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バランスと振幅。揺れていた方がいい?

📖 文献情報 と 抄録和訳

姿勢制御戦略は、COPの分数成分の複雑さによって明らかになる

Moreno, Francisco J., Carla Caballero, and David Barbado. "Postural control strategies are revealed by the complexity of fractional components of COP." Journal of Neurophysiology 127.5 (2022): 1289-1297. https://doi.org/10.1152/jn.00426.2021

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

🔑 Key points
- 圧力の中心(COP)の複雑さとバランス性能の関係は十分に確立されていない。
- タスクの制約とCOPのフィルタリング分解がこの関係に影響を与える可能性がある。
- COPの複雑さ(揺れの多さ)は、COPの低周波数と中周波数においてのみ、より良いバランスパフォーマンスと関連している
- 異なる周波数は、異なる姿勢制御成分を測定する
- 今後、姿勢制御の基礎的なメカニズムを解明するために、フィルタリング分解を検討する必要がある。

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[背景・目的] 圧力の中心(COP)の複雑さは、姿勢制御の基礎的なメカニズムに関する重要な情報を提供する。COPの複雑さとバランス能力との関係は十分に確立されておらず、課題制約やCOP信号のフィルタリング分解に依存している可能性がある。本研究では、異なる課題制約下におけるCOPの複雑性を評価し、COP変動の創発ダイナミクスが、末梢調節に関連するCOPの分数成分や中枢調節に関連するCOPの分数成分によって異なるかどうかを評価した。

[方法] 162名の参加者が2つの座位バランス課題を行った。縦軸または横軸に移動する標的を追うことで精度が求められた。COPの複雑なダイナミクスは、精度要求によって制約される軸と制約されない軸でデトレンドゆらぎ解析(DFA)を通じて扱われた。COP成分の分解は、ローパス(大きな振幅だけを検出)、バンドパス(中間の振幅を検出)、ハイパス(小さな振幅だけを検出)の各フィルタで行った

[結果] 拘束軸のCOPのローパス成分とバンドパス成分のDFAは、バランス性能と小から中程度の関係(r = 0.190-0.237)であった。COPの高域成分のDFAは、両軸(制約付き、非制約付き)において逆の関係(r = -0.283 ~ -0.453)を示していた。

[結論] 以上の結果により、COPの複雑さがパフォーマンス向上につながることが証明された。この複雑さとパフォーマンスの正の関係は、COPの低周波成分と中周波成分で観察される。これらの成分は、姿勢制御の中枢機構に関連している可能性がある。本研究で分析された異なる周波数間の関係がないことは、姿勢制御の異なる構成要素を捉えていることを示唆している。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

今回の結果は少し分かりにくいが、ざっくり述べれば以下の一文に尽きる。

中・大の揺れの波が多いとバランスパフォーマンスが上がり、
小の揺れの波が多いとバランスパフォーマンスは下がる

今回は、この前者「中・大の揺れの波が多いとバランスパフォーマンスが上がる」に注目したい。
直感的に考えると、揺れ→バランス課題におけるパフォーマンス低下、になりそうだ。
だが、よく考えてほしい。
僕たちは、出力-入力の関係性から、何かを知る。
具体例をあげよう。
いま、机の表面のざらざら具合を確かめてみてほしい。
あなたは、手で机に触れただけではないはずだ。
きっと、擦ったことと思う。
「あなたの手の出力に対して、この感じの入力だったら、こんなざらざら具合ですね」という統合が行われているのだ。
その過程では、1つの出力-入力の関係性だけでなく、いくつもの関係性を知ることによって、物体の特性や状況・状態を知ることができる。
そのためには、擦る、揺り動かす、振るなど、「自ら動かしてみる」ことが重要となる(例. ガイドポストの硬さを知るためのActive touchの利用)。
このような考え方を「Active touch」という。

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バランスにおいても、このActive touchが起こっているのではないか。
転ぶまではいかない揺れによって、いまの重心位置を適切に検出する「戦略」をとっているとしたら。
今回の抄読論文の結果は、納得のいくものになる。

波はあっていい、あった方がいい。
穏やかな浜辺にも。波は寄せる。それが育む生命もある。
むしろ、平坦こそ不健全だ。完全な平坦は死を意味する。
ある程度の大きさの波は、むしろ必要。
今日は、バランス課題で揺れの大きさに目を見張ってみよう。
それにしても着眼点というものは、無限にあるものだ。

こんなものを見たことがあるかな?(心電図波形)
若者は言った。
「脈拍を表しているようですが」
「この上昇と下降から、何が思い浮かぶ?」
「山と谷です!」
「そう。しかし、これは何だと思う?」
今度は直線を描いた。
若者は言った。
「まったく脈のない状態を示していると思います」
「そうだーこうなっては問題だ!」

「頂きはどこにある?」より抜粋

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