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腱・靱帯修復の仕組み。プロジェニター細胞の役割

📖 文献情報 と 抄録和訳

RSPO2は腱・靭帯の未分化前駆細胞を識別し、異所性骨化を抑制する

📕Tachibana N, Chijimatsu R, Okada H, et al. RSPO2 defines a distinct undifferentiated progenitor in the tendon/ligament and suppresses ectopic ossification. Sci Adv. 2022;8(33):eabn2138. https://doi.org/10.1126/sciadv.abn2138
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🔑 Key points
- 腱・靭帯が障害を受けた際に出現する新規のプロジェニター細胞が発見された。このプロジェニター細胞は RSPO2という分泌タンパクを出し、腱・靱帯が損傷を受けた際に正しく修復が進むように周囲の細胞に作用することが解明された
- プロジェニター細胞は RSPO2 の分泌を介し、腱・靱帯損傷後の修復過程において本来出来てはならない軟骨や骨の発生を防ぐこと、また、後縦靭帯骨化症の原因遺伝子の一つでもある RSPO2 の分泌の低下が靱帯骨化に繋がることも明らかにされた
- プロジェニターは腱・靱帯の維持に広く関わっている可能性が高く、今回の成果は関節や脊椎の様々な変性疾患のメカニズム解明にも貢献すると期待される

[背景・目的] 腱/靭帯の異所性軟骨内骨化は、反復的な機械的過負荷や炎症によって引き起こされる。腱幹・前駆細胞(Tendon stem/progenitor cells, TSPC)は組織修復に寄与し、その一部はルブリシン[プロテオグリカン4(proteoglycan 4, PRG4)]を発現している。しかし、異所性骨化およびTSPCの関連機構はまだ知られていない。

[方法-結果]

 ■ 実験1
- マウスのアキレス腱を針で穿刺すると、その修復過程において本来出来てはならない軟骨や骨が腱の一部分に生じてしまう。このモデルを用いて 1 細胞毎に発現遺伝子を解析するシングルセル解析を行い、修復過程に関わる細胞を全て解析したところ、プロジェニター細胞集団の中に RSPO2 を発現する一群がいることが発見された。
- このプロジェニター細胞は最も未分化な特性を持つプロジェニター細胞であり、主に RSPO2 の分泌を介して周囲の細胞に作用することが予想された。
- そこでRSPO2 を抗体によってブロックし、その機能を抑制したところ、腱修復過程での軟骨・骨が増え、逆に RSPO2 を豊富に発現させると腱修復過程での軟骨・骨が減ることが分かった(下図)。

スライド2

■ 実験2
- 次に研究グループは RSPO2 を分泌するプロジェニター細胞と後縦靭帯骨化症との関連を調べた。
- まずマウスの後縦靭帯を調べたところ、RSPO2 は豊富に発現していた。
- 続いて、後縦靭帯骨化症患者の手術の際に切除したサンプルを解析したところ、骨化靱帯の周辺にRSPO2 が発現していた。また、後縦靭帯骨化症患者由来の細胞では、他の疾患の患者由来の細胞と比べて RSPO2 の発現量が低いことが分かった。
- これらのことから、このRSPO2 を分泌するプロジェニター細胞が後縦靭帯骨化症の発症にも関わっていることが分かった。

[結論] この RSPO2 を分泌するプロジェニター細胞は、後縦靭帯骨化症以外にも様々な腱・靱帯の疾患に関わっている可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

目下、感染対策を、毎日せっせとやっている。
一に消毒、二に消毒、三四がなくて五に消毒、である。
その毎日の中で、「帰結が目に見えない実践は、暖簾に腕押し」だなぁ、と感じる。
たくさん消毒したときに、黒く塗られたものが輝くように、目に見えて変わるわけではなく、見た目はほぼ変わらない。
だが、感染物質は確かに減少している、と信じているし、実際そうなのだろう。
「エビデンスをもとに信じる」以上のフィードバックのない実践は、暖簾に腕押しのような感じなのだ。

腱や靭帯損傷者へのリハビリテーションでも、似たような感じがある。

(1) エビデンス上、この時期に、力学的負荷を与えることで腱や靭帯の回復は促進され、ストレス応力が増大することがわかっている。
(2) そのエビデンスに基づいて、リハビリテーションで力学的負荷をかけた
(3) その場で即時的なフィードバックは症状以外得にくく、ただ、信じた
(4) 長期的には画像での組織確認などで帰結の確認は可能となる

現場でできる(1)〜(3)は、やはり暖簾に腕押しのような感じなのだ。
今回明らかになったような病態の解明によって、そのような世界が変わる可能性がある。
たとえば、プロジェニター細胞の発現を即時的に計測できる機械があったとして、リハビリテーション後に計測値を得る。
その計測値から、「あっ、プロジェニター細胞が少ない。まだ力学負荷が悪影響が出る時期なのかな」とか「プロジェニター細胞が少ないから、医師に相談して注入してもらおう」とか、そういう世界観が出てくると思う。
だからこそ、病態レベルの仕組みの解明は非常に有意義だが、臨床現場としては、それを『見える化』できる技術が、臨床応用にとって大事になってくる。
病態レベルの仕組みを見つけたら、『How』(それをどう臨床活用できる?)という実践案を検討することを習慣にしてみよう。

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