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脱臼指導は必要?臼蓋の形態的変化の視点

📖 文献情報 と 抄録和訳

大腿骨頚部骨折のアジア人患者における臼蓋の形態的変化。3次元CTに基づく研究

📕Sano, Kei, et al. "Acetabular morphological variation in Asian patients with femoral neck fracture: A three-dimensional CT-based study." Injury 53.8 (2022): 2823-2831. https://doi.org/10.1016/j.injury.2022.06.023
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Not applicable
✅ 前提知識:臼蓋の形態評価について(この研究の結果で重要だった指標)
・superior acetabular sector angle, SASA
・anterior acetabular sector angle, AASA
・acetabular index angle ≒ sharp角
・posterior acetabular sector angle, PASA
📕Wako, Masanori, et al. Medicine 99.14 (2020). >>> doi.
📕Welton, K. Linnea, et al. JBJS 100.1 (2018): 76-85. >>> doi.

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🔑 Key points
🔹軟部組織の状態や寛骨臼の形状は、人工骨頭置換術後の股関節の安定性に影響を与える。
🔹大腿骨頚部転位骨折の患者における寛骨臼の形態のばらつきはまだ不明である。
🔹本研究の目的は、大腿骨頚部転位骨折のアジア人患者の寛骨臼の個人差を明らかにすることであった

[背景・目的] 寛骨臼の形態は個人差が大きく、ヨーロッパに比べアジアでは低形成が多い。大腿骨頚部骨折に対するバイポーラ人工股関節置換術(bipolar hip arthroplasty, BHA)後の脱臼は一定の確率で発生し、寛骨臼の形態に影響される。本研究は、大腿骨頚部骨折の脱臼をしたアジア人患者の寛骨臼の個人差を明らかにすることを目的とした。

[方法] 大腿骨頚部転位骨折患者50名を評価した(骨折した股関節50名、骨折していない股関節50名)。骨盤前方平面で補正したCT上で、寛骨臼カバー(6つのパラメータ)、寛骨臼深さ(2つのパラメータ)、寛骨臼開き角(4つのパラメータ)について100個の股関節を評価した。さらに、骨折と性別に関連するパラメータを調べた。各パラメータのパーセンタイルは、すべての股関節について示された。

[結果] 臼蓋上角(superior acetabular sector angle, SASA)が110°未満と定義された股関節形成不全の患者はいなかった。男性に比べ、女性は臼蓋前角(anterior acetabular sector angle, AASA)が有意に小さく(p=0.016)、臼蓋傾斜角(p=0.006)および臼蓋指標角(acetabular index angle ≒ sharp角, p=0.034)が有意に大きくなっていた。SASAが正常なグループでは、7関節(7.3%)に前壁欠損(AASA<50°)、5関節(5.2%)に後壁欠損(posterior acetabular sector angle, PASA; <90°)がみられた。

[結論] 大腿骨頚部骨折の高齢者は、SASAが正常であっても、前壁および後壁の欠損を有することがある。隠れた寛骨臼形成不全はBHA後の脱臼に関係している可能性がある。したがって、大腿骨頚部骨折患者の手術前に寛骨臼を正確に評価することが重要であることが示唆された。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

第10回日本運動器理学療法学会学術大会において、興味深いディスカションがあった。
概ね、以下の通りである。

質問者:「最近は、もう脱臼とかしないんじゃないかって思っているですけど、脱臼への指導などはしているんですか?」
発表者:「確かに、ほとんど脱臼しないので、そんなに脱臼指導はしていません」
それに対するTwitterコメント:「安易に脱臼指導の必要性が低い、という議論は良いとは思えない」

その議論が、頭の中で強烈に残っていた。
そして、この論文に出会った。
おそらく、人工骨頭置換術者を一括りにしてしまうから、議論が分かれる。
「トリアージ」が、1つの解答ではないかと思った。

✅ トリアージとは?
- トリアージとは、一般的には、重要で最初に扱うべき者を選別(および決定)することを言う。
- 特に、患者の重症度に基づいて、医療・治療の優先度を決定して選別を行うことを説明する。
- 語源は「選別」を意味するフランス語のトリアージュ(仏: triage)から来ているとする説が有力である。
🌍 参考サイト >>> wiki.

たとえば、BHA術後の患者について、以下の2つの観点からスクリーニングをかける。
(項目は暫定的、現時点では適当である)

・臼蓋の形態としての脱臼リスク
・オペによる関節包の縛り方が緩いかキツイか

その結果から、レッドゾーン(かなり脱臼リスク高い)、イエローゾーン(脱臼リスク中程度)、グリーンゾーン(ほぼ脱臼しないでしょう)など区分けする。
すべてのゾーンの患者に対して、パンフレットを用いた指導をする。
その後、レッドゾーンの患者にはリハビリ中にしっかりとした脱臼リスクに対する個別介入をする。
イエローゾーンの患者に対しては、逐次声かけをする意識を持つ。
グリーンゾーンの患者に対しては、そんなに気にしなくてもいい。

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脱臼リスクへの指導は、すればするほどいい、というものではないと思う。
その他の介入(例えば筋トレ)との時間配分のトレードオフの関係もあるし、何より、過度な脱臼リスクへの恐怖を与えることは、その角度領域における不活動をもたらし、不使用の学習や身体機能の低下をもたらすだろう。
必要な患者に対して、必要なだけの脱臼リスク指導ができたら最高だ。
そのためには、今回発案されたようなトリアージシステムを、妥当なものとして構築し、運用されていく必要があるだろう。

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