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身体活動量と転倒恐怖。転倒恐怖はさほど重要でないかも

📖 文献情報 と 抄録和訳

転倒への恐怖が高齢者の身体活動決定要因に及ぼす影響を理解するための保護動機論的アプローチ

📕Preissner, Christian Erik, et al. "A protection motivation theory approach to understanding how fear of falling affects physical activity determinants in older adults." The Journals of Gerontology: Series B 78.1 (2023): 30-39. https://doi.org/10.1093/geronb/gbac105
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※ Connected Papersとは? >>> note.

✅ 前提知識:保護動機理論とは?
・保護動機理論(Protection Motivation Theory; Rogers, 1983; 図参照)は、個人が現在の健康上の脅威(この場合は転倒)から身を守ろうとすることを前提に、健康行動の意図の形成を理解する上で洞察に満ちた一連の構成概念を提唱している。
・このような意図は、脅威の認知と対処認知によって形成され、予防行動(この場合はPA)への関与の増加や回避行動につながる。
・脅威の評価は、自分の脆弱性の評価と脅威の重大性の評価からなるのに対し、対処の評価は、(a)推奨される健康行動が脅威を効果的に防ぐという認識(すなわち、反応の有効性)と(b)推奨される健康行動に取り組む自分の能力に対する自信(すなわち、自己効力感)を記述するものである。

📕Rogers, Ronald W. Social psychophysiology: A sourcebook (1983): 153-176. >>> pdf.

[背景・目的] 本研究では、身体活動(physical activity, PA)行動の動機づけおよび意図的な決定要因のうち、転倒の恐怖(Fear of Falling, FoF)の相対的重要性を調査するために、拡張保護動機づけ理論を適用した。

[方法] 米国の高齢者(N = 667、65歳以上)を対象に、オンライン調査パネルを用いた調査を行い、自己効力感および反応効力(対処評価)、知覚脆弱性および知覚重大性(脅威評価)、転倒恐怖、自律動機、意図、身体の健康、および過去の運動レベルについて測定を実施した。

[結果] 構造方程式モデルにより、過去のPAレベルと健康状態は認知的構成要素を介して意図を予測することが示された。PAと健康は、脅威と対処の評価を通じてFoFと動機を予測した。FoFは意図を直接予測しなかった。

[考察] 本標本の結果は、恐怖に対する脅威の評価の予測効果を支持するものであった。しかし、身体的に活動する習慣の確立や、その後に育まれた対処評価や動機付けと比較すると、FoFはPAの意図形成にそれほど重要ではない可能性が示唆された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「転ぶのが怖くて、活動できないんです」

これは実際にある事だと思うし、よくできたストーリーだ。
転倒に対する恐怖が身体活動量への意図をくじき、身体活動が増えない。
至極、納得のいく説明だ。

だが、分かりやすく納得できることをもって、正しいとしていいのだろうか?
人間には、単純化本能と呼ばれるバイアスがあって、世界はひとつの切り口で理解できると思い込みやすい。すなわち、理解しやすい、納得しやすい理論 ≒ 正しいと思い込みやすい(📗FACTFULLNESS >>> amazon.)。
だが、あくまでも、それは1つの“理論的な正しさ”であることに注意が必要だ。
山頂に至る道は、1つのみではない。
現実がそこを通ったということが、どうしていえるだろう?
現実の選択した道を、仕組みを知りたくば、現実そのものに詰問する(実験する)しかない。

今回の研究は、身体活動量の意図について、それをやった。
その結果、納得しやすいストーリーに疑問が呈される事となった。

転倒恐怖は、身体活動量の意図を形成するのにさほど重要ではないかもしれない。

実はこの結論、「かもしれない」どころか、最近の別の研究によって実証されてすらいる。

📕地域在住高齢者を対象とした研究
・地域在住の高齢者計200名が対象
・多変量線形回帰を用いて、FOFが自己申告の身体活動レベルを予測するかどうかを検証
・結果:FES-IまたはIcon-FESによって測定されたFOFは、地域在住の高齢者の自己報告による身体活動レベルを予測しないことが示された

Aoyagi, Giovana A., et al. Physiotherapy 116 (2022): 50-57. >>> doi.

ぼくやあなたが当たり前だと思っていること。
それは、理論的な正しさですか?
それとも、実験的な正しさですか?
前者なら、頭蓋の外に出て、その身体を動かし、実験することが推奨される。

人生はすべて実験なのだ。実験は、すればするほどいい。
エマーソン

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