大腿骨近位部の内部構造
📖 文献情報 と 抄録和訳
大腿骨近位部の内部構造:calcar femorale or Adams’ arch?
[背景・目的] 大腿距(femoral calcar)は、英語の文献では、大腿骨頚部の肥厚した内側皮質を指す言葉として用いられている。しかし、大腿距は実際にはまったく別の構造であるため、この用語は正しくない。
[方法] 原著および過去の文献を検索した。
[結果] 大腿骨頚部骨折における大腿骨近位部内側皮質の肥厚の重要性 については、1834~1836年にRobert Adamsがすでに論じていた。そのため、1847年にドイツの外科医C.W.Streubelは、これをAdamscher Knochenbogen(アダムスの弓)と呼んだ。スペルミスのため、この用語は次第にAdambogenと呼ばれるようになり、20世紀に入ると、主にドイツの文献でよく使われるようになった。その後、この用語は忘れ去られ、1960年代に再びドイツの文献で、転子部骨折の手術治療に関連して「ルネッサンス」が起こった。
■ Adams’ Arch:アダムスアーチ
・1834年4月、ダブリンの優れた外科医であり解剖学者であ ったロバート・アダムス(1791~1875年)が、大腿骨頸部 骨折における大腿骨近位部の肥厚した内側皮質の重要性に関する 講義を行った。
・同年(1834年)11月、同じくダブリン出身のロバート・ウィリアム・スミス(Robert William Smith、1807~1873年)が、大腿骨頸部骨折に関する研究を発表し、その中で、アダムスの許可を得て、この構造の図面を掲載した。
・その1年後の1835年10月、アダムスのフランス語による講義の要約が『Gazette Médicale de Paris』誌に掲載された。
・Adams' archという用語は、大腿骨近位部の肥厚した内側皮質に対して用いるべき
■ 3人の著者が示した大腿骨の内部構造
・この時、大腿骨近位部の構造を取り上げたのはアダムスだけではない。
・1838年、20歳の医学生フレデリック・オールドフィールド・ ウォード(Frederick Oldfield Ward:1818~1877)が、『人 間骨学(Human Osteology)』という本の中で、大腿骨近位部の構造について図面を添えて説明しており、それ以来、この 構造は議論され続けている(1)。
・チューリッヒ在住の傑出したドイツ人解剖学者、ゲオルク・ヘルマ ン・フォン・マイヤー(1815~1892年)は、1867年に、大腿骨近位部の内部構造を詳細に分析した研究書『Die Architectur der Spongiosa』 を出版した(2)
■ Calcar Femorale:大腿距
・Evansは、後にAO分類のモデルとなった1949年の転子 骨折の分類で、大腿骨頚部の肥厚した内側皮質を大腿距骨と して記述した。
・Tobinは、1955年の大腿骨近位部の構造に関する広範な研究の中で、大腿距を詳細に記述し、その適切な図面も掲載したが、隣接する肥厚した内側皮質をその一部とみなした。
・1957年にはHartyが、1982年にはGriffinが、大腿踵骨と肥厚した大腿骨内側の皮質が2つ の異なる構造であることを指摘したが、長続きしなかった。
・「ほとんどの整形外科医は、大腿距という用語を、X線前後写真で見た、大腿骨頸部 の内側内側で骨軸との接合部にある、肥厚した密な皮質骨に適用し続けている。
・この部位は、人工股関節全置換術の大腿骨コンポーネントを支え、体重を伝えるのに特に関係する骨の部位である。
・calcar femorale(大腿距)という用語は、小転子のすぐ下の内側皮質から生じた垂直板に対して用いるべき
[結論] しかし、イギリス文献の影響を受け、それ以来、大腿距(calcar femorale)という用語に取って代わられた。Adams' archという用語は、大腿骨近位部の肥厚した内側皮質に対して用いるべきであり、一方、calcar femorale(大腿距)という用語は、小転子のすぐ下の内側皮質から生じた垂直板に対して用いるべきである。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
僕が入職して間も無くのことだが、高齢の整形外科医師にたくさんのことを学んだ。
その医師は、1聞くと10教えてくれるような人だった。
そして、たくさんの大学からの声かけを断って、現場主義にこだわり抜いた、職人的医師だった。
その医師の話は、いつもお絵描きから始まった。
大腿骨近位部の内部構造。
踵骨の内部構造。
骨折箇所と荷重との関係。
描写して、力学的なイメージをもって、妥当な解釈や介入可能性を探る。
大事なことに、そこに「暗記した知」は介在しない、ということだ。
教科書に載っているから、正しいのではない。
ただ、構造と力学があって、目の前の現象が起こっている。
ただ、当たり前のことが当たり前に起こっていて、それをどこまで真に近い箇所で知り、寄り添った一手を打てるか。
そのように考えるためには、構造と力学原理にはどこまでも習熟している必要がある。
それがわかってはじめて、目の前の1つの現象を分かることができる。
現象は暗記すべきものではなく、理解すべきもの。
それを、ぼくに教えてくれた医師。
今回の論文を読んで、その医師を思い出した。
教わったことを生かしきり、また後進に伝えなければならない。
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