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『志願者バイアス』の段階。調査の会場に来る人、来ない人の認知機能

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者の認知機能、生活機能、心身の健康状態。東京都における会場調査および訪問調査との比較

Sakuma, Naoko, et al. "Cognitive function, daily function and physical and mental health in older adults: A comparison of venue and home-visit community surveys in Metropolitan Tokyo." Archives of gerontology and geriatrics 100 (2022): 104617.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

🔑 Key points
- 高齢者の健康な生活には、認知機能の健康が不可欠。
- 都市部の高齢者サンプルで会場調査と訪問調査を比較した。
- MMSEで測定した認知機能の低下率は、訪問調査で高くなった
- 訪問調査の参加者は、日常生活においてより困難な状況にある可能性がある。
- 家庭訪問調査は、高齢者の代表性を高めるのに役立つ。

[背景・目的] 高齢者を対象に会場調査と訪問調査を行い、両者の認知・健康状態を比較し、認知機能および日常生活機能を評価した。

[方法] 都市部に住む70歳以上の7,614人のうち、5,430人が社会統計学的特徴と老年期うつ病評価尺度(GDS-15)等の自己評価式質問票に関する郵送調査に回答した。このうち、1,360人が会場調査への参加に、693人が訪問調査への参加に同意した。訓練された看護師が、地域包括ケアシステム用認知症評価シート(DASC-21)を用いて参加者の血圧、病歴、日常機能を調べ、ミニ精神状態検査(MMSE)を用いて認知機能検査を行った。

[結果] 2,053名の参加者のうち、2,020名(会場:1,352名、訪問先:668名)がMMSEを実施した。MMSE得点の中央値は会場群28点、家庭訪問群26点で、従来の23/24点以下の参加者は130/1,352人(9.6%)、205/668人(30.7%)であった。訪問診療群では、移動能力の低下、外出頻度の低下、精神的健康の低下、手段的日常動作の自立度の低下がみられた。また、一人暮らしの割合は会場型が39.9%、家庭訪問型が43.7%であった

[結論] 都市部の高齢者を対象としたこのサンプルでは、MMSEを用いて検出された認知機能の低下率は、訪問診療グループの方が会場グループよりも3倍も高いことがわかった。訪問診療参加者は身体機能、認知機能、日常生活機能に困難を抱える傾向が強く、地域生活を継続するために日常生活支援の必要性が高いことが示唆された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

研究結果を歪めるバイアスには、大きく2つある。
ひとつは、選択バイアス(selection bias)であり、セッティングの選定や研究参加者・解析対象者の組入れ・除外、参加者のリクルートなどといった、主にP(Patient)の選択に関連して生じるバイアスのこと。
そしてもうひとつは、情報バイアス(information bias)であり、E(I)やC、Oの測定や分類に関連して生じるバイアスのことを指す。
選択バイアスの1つとして、志願者バイアス(volunteer bias) ≒ 自己選択バイアス(self-selection bias)がある。

✅ 志願者バイアス(≒ 自己選択バイアス)とは?
- 研究への参加・不参加が対象者の自己判断に委ねられる場合、より研究に関心のある人ほど参加しやすくなる
- それに伴い、特にO(アウトカム)に影響を与える性質において、研究参加者が標的母集団 target populationを代表しなくなることで生じるバイアスのことをいう
- 地域住民を対象とする疫学研究であれば、より健康に関心の高い、ヘルスリテラシーの高い住民が研究に参加しやすいなどがこれに当たる
- 一般化可能性を落とすだけでなく、例えば、コントロール群に偏って研究への参加志願者が多く含まれるような症例対照研究では、比較の質を落とす原因にもなる
📗 参考書籍:【大前憲史】医学論文査読のお作法

これまで、志願者バイアスのイメージは、研究への参加 or 不参加という「全か無か」のイメージだった。
今回の研究が明らかにしたことは、「志願者バイアスは単に2段階ではないかもしれない。まだ層別化されるべき段階はある」、ということだ。
すなわち、(1) 会場調査OK→ (2) 訪問調査OK→ (3) 調査NG、という3段階。
この(1)と(2)の間だけでも、認知機能の低下率が3倍も違う。
気になるのは(2)と(3)の違いで、これはもっと大きくなる可能性もある。

志願者バイアスは、研究におけるとても大きなパラドックスを示唆している。

真実をみたい人ほど見えにくく、救いたい人ほど救いにくい

研究者は全般的に、「問題の大きな人ほど、なんとかしたい」という思いを抱いている。一方で、「健康問題の研究に興味がない人ほど、大きな問題に晒されやすい」のだ。
これは、パラドックスであろう。
研究の参加に同意が得られなかった人ほど、シビアな真実をもっている可能性が高い。
現在の研究倫理を遵守する限りにおいて、どこまでもこの問題はついて回る。

非志願者に研究協力を促す方法として、何が考えられるだろう?
・非志願者が望むインセンティブ(例えば金銭的報酬など)を与える
・家族や親しい関係者を巻き込む
・研究調査への関与をより簡易的に、労力がかからないものにする

研究をデザインする際には、志願者バイアスに目を向ける必要がある。
見えにくいからこそ闇なのであり、よく見える部分はすでに光なのである。
闇を照らす術。勉強して考えて身につけて、真実を見出したい、光で照らしたい。

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