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目視の検出能『12度』。ゴニオメータ、スマホ計測との比較

📖 文献情報 と 抄録和訳

理学療法士が前屈、スクワット、手のひら返しを観察すると、一平面運動で12以上の変化を検出することができた。横断的な実験

📕Abbott, Emily, et al. "Physiotherapists could detect changes of 12 or more in single-plane movement when observing forward bending, squat or hand-over-head: A cross-sectional experiment." Musculoskeletal Science and Practice (2022): 102594. https://doi.org/10.1016/j.msksp.2022.102594
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🔑 Key points
- 理学療法士は12°以上の動的な関節運動の変化を視覚的に評価できた。
- より小さな変化を評価するためには他の測定ツールが必要な場合がある。
- 精度は、観察する活動や理学療法士の属性とは無関係であった。

[背景・目的] 理学療法士が動的な関節角度の変化を検出する際の視覚的な精度は不明である。目的:理学療法士が視覚的に検出可能な最小の動作変化と、視覚的精度が観察される機能的活動や理学療法士の特徴と関連しているかどうかを調査すること。

[方法] 34名の理学療法士が、スクワット、ハンドオーバー、前屈の機能動作と人工テスト条件(基準動作に続き、0°から15°までのピーク角度がランダムに異なる動作、つまり機能動作ごとに18セットのペアビデオ)のビデオを視聴し、評価を行った。視覚的追跡を継続的にモニターしながら、基準動作に対する各可動域の相対的評価(同じ/多い/少ない)を行った。精度は、3回中2回正解(2/3)と3回中3回正解(3/3)の2つの閾値を使用して計算(マルチレベル回帰)された。

[結果] 80%以上の理学療法士が2/3の閾値で9°,3/3の閾値で12°の差を検出することができた.3/3の閾値で膝関節屈曲と肩関節外転を比較した場合を除き、視覚的精度と経験、性別、動作の種類との間に関連は見られなかった(p>0.05)。精度と視覚的追跡特性との関連は、腰椎屈曲の評価においてのみであり、より多くの視覚的固定領域を使用し、領域あたりの固定時間を短くすることがより正確であることが示された。

[結論] 理学療法士は、シングルプレーン、低速の機能的活動において、12°以上の変化を検出することに一貫して正確であった。視覚的精度は、経験や性別では説明できず、機能的活動の種類や視覚的固定方法との関連はほとんどなかった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

僕たちは、目の前の現実を他者にも共有可能な「数値」に置き換えるために、さまざまな評価ツール(定規)を用いている。
そして、その定規の品質として『信頼性』と『妥当性』というものがある。
信頼性の質問は「その定規は、ぶれなく同じ結果を指すか?」であり、
妥当性の質問は「その定規は、真に見たいものを指すか?」である。

今回の研究は、信頼性の話。
目視では 『12度』以上の変化は正確に捉えることができるらしい。
逆にいえば、12度未満は測定誤差である可能性が高いということ。
さて、この精度は高いだろうか?、低いだろうか?
ゴニオメータを用いた計測、iphoneなどのスマホを用いた角度算出値の精度と比較してみたい。

この精度を比較する際、前提知識として『最小可検変化量 MDC (Minimal Detectable Change)95 or 90』について知っておかなければならない。

✅ 最小可検変化量 MDC (Minimal Detectable Change)95とは?
- 信頼性を表す指標の1つ.
- MDC(最小可検変化量)は,再テストなどの繰り返し測定により得られた2つの測定値の変化量の中で測定誤差の大きさを示したもので,MDC 以内の変化は測定誤差によるもの,それ以上の変化が測定誤差以上の変化と判断される.
- このMDC値の95%信頼区間がMDC95.
- 例をあげると,TUGT(Timed Up and Go test)のMDC95が2.9秒と求められた場合,同じ対象者に対して2回TUGTを行い,2.9秒以内の差であれば測定誤差によるもの,2.9秒より大きい差であれば,測定誤差以上の変化と判断される.
🌍 参考サイト >>> site.

■ ゴニオメータのMDC 95 or 90(膝関節屈曲 & 伸展角度に限定して記載)
2度〜4.6度(📕Mehta, 2021(1) >>> doi.; 📕Mehta, 2021(2) >>> doi.; 📕百瀬, 2013 >>> doi.)

■ iphoneなどのスマホを用いた角度算出値のMDC95 or 90
・2度〜6.6度(📕Mehta, 2021 >>> doi.; Mehta, 2017 >>> doi.)

以上の結果からすると、目視はややピントのぼやけた定規といえる。
だたし、ゴニオメータでも、スマホでも、完全な測定精度ではないことに注意が必要だ。

僕たちの手づくりの定規は、
夏の入道雲のようにくっきりしたのもではない
それは、レーザーポインターのような示し方ではなく、
懐中電灯のように指し示す。
その光は、一応の中心点は持つものの、周囲に幅を持つ光。
その幅が、MDCになるイメージだろうか。

レーザーポインターのような示し方ができたなら、それは最高だ。
評価尺度開発者の誰もが、それを夢見ている。
だが、それは無理というもの、というか野暮だ。
完全とは、機械の仕事。
人が関わる仕事に、完全はない。
あったとしたら、それは生命ではなく、死だ。
僕たちは、人間だ。
人間らしい仕事を、元気にすればいい。
大事なことは、そこに精度の問題が横たわっていることを知り、完全はないが最良はあるとを信じること。
測定することで、人と分かち合い、後世に情報を伝えられる。
定規をつくることは、時間と空間に橋をかけることに近い。

"if you cannot measure it, it does not exist."
測定できないものは存在しないのだ

ブレネー・ブラウン

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