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回復の谷の克服。できる→良くできるへの戦略

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中後のリハビリテーション訓練における回復の谷間を、マカク手先のモデルベース解析により説明する

📕Izawa, Jun, NORIYUKIN HIGO, and Yumi Murata. "Accounting for the valley of recovery during post-stroke rehabilitation training via a model-based analysis of macaque manual dexterity." Frontiers in Rehabilitation Sciences 3: 270. 2022 https://doi.org/10.3389/fresc.2022.1042912
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✅ 前提知識:回復の谷とは?
・リハビリでは、失った機能を代替する比較的簡単な運動スキルの訓練から精密な運動スキルの訓練に段階的に移行する。
・その際に観測される「タスクの成功率が一旦低下する現象」が精密な運動スキルへの移行を困難にしている。
・回復の谷:代償動作→良質動作を選択した際に発生するタスクの成功率が一旦低下する現象

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[背景・目的] 脳卒中患者が脳卒中発症前と同じ正確な運動能力を回復することは、リハビリテーショントレーニングの基本的な目標である。しかし、脳卒中後のリハビリテーション訓練中に起こる一過性の課題遂行能力の低下は、ヒトの臨床結果やニホンザルやリスザルの検索データで観察され、回復期のスムーズな移行を妨げている可能性がある。この低下、すなわち回復の谷は、代償動作から良質動作への移行時にしばしば発生する。そこで私たちは、このような移行と回復の背後にある計算機的なメカニズムを探った。運動技能の学習と同様に、運動回復過程も自発的な回復と訓練による回復から構成されると考えた。具体的には、これら複数の技能更新過程の相互作用が、回復の谷のプロファイルを決定しているのではないかと考えた。

[方法] 本研究では、サルの脳卒中モデルが麻痺した手でエサをつかむ運動スキルを回復する際の、どのようなつかみ方をしたのかと成功率のデータを解析した。

✅ この研究における代償動作と良質動作(本文では精密把握)の定義
・代償動作:トレーニングの初期に見られた親指の背中の部分と人差し指の間にエサを挟み込むようなつかみ方
・良質動作:本来使用していた親指と人差し指を対立させるつかみ方

「回復の谷」の克服の背景にあるメカニズムを明らかにするために、それぞれの把握スキルのレベルがスキルの使用によって更新すること(使用依存的可塑性:Use Dependent Plasticity)を表現した状態空間モデルによってモデル化した。さらに、日数の経過とともにスキルレベルが自発的に回復する要素(自発的回復:Spontaneous Recovery)も加え、これら要素の組み合わせの内、どの組み合わせが最も回復過程を説明するか情報量基準を用いて比較した。

[結果] 代償動作と良質動作のそれぞれの使用依存的可塑性に加えて、一方の使用が他方に影響を与えるような相互作用項と、さらに自発的回復を組み合わせた状態空間モデルが最も良く計測データを説明できることを確認した。さらに、それぞれの定数に外乱を加えて、その影響をシミュレーションする感度解析によって、相互作用を高めると回復の谷を比較的容易に克服できることを明らかにした。

✅ この研究における相互作用を高める介入とは?
・支援ロボットの使用:強制的に動かされると、親指の固有受容入力は、良質動作の感覚経験を形成し、その結果、精密握りプリミティブが刺激されることになる
・神経調節技術によるLTPの増大:経頭蓋磁気刺激(TMS)やtDCSなどの神経調節技術によりLTPの大きさを増加させる

[結論] 結果は支援ロボットによる感覚経験への介入や非侵襲神経調節技術を用いた相互作用項の強化をリハビリテーションに応用することによって「回復の谷」の克服を補助し、代償把握と精密把握の間の移行を促進させる可能性を示唆している。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

日常生活としては自立しているのだが、まだ納得できない。
臨床現場では、そんな『低質』状態に悩む患者に溢れているといっていい。
・歩行は自立しているのだが、まだデュシェンヌ跛行が残っている
・何とか食事は食べられるのだが、ぎこちない
・etc...

「できない/できる」の次の谷、「できる/良くできる」。
FIMでいえば6と7の間という感じか。
その谷の名前を『回復の谷』、というらしい。
僕たちリハビリテーションに従事するものは、1つ目の谷で満足していてはいけない気がする。
回復期においては、早々に1つ目の谷を越える患者も多いが、その後、回復の谷を越えることを明確に意識し、介入に反映させていく必要がある。
その意味で、「できる/良くできる」の領域の存在を明確化させてくれる言葉として『回復の谷』は超有用だ。

今回の研究においては、回復の谷を構成する要因として、運動制御面にフォーカスし、支援ロボットや神経調節技術によって回復の谷の克服を援助することが大事であることを明らかにした。
だが、回復の谷を構成する因子は、それだけではないだろうと思う。
例えば、
・筋力自体がなくても代償動作→良質動作は克服されない。
・良質動作を選択した際に発生した筋肉痛や関節痛は、良質動作への移行を阻害する。
・新たな動作への挑戦に対する恐怖といった心理社会的因子は、実践量を減らし良質動作への移行の障壁となる
回復の谷、という存在が明らかになった。
次は、構成要素を明確化→評価方法を理解→介入方法とリンクさせる。
そこまでできれば、目の前の患者への実用に十分耐えるものになるだろう。
やっていこう!

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