガティブな出来事を期待する傾向が強いという結果が出ています(※3)。この研究の著者は、西洋の個人主義が自己強化を促し、東洋の集団主義が自己批判を促したためだと推測しています。

女性と高齢者に多い

画像2

悲観主義バイアスは、女性や高齢者に多く見られる(※2)。そのため、女性は、自分には十分な資格があるにもかかわらず、就職活動を控えてしまう可能性があります。


対策・応用

直感ではなく、論理を根拠にする

直感で最悪の事態を想定するのではなく、より論理的な視点から将来の出来事を考えてみることをお勧めします。ハイキングの日に雨の確率が40%と予報されていた場合、「おそらく雨が降るだろう」と結論づけるのは妥当でしょうか? おそらく降らないでしょう。


関連した認知バイアスなど

•楽観主義バイアス(Optimism bias)
悪い事は自分には起きないと考える傾向。

•バラ色の回顧(Rosy retrospection)
過去の出来事を、その時点での評価よりも良い評価の記憶として思い出す現象。

•プロスペクト理論(Prospect theory)
不確実な状況における意思決定モデルであり、(1)得することより損をしないことを選ぶ傾向、(2)損も得も量が増えるとインパクトが弱まっていく傾向


認知バイアス

認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、スズキアキラの「認知バイアス大全」にまとめていきます。


フォロー&「いいね!」をしていただけると喜びます。

スズキアキラ avatar2

スズキアキラのnoteでは、ビジネスに役立つエビデンスを紹介しています。おもしろい!と思っていただければ、「フォロー」や「いいね!」をわたしはとても嬉しいです。

参照

※1:Why do we think we’re destined to fail?

※2:Mansour, S. B., Jouini, E., & Napp, C. (2006). Is there a “pessimistic” bias in individual beliefs? Evidence from a simple survey. Theory and Decision, 61(4), 345-362.

※3:Chang, E. C., Asakawa, K., & Sanna, L. J. (2001). Cultural variations in optimistic and pessimistic bias: Do Easterners really expect the worst and Westerners really expect the best when predicting future life events?. Journal of Personality and Social Psychology, 81(3), 476.


#科学 #ビジネス #ビジネススキル #エグゼクティブ #経営者 #生産性 #オフィス #認知バイアス  


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?