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感情失禁・脳の主座

▼ 文献情報 と 抄録和訳

病的な笑いと泣き:病巣ネットワーク-症状マッピングからの洞察

Klingbeil J, Wawrzyniak M, Stockert A, et al. Pathological laughter and crying: insights from lesion network-symptom-mapping. Brain. 2021;144(10):3264-3276.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar, oup[full]

[背景・目的] 病的な笑いと泣き(PLC)の研究は、人間の特徴である笑いと泣きの神経基盤についての洞察を可能にする。病的な笑いと泣き(PLC)とは、些細な刺激によって引き起こされる、制御不能な笑いや泣きの短時間、強度、頻度の高いエピソードで定義される。PLCは、脳卒中、腫瘍、神経変性疾患などの中枢神経系疾患に続発して起こる。PLCは、様々な病変部位が報告されているケーススタディに基づき、大脳皮質-辺縁系-皮質下-視床-先天-小脳のネットワークの機能障害として概念化されている。そこで我々は、PLCの症例報告を対象とした系統的な文献検索で同定された70の局所病変に対して、「病変ネットワーク-症状マッピング」を適用した。

[方法-結果] lesion network-symptom-mappingでは、規範となるコネクトームデータ(安静時機能的MRI、n = 100)を用いて、病変部の位置に基づいてジアスキシスの影響を受けていると思われる脳領域を特定した。病変部ネットワーク-症状マッピングにより、対照コホート(n = 270)と比較して、PLCに特異的な共通ネットワークを特定することができた。この2つのネットワークは、帯状皮質、側頭葉皮質、線条体、視床下部、間脳、橋との正の連結性と、一次運動皮質、感覚皮質との負の連結性で特徴づけられる。最も影響力のあるPLCの病態生理学的モデルでは、顔の表情、呼吸、発声を制御・調整する中枢が扁桃周囲の灰色に存在すると想定されており、この中枢は、側頭葉、前頭葉、基底核、視床下部から下降する扁桃周囲の灰色を興奮的に制御する感情系と、外側前運動皮質から下降する笑いや泣きを抑制する意志系の2つの経路を介して制御される。

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✅ 図:PLCネットワークとPLCの仮想的な2つのヒットモデル
P(FWE)<0.05で閾値を設定し、ガラス脳にマッピングしたPLC対対照コホートのLNSMのパラメジアン矢状画像。
(A) 最も影響力のあるPLCの病態生理学的モデルでは、顔の表情、呼吸、発声を調整するPAGの「顔面呼吸」または「笑いのコントロール」センターが想定されており、このセンターは2つの経路で制御されている。すなわち、側頭葉、前頭葉、基底核、視床、視床下部から下降する興奮制御を行う感情系と、外側運動前野から下降する笑いや泣きを抑制する意志系である。これらの経路は、それぞれ「正のPLCネットワーク」(暖色系)と「負のPLCネットワーク」(寒色系)にマッピングされている。
(B)2つの経路のうち、どちらか一方だけに病変があると、VFPやEFPが孤立する。情動系のてんかん病巣では、ゲル状(またはダクリスチク)の発作が起こる。
(C)仮想的な2ヒットモデルでは、PLCは意志系と感情系の両方に影響を与える病変の結果である。両サブシステムの機能障害は、正確な病変の位置と大きさに応じて、直接的な病変および/または病変から離れたジアスキシス効果の組み合わせによって引き起こされる。ジアスキシスのため、1つの病変が両方のサブネットワークに同時に機能的に影響を与えることがある。M1=一次運動野、PAG=橋の周囲の灰色、S1=一次感覚野、SMA=補足運動野。

今回の解析で特定されたポジティブおよびネガティブなPLCサブネットワークが、実際に情動システムと意志システムに関連しているかどうかを検証するために、2回目の文献検索で情動性顔面神経麻痺(n = 15)または意志性顔面神経麻痺(n = 46)を引き起こす病変を特定した。情動性顔面神経麻痺の患者では、情動的な動きは維持されるものの、患部の半面で情動的な動きを引き起こすことができず、情動性顔面神経麻痺ではその逆であった。重要なのは、これらの病変がPLCサブネットワークに異なる形でマッピングされていることである。すなわち、「ポジティブPLCサブネットワーク」は情動システムの一部であり、「ネガティブPLCサブネットワーク」は顔の動きを制御する意志システムと重なっている。

[結論] このネットワーク分析に基づいて、我々はPLCの2ヒットモデルを提案する。すなわち、直接的な病変と間接的なダイアスキーズ効果の組み合わせにより、機能不全に陥った感情システムの抑制性皮質制御が失われることで、PLCが引き起こされるのである。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

感情失禁は、リハビリテーションの効果にとって、大きな障壁となる。

✅ 感情失禁が障壁となるメカニズム
①代謝系に影響:感情の起伏 → ストレス → ストレスホルモン↑ → 同化が阻害
②介入量・質に影響:感情の起伏 → 介入に集中できない → 介入量・質の低下

今のところ、上記のメカニズムを考えている。
が、感情の起伏が大きいことは、ただ「悪」だろうか。

君よ、僕のことは心配しないでくれ、傷ついても僕は僕だ。
いつかは更に力強く起き上がるだろう。
これが神から与えられた杯ならば、
ともかく自分はそれをのみほさなければならない。

武者小路実篤 友情より

以上のように、感情の起伏をエネルギーとして更に強化される場合もある。
このような強化作用は、疾患が人間にもたらす善の側面かもしれない。
ただ、その場合であっても、感情の起伏から強化が起こるまでの「陣痛期間」「超回復期間」がある。
その時間が、抑うつが、介入量を奪う。結果、効果が出にくくなる。

だから、リハビリテーションにとって、感情失禁は「強敵」の1つである。
その感情失禁の主座が分かったということは、大きなニュースだ。
入院時・入棟時の脳画像から、発生を予測し、予後予測に生かすことができる。
また、感情失禁を引き起こす患者に対する有効な手立てを準備することもできる。
なんにせよ、事前に発生を予測できることは武器だ。

事をおこなうとき、なによりも知るということが大事だ
河井継之助

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