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人それぞれの天職

私が人生で一番最初にしたバイトは
ヤマザキパンの工場のバイトだった。

駅から工場まで少し距離があるので往復バスが走っていて、
そのバスも数時間おきにしか走っていないので
大体いつも1時間かけて駅から工場まで歩いていた。

工場に着くと入口からあらゆるパンの混じった匂いが鼻にくる。
この匂いがあまりに毎日続くと入口に来ただけで吐き気がする人もいるらしく
パンを嫌いになる人も後を絶たない。

ただ、私はこのバイトをしようと思った理由はパンが好きだからというすごくシンプルなもので、1日7時間パンの匂いを嗅いでいても、昼ごはんにはまたパンを食べるぐらいには好きだった。おまけにパンを持って帰って次の日の朝も食べた。

工場は衛星命なので、何度も消毒をして入念に体温のチェックをして
事務所の紙をチェックした後、振り分けられたエリアに向かう。
廊下も常にあのパンとこのパンがすれ違っては、右の通路からまた別のパンが出てきたりする。みんな白い保護服を着ているから顔はよくわからないし、年齢もあまり推測できないが
大方は30代から40代の主婦の方が多い気がするけれど、その中に学生もちらほらいた。

今日は白いパンにチョコチップを並べるという仕事内容だった。
それを午前中の3時間ぐらいはひたすら並べるだけである。
とりわけトリッキーな並べ方をしない限りは間違えることもない、
誰でもできる作業だ。
淡々とチョコチップを並べていると、隣から怒号が聞こえてきた。
「それ!!チョコチップ多すぎる!」
おばさんに怒られた。
確かに少し多かった。量は多い分には喜んでくれるだろうと思っていたけど
多くてもダメみたいだった。私は無言でぺこりと謝罪をしてまたチョコチップを並べた。
「違う!!!もっと真ん中に!」
私の並べたチョコチップは次は端っこに集まりすぎていたみたいで、
また私は無言でぺこりと謝罪をした。誰かはこの端に偏ったチョコチップを食べては
ここ甘いな、と感じるのかもしれない。それは確かに微糖好きだったとしたら申し訳ない。
私はまた集中してチョコチップを並べる。

方や同じ機械で斜め前で作業している人は、同じ量を綺麗な一列で並べていた。
制服の色も違えば、名札まである。バイトというよりか社員の人なのかもしれない。
何年チョコチップ並べてきたのだろう。並べながら何を考えているんだろうか。
あの無の佇まいから私は想像を膨らませては、おばさんにまた怒られてしまった。

その人にとってはこのチョコチップの作業が天職なのかもしれないし、
それだけだと少し寂しいけれど、私ができなかったことができる人だ。

しかし私たちはチョコチップを並べるというこんなに簡単なことですら
できる人とできない人がいるんだ。そりゃあ仕事の向き不向きはあるよなと思う。

私も1日で辞める人もいる中でそのバイトはある程度の期間続いた。
時間が永遠かのように思える退屈なバイトだったけれど、無心で何かをするのは嫌いではなかった。隣でやたら怒られながら、割と続けていた。

あの社員さん、まだ続けてるかな。
今、少しチョコチップが偏ったパンを食べながら思う。

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