思いが見える・つながる、ソーシャルドネーションで実現するみんなのまちづくり|SILフェロー紹介①
Sustainable Innovation Lab(以下SIL)には、フェローとして、様々なことに挑戦されている方たちが所属しています。
こちらの連載記事では、フェローの方々にインタビューさせていただき、どんなことに取り組まれているのか、どんな思いでSILに参画したのかをお聞きしました。
最初の1人は、愛媛県西条市で活動されている鈴木直之さんです。
インタビュー、執筆は学生インターン/ユースフェローの渡邉が務めました。
(SILについては、ぜひ以下のリンクをご確認ください。)
――現在はどのようなことに取り組まれていますか?
鈴木さん:愛媛県西条市というところで、地域にソーシャルインパクトを生みだすことをテーマに活動しています。具体的には、ZEN messengerというスマホアプリを使って、NPOやボランティア活動のような地域の市民活動を資金的に支援するプラットフォームを作っているところです。
――取り組みを始めたきっかけはありますか?
鈴木さん:一般社団法人Next Commons Labのローカルベンチャー事業というものがありまして。西条に新しく拠点を作って、そこに県外から西条ならではのビジネスを担当してくれる人を呼んで、支援していくというプロジェクトが立ち上がったんです。その中に、ITを活用してまちづくりをやっていこうというプロジェクトがありました。
今から地方でいろんな社会課題みたいなものがどんどん増えていくという中で、何か新しいテクノロジーを使って課題解決に取り組むというところにすごく可能性を感じて、縁もゆかりもない西条に移住して活動し始めたのがきっかけです。
――地方での活動に可能性を感じたきっかけはなんでしょうか?
鈴木さん:僕は大阪出身なのですが、大阪とかに住んでいても、近所付き合いやコミュニティが少なくて、自分の地域のことを身近に感じることがあまりなくて。地元の地域活動にも興味を持つことがありませんでした。
ただ、僕自身は大阪市内でバーを経営していたんですけど、そこのエリアで同じように飲食店をやっている仲間たちと繋がって、エリアを盛り上げようみたいな。その地域を盛り上げて、どうやったらお客さんに来てもらえるかということをみんなで考えて企画をしたりしているうちに、地域を盛り上げていくことにちょっとずつ関心を持つようになったんです。
元々インターネットなどITに関心があり、今で言ったらスマホを使って何かをするということに興味があります。それらを使って、地域を盛り上げるようなことができないかなっていうのは、ずっと考えていたところがあります。
その中でも、やっぱり都会よりも地方の方が、シャッター商店街や少子高齢化のような問題が大きくなっているなと思っていました。そういう課題を抱えて困っている地域で、新しいテクノロジーを使って流れを変えられるんじゃないかと感じて、やってみたいと思ったというところですね。
――バーを経営されていたんですね。
鈴木さん:はい、12年半ほど大阪の市内でダイニングバーをやっていました。
――IT関係のお仕事をされていたと聞いているのですが、そこからどのような経緯でバーを経営しようと思ったのでしょうか。
鈴木さん:元々ITを使って、リアルなビジネスとインターネットの相乗効果を作るようなことをやりたいと考えていました。当時は2006年くらいで、SNSがちょっとずつ広がり始めていたんです。
それまでインターネットってどんな人がやってるか分からなくて怖かったんですけど、SNSがリアルな人間関係をベースにしてネットでも繋がれるというところに可能性を感じました。じゃあ、ネットとリアルなビジネスを絡めたら面白いことが出来るんじゃないかと考えたときに、バーという人と人が繋がるリアルな場所を思いついたんです。
バーで知り合って仲良くなった人が、SNSでも繋がって飲みに行って、またこのバーに来てくれるみたいな流れが出来ないかと思って、バー専用SNSみたいなものを考えました。こんなことをやりたいっていう話をバーをやっている人に話したんですけど、バーをやってる人たちはネットとかが大嫌いな人が多くて…。誰もやろうかと言ってくれなかったというのもあって、じゃあそれなら自分でSNSもバーも作っちゃおうと思って始めました。
――ZEN messengerはソーシャルドネーションという概念に取り組まれていますよね。ソーシャルドネーションについて具体的に教えていただけますか?
鈴木さん:例えば、インスタのようにアプリ上で”いいね”を押すと、そこに企業などが拠出してくれたお金のうち100円がいく、というような流れで、みんなで支えあったり、応援したりということを見えるようにする。これをソーシャルドネーションと言っています。
地元の団体に、どこどこの企業さんがいくら寄付してくれました、みたいなこともいいと思います。でも、それだとそのお金がどのように使われるのかが良く分からない。町の人たちからしたら、「あー、なんかいい企業なんだな」みたいにぼやっとしていて、自分たちにはあまり関係ないように感じてしまいます。
ボランティアさんたちや企業活動みたいなものが、町の人たちにとって無関係になってしまう。ここを変えていきたいというのが、1番の根っことしてある感じですね。
西条に移り住んで来た時に、地域の困りごとに取り組んでいる人たちにインタビューをさせてもらったんです。お話を聞いていると、何かをやるにあたってはお金がかかるけど、寄付や補助金とかで集めるのは結構大変なので、自分たちで持ち寄ってなんとかやっているという方がすごく多かったんですね。
せっかく町や困っている人たちに対して活動されている方々が、やればやるほどしんどくなっていくのはおかしいんじゃないかと考えました。
そもそものところでいうと、僕の中で社会に対する違和感みたいなものがあったんです。僕は小学校、中学校とペルーに住んでいて、中学3年生の時に日本に帰って来ました。そのときに、カルチャーショックみたいな、日本の価値観にすごく違和感を覚えたんです。
大学生、社会人になってからも、なんかモヤモヤしていたのですが、最近そのモヤモヤの正体が分かってきました。それは何かっていうと、世の中の仕組みが、経済合理性という、儲かるかどうかという一点で動いていることに対しての違和感です。
西条に来て、地域で活動している団体さんの話を聞くと、その人達は経済合理性の外側で活動していることに気づかされます。でも、実際の世の中は経済合理性で動いているじゃないですか。なので、このままだとその人たちはどんどん取り残されてしまう運命にあるんじゃないか、ここに危機感を覚えたということですね。
今僕がやろうとしていることは、経済合理性の論理で動いている社会のお金をいかにその外側の活動にうまいこと繋ぐか、というブリッジを作ることです。
――自分のお金ではなく、ZEN messengerに拠出されたお金を分配していくのですね。
鈴木さん:そうです。自分のお金を使って地域に貢献したいと思った時、どこに寄付したらいいか分からなかったり、いちいち調べていくのも大変だったりします。そんな時、ZEN messengerの仕組みを使えば、町の人達が応援したいと思っているところにちょっとずつ分配して、結果的にこども食堂をやってる団体さんに1万円いきましたよ、というようなことが見えるようになるんですね。
ポイントは、誰がどの団体さんに支援したのかが全て記録として残るようになっているので、お金がどのように分配されたかが分かるところです。僕はこれを資金分配の民主化と呼んでいます。
今まで、ネットなど何かしらの方法でお金を集めることは出来たんですけど、集まったお金をどう使うかはブラックボックス的に決まっていました。税金が、そういう感じじゃないですか。税金が行政に集まるんだけど、それがどういう風に使われるかは自分たちとは関係のないところで決まって、自分の出したお金がどこに行ったのかは分かりません。
でも、ZEN messengerでは自分の出したお金がこういう経路でこういう団体さんにいったことが分かり、こういうことに使いましたということを報告してくれる。それが見えると、「ちゃんと役立ってるやん!」という感じを持てると思います。資金の分配にもみんなが関われるということで資金分配の民主化みたいなことが言えるのではないかと考えてますね。
――SILにフェローとして参画されたきっかけを教えてください。
鈴木さん:Next Commons LabがSustainable Innovation Labを立ち上げるという話を聞いて、面白そうだな、出来ることがあれば一緒にやりたいなと思ったのがきっかけですね。
――SILの場をどのように利用されていますか。
鈴木さん:主に飲み会ですね(笑)。「スナックSIL」というオンライン飲み会で、隣の徳島県で地方創生×Web3に取り組まれている方と繋がったのですが、ZEN messengerの話をしたらすごく興味を持ってくださって。ちょっと一緒にやりましょうよ、ということで今動き出しています。
SILに入ってなかったら、そういう縁もなかったかなと思っていて。SILに興味を持って参加されている方は、地域とかちょっと先の未来のことを考える感度が高い印象がありますね。
SILが、あんまり会社の株価を上げるとか、自社の利益みたいなことをゴリゴリ考えたりするカルチャーじゃないので、僕がやってることを理解してくれて話しやすいなと感じています。
――SILのフェローになるメリットはありますか?
鈴木さん:立場が違えど、近しい価値観を持っている人たちと繋がれるところがメリットだと思います。目指している世界は一緒なんだけど、立ち位置が変わればアプローチの仕方が変わったりとか。メインストリームからしたらまだまだこういう考え方はマイノリティだよね、みたいな話とかが聞けるのはすごく面白いですね。
ただ、全く同じ価値観でもないところも、ちょっと面白いかなと思ってます。1つの価値観だったら、それはそれで面白くないので。目指している世界は一緒で、メインストリームの立場にいる人の話も面白いと思いますね。
社会課題に取り組む主体として、大きく分けて官としての自治体、企業などの民間、市民団体やNPOなどの第三セクターの3つがあって、今後自治体が厳しくなっていく状況で、どういう形がありうるのか。そう考えた時に今の市場経済のメインストリームである企業が重要なプレーヤーになってくると思うのですが、現状まだまだ企業は儲かるかどうかという経済合理性で動いているので、なかなか収益と結びつかない課題には取り組みにくい。
そんな中でも、自社の利益だけを追求することが必ずしも収益拡大に繋がらないということが現実的になってきている現状があるので、ゼロサムゲームではない、エコシステムやコミュニティ的な考え方が必要だという認識が広がり始めているのではないかと思います。
一方で、第三セクターの方も、寄付や助成金などといった外部のお金に頼り続けるモデルに対して持続性の観点から問題意識が生まれ、社会課題に対してビジネスの手法を用いるソーシャルビジネスという流れが出てきています。
これまでまったく別の論理で動いていた領域が、お互いの側から近づくことで重なる部分が出始めているというのが僕の認識で、その重なった部分で何ができるか、というトライアンドエラーがこれからどんどん出てきたら面白いなーと思っています。そういう場として、SILは可能性があるんじゃないかと考えていますね。
――SILが今後どういう風になって欲しいというような希望はありますか。
鈴木さん:全体としてフワッと繋がっているイメージがあるので、エリアごとに強いつながりが出来て、そこから1つの事業を作っていくようなことが色んな地域で生まれる流れが出来てほしいですね。
――SILの全体会議を通してDiscordに「四国トーク」のチャンネルも出来ましたね。
鈴木さん:そうそう。なんかそういう地域で面白いことやってるな、俺らもやろうみたいな話でお互い刺激しあって。「あんなことやってるなら、うちもこんなこと出来るんじゃない?」「お互い協力してなんか出来るんじゃないですか」みたいな、ダイナミクスがどんどん出てきたらいいと思います。
――最後にSILに興味を持ってくださっている方々に向けて一言お願いします。
鈴木さん:スナックみたいに気軽に参加出来る部分もあるので、そういうところから参加して、繋がっていくのもいいと思います。SILは、「なんか意識高そう」「私なんか参加しても何も出来ないんじゃないか」みたいに思われるかもしれないです。でも、自分にとって当たり前のことが、他の人から見たらすごいことはたくさんあると思います。
皆さんが地域でやってることが、他の地域でも出来るんじゃないかみたいな話に繋がっていくこともあります。とりあえずオンラインの飲み会にでも参加して、自分がやってることを他の人に知ってもらうことで、何か新しいものが生まれる可能性があるので、どんどん参加してみたらいいんじゃないかと思います。
《プロフィール》
鈴木直之
父親の仕事の関係で小学校、中学校と7年間南米ペルーで過ごす。中学校の修学旅行はアマゾン川でピラニア釣り。大学院を卒業後、大阪市内のベンチャー企業に就職し、IT部門の立ち上げに関わる。その後独立し、2006年当時流行り始めていたSNSの仕組みを取り入れたダイニングバーを大阪市内にオープン。 2019年、一般社団法人Next Commons Labのローカルベンチャー誘致・育成事業に参加し、愛媛県西条市に移住する。「Give&Givenの世界を実現する」をスローガンに地域課題解決支援プラットフォーム事業を展開しています。2022年10月に株式会社ZENTECHを設立。組合型株式会社Next Commons Lab株主メンバー。Sustainable Innovation Labフェロー。西条市SDGs推進協議会SDGsパートナー。
SILでは、随時フェローを募集しています。ご興味ありましたら、ぜひ参画説明にご参加ください。
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