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治療同盟(ラポール形成)の要因

▼ 文献情報 と 抄録和訳

患者が報告する治療同盟の患者レベルおよび理学療法士レベルの予測因子。膝痛と腰痛のコホートにおける観察的,探索的研究

Beneciuk, Jason M., et al. "Patient-and Physical Therapist–Level Predictors of Patient-Reported Therapeutic Alliance: An Observational, Exploratory Study of Cohorts With Knee and Low Back Pain." Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 102.12 (2021): 2335-2342.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ ハイライト
- 患者および理学療法士レベルの要因が、患者が報告する治療同盟を予測した。
- 患者が報告する治療同盟は、修正可能な理学療法士の要因(すなわち、理学療法士の態度、信念、自己効力感)に影響される可能性がある。
- これらの関係は、筋骨格系の痛みの状態によって異なる可能性がある。

[背景・目的] 膝痛または腰痛(LBP)に対する理学療法エピソード終了時の治療同盟について、患者レベルおよび理学療法士レベルの予測因子を同定すること。

[方法] 対象は膝関節症または腰痛のために理学療法を受けている患者(n=189)および理学療法士(n=19)。予測変数の候補として、人口統計学、患者の臨床的特徴、理学療法士の態度と信念(理学療法士のための痛みの態度と信念尺度)、患者中心のケアを提供する自信(患者中心における自己効力感質問票)などが挙げられた。治療同盟は12項目のWork Alliance Inventory-Short Revised (WAI-SR)を用いて測定された。

[結果] 最終的な線形混合モデルは、膝関節症と腰痛のコホート間で、最終的なWAI-SRスコアを予測する上で、患者レベルと理学療法士レベルで異なる要因の寄与があることを示した。女性性別は膝関節症(推定β=1.57、P<.05)、腰痛症(β=1.42、P<.05)ともに一貫した患者レベルの予測因子であり、年齢(β=0.07、P<.01)、ベースライン機能(β=0.06、P<.01)はそれぞれ膝関節症と腰痛のコーホートに貢献した。理学療法士レベルの予測因子としては、女性性別(β=6.04、P<.05)、理学療法士の行動に対する態度・信念尺度(β=0.65、P<.01)、患者中心の自己効力感質問票(SEPCQ)患者視点の探求(β=-0. 75, P<.01)、LBPではSEPCQ Sharing Information and Powerサブスケール得点(β=0.56, P<.05)が寄与し、膝(β=0.56、P<.05)およびLBP(β=0.74、P<.01)の両コホートで寄与していた。理学療法士にネストされた患者のランダム効果は、両コホートで観察された。

[結論] これらの知見は,膝関節症および腰痛のコホートにおいて,患者および理学療法士レベルの因子と治療同盟の間に一貫性のない関係を示す予備的な証拠となる.

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

ラポールを狙って形成するためには、その要因を知る必要がある。
今回の研究は、理学療法士側、患者側の特徴の一端を明らかにした重要な研究だ。

重要な研究ではある。ただ、あらゆる観察研究においてそうなのだが、結果の解釈や用い方に注意が必要だと思った。
その注意点が、「セラピストの一様化・統制化の強制」だ。
例えば、理学療法士の要因に着眼してみる。
(1) 理学療法士の行動的治療志向を支持する態度および信念
(2) 情報および権力の共有に関する自己効力感の高得点

以上の2つの特徴はラポールの形成にプラスに働く。
だから、すべてのセラピストは、(1)や(2)のような特徴を持つべきだ。
そう結論したくなる。それが落とし穴、注意点。
この結果は「ラポール形成において」というダイヤグラムの一角の突出を示すに過ぎない。
その意識を強く持たないと、多様性の欠如へ向かう、と思ったのだ。

今回の良さの逆だって、別次元における善かも知れない。
(1) 行動的治療志向を支持しない態度 → 急性炎症期には向いてるかも
(2) 情報および権力の共有に関する自信がない → 自信がないから勉強や準備怠らないかも

観察研究は、選択肢を増やしたり、目的地への灯台をつくったらいい。
だが、人間や景観を一様にすることに貢献し過ぎてはいけないと思う。
「生きる」ことは、可能性の膨張であって、限定ではない。
エビデンスは、これを逆行させる可能性がある。

エントロピー最大化は、すなわち「死」である。
研究結果をどのように活用するのか、その部分にも哲学が必要であろう。
良いことだけにすることが、良いこととは限らない。
天使の影には、角が生えているかもしれない。

汚い土には多くの作物ができ、澄みすぎる水には魚は住みつかない。
そこで君子たる者は、世俗の恥や汚れを受け入れる度量を持つべきであり、
あまり潔癖すぎて世俗の外に超然たる節操を持つべきではない。

菜根譚

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