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「~すべき思考 」:認知の歪み(2)

~すべき思考

~すべき思考 (Should statements)とは

他人や自分に対し、道徳的に「すべきである」「しなければならない」と期待すること

です。「誰にでも優しくしなければ!」とか「私は、全ての人に愛されなければならない」、「絶対にミスをしてはならない」など、自分で決めたルールに縛られまくる状態です。

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「しなければならない」「すべきである」という発言は、アルバート・エリス(Albert Ellis)が、認知行動療法(CBT)の初期形態である合理的感情行動療法(REBT)に取り入れたもので、彼はこれを「musturbation」と呼んでいました。マイケル・C・グラハム(Michael C. Graham)は、これを「世界が実際とは異なることを期待すること」と呼んでいます。これは、状況にかかわらず、特定の成果や行動を要求することと見ることができます。

たとえば、演奏後、コンサートピアニストは、自分はこんなに多くのミスをするべきではなかったと考えてしまう。これが「〜すべき思考」です。


デイビッド・バーンズ(David Burns)によると、「must」や「should」といった「すべき」発言や思考は、自分への憤りを感じさせるため、ネガティブなものになります。また、この歪みを他人に向ける人もいて、その人が、自分のすべきことをしてくれないと怒りや不満の感情を抱くこともあります。また、このような考え方が反抗的な考えにつながることもあると述べています。つまり、「すべき思考」で自分を鞭打って何かをさせようとすると、逆のことを望むようになるのです(バーンズの著書『Feeling Good』)。

デイビッド・バーンズ『Feeling Good』



認知の歪み

認知の歪み(cognitive distortion)とは、

誇張的で非合理的な思考パターンであり、これらは精神病理状態、とりわけ抑うつや不安を永続化させ得るもの。個人が現実を不正確に認識する原因となる思考

です。


対策・応用

診察、診療が良いけれど、手軽に改善していくなら「直接的抽象化」

認知の歪み」全般への対策と同じ。

これらの認知の歪みは、総じて帰属のエラーという構造を持っています。失敗を自分に帰属させ、成功を自分以外に帰属させる。この改善に良いかも?というのが、「直接的抽象化(Directed abstraction)」。オハイオ州立大学の研究で、学生にスピーチをさせて、全員を褒め、それから2つのグループにわけて、以下の指示を出しました。

1. どのようにプレゼンを組みたてて、それを具体的にスピーチに落とし込んだのか考える

2. 「わたしは、スピーチをうまくやりとげた。なぜなら(    )だからだ」の括弧のなかを埋める

結果は、2を実行した学生たちのほうが二回目のスピーチが向上したそうです。推測される理由は、「具体的な手段より抽象的な理由のうが自分の能力に意識が向きやすくなる」というもの。具体的な方法や手段は、帰属がそちらに向かうが、抽象的な理由に帰属させると、それは自分の能力の肯定を促進させるのではないかということ。

これを繰り返して、認知の歪み、帰属のエラーを矯正していくのが良さそうです。

もうひとつ、これはわたしの考えなのですが、

自分を乗り物と考える

という方法。自分の乗る乗り物なので、そのスペックを評価するのに歪みが減る。他人も自分も観察対象にすると「わだかまり」がごっそり消えていきます。わたしも実行中なのですが、有効そうな感触があります。


バーンズの挙げる10の認知の歪み

1)全か無かの思考/スプリッティング (Splitting)
全か無かの思考。 人間の思考において、自己と他者の肯定的特質と否定的特質の両方をあわせ、現実的に、全体として捉えることの失敗。グレーがなく、物事の全てを白か黒かで認識します。少しでもミスがあれば完全な失敗だと考えます。真実でも、真実らしくもない場合でも、常に(always)、すべて(every)、決して(never)などの言葉を使うのが特徴です。



(2)~すべき思考 (Should statements)
他人に対し、その人が直面しているケースに関係なく、彼らは道徳的に「すべきである」「しなければならない」と期待すること。「誰にでも優しくしなければ!」とか「私は、全ての人に愛されなければならない」、「絶対にミスをしてはならない」など、自分で決めたルールに縛られまくる状態。


(3)行き過ぎた一般化 (Overgeneralization)
経験や根拠が不十分なまま早まった一般化を下すこと。ひとつの事例や、単一の証拠を元に、非常に幅広く一般化した結論を下すこと。たった一回の出来事だけで、その問題は何度も繰り返すと結論づけてしまう。例:「彼女は今日挨拶をしてくれなかった、きっと私を嫌っているに違いない」

(4)心のフィルター (Filtering)
物事全体のうち、悪い部分のほうへ目が行ってしまい、良い部分が除外されてしまうこと。例:「試験において100問中、17問も間違えた、自分は落第するに違いない」

(5)マイナス化思考 (Disqualifying the positive)
上手くいったら「これはまぐれだ」と思い、上手くいかなかったら「やっぱりそうなんだ」と考える傾向。これにより、人は、良い事があったことを無視してしまうばかりか、それを悪い方にすり替えてしまいます。バーンズによれば、認知障害の中でも最もたちが悪いそうです(※2)。

(6)結論の飛躍 (Jumping to conclusions)
少ない証拠で否定的な結論を出すこと。2種類あります。
1. 心の読みすぎ(Mind reading)
他人の行動や非言語的コミュニケーションから、ネガティブな可能性を推測すること。当人に尋ねることなく、論理的に起こりうる最悪のケースを推測し、その予防措置を取ったりすること。

2. 先読みの誤り(Fortune-telling)
物事が悪い結果をもたらすと推測すること。悲劇的な結論に一足先にジャンプしてしまうこと。

(7)拡大解釈、過小解釈 (Magnification and minimization)
失敗、弱み、脅威について、実際よりも過大に受け取ったり、一方で成功、強み、チャンスについて実際よりも過小に考える傾向。「針小棒大(しんしょうぼうだい)に言う」ともされています。
関連:インポスターシンドローム

(8)感情の理由づけ (Emotional reasoning)
単なる感情のみを根拠として、自分の考えが正しいと結論を下すこと。 感情移入が強くなると「感情移入ギャップ」という現象が現れ、 「合理的な理由付け」ができなくなる傾向がうまれます。

(9)レッテル貼り (Labeling)
(1)の「行き過ぎた一般化」のより深刻なケース。偶発性・外因性のできごとであるのに、それを誰かやこれまでの行動に帰属させて、ネガティブなレッテルを張ること。 間違った認知により、自他共に対して、誤った人物像を創作してしまうもの。単に「失敗した」ではなく、「自分は全くダメな人間だ」や、「あいつはろくでなしだ」と考えます。

(10)個人化 (persionalization)
または「自己関連付け」。自分がコントロールできないような結果が起こった時、それを自分の個人的責任として帰属させること。これは称賛的なものもあれば、非難的なものも含みます。例:「今日雨が降ったのは、私の責任だ」

関連した認知バイアスとして、「コントロール幻想」があります。

認知バイアス

認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、スズキアキラの「認知バイアス大全」にまとめていきます。



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参照

※1:Cognitive distortion


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