「孵化」

「どうしよう」
 人生でこれ以上ない衝撃を受けた。スーパーで買った卵から雛が出てきたのだ。

 驚きの小さなさと衝撃的な愛おしさ。僕はそれに心を奪われて、飼うことにした。

 ケージを買い、餌を与え、愛情を注いだ。知らぬ間にヒヨコも僕に懐いてくれた。

 殺伐とした日々が少しずつ幸せな日々になっていく気がした。

 

 次の日、ひよこが潰れていた。僕の真横で。

 僕がケージの鍵をかけ忘れたせいで、ひよこが僕の懐に入っていたのだろう。

 僕は絶望した。あまりにも唐突の別れに心が砕けそうだった。

 僕は己の無力さを呪いながら、ひよこを公園に埋めた。

 数週間後、ニュースを見て驚いた。世界中のスーパーの卵からひよこが孵ったという内容が報道された。

 映像ではひよこが卵パックの中で動いたり、突き破って外に出ている。

もしかしたら、僕はとんでもない出来事に直面していたかもしれない。

 そう思いながら、数日前に出会ったひよこを抱いた。

 今度は離さない。

 

 
 

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