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幻肢痛と鏡

📖 文献情報 と 抄録和訳

切断患者における幻肢感覚と幻肢痛に対するミラーセラピーの効果;ランダム化比較試験のシステマティックレビューとメタアナリシス

📕 Wang, Fengyi, et al. "Effects of mirror therapy on phantom limb sensation and phantom limb pain in amputees: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials." Clinical Rehabilitation 35.12 (2021): 1710-1721. https://doi.org/10.1177/02692155211027332
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✅ 前提知識:幻肢痛に対するミラーセラピーとは?
■ 方法
1. 標準的な鏡を用意する (脚切断の場合はクローゼット サイズ、腕切断の場合は短め)。
2. 腕の切断位置: テーブルに座る。脚の切断位置: 床、ソファ、またはベッドに座る。
3. 切断部位がミラーの後ろに隠れるように、体の正中線を横切ってミラーを配置する。
4. 鏡は無傷の腕または脚の画像を反映する。したがって、健康な肢と別の健康な肢の画像を見ることができる。このようにして、脳は切断が発生していないという情報をエンコードする。
5. ミラーを安定させる方法を見つけて、治療中にミラーのバランスを気にしないようにする。
6. 毎日 20 ~ 25 分間、鏡を見ながら穏やかな動きをする。
■ ミラーセラピーが幻肢痛を軽減する仕組み
- ミラーセラピーは、本質的に痛みから「脳をだます」ことによって機能する。
- 痛みの信号は脳で処理されるため、脳の「入力」を変更して、痛みに関して異なる「出力」を得ることができる。
- ミラーセラピーを実践すると、脳は両方の手足が無傷で機能しているという情報を受け取る。
- この新しい情報を受け取ると大脳皮質の再構築が起こり、再構築によって痛みが軽減または解消されることは、現在では広く受け入れられている。
🌍 参考サイト >>> site.

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[背景・目的] この系統的レビューとメタアナリシスは、切断患者における幻肢感覚と幻肢痛に対するミラーセラピー(Mirror Therapy, MT)の効果を評価することを目的とした。データソース9つの電子データベース(PubMed, EMBASE, MEDLINE, Web of Science, the Cochrane Library, CINAHL, PsycInfo, PreQuest, PEDro)をその開始時から2021年5月10日まで検索した。

[方法] 2名の著者が独立して関連する研究を選択し,データを抽出した。ランダム効果モデルのメタ分析で効果量を算出し,I2検定で異質性を評価した。バイアスリスクはCochrane risk of bias toolで評価し、方法論の質はPEDroスケールで評価した。効果の信頼性を評価するためにGRADEアプローチを適用した。

[結果] 491名の参加者を含む合計11件のRCTがこのレビューに含まれ、372名の参加者を含む9件のRCTがメタ分析に含まれた。これらの研究の質は、PEDroスケールで2点から8点の範囲であり、悪いものから良いものであった。プールされたSMDは、鏡面療法が他の方法(カバーミラー4件、ファントム運動1件、精神的視覚化3件、感覚運動1件、経皮電気神経刺激1件、触覚刺激1件)と比較して大きな効果量(-0.81;95%CI = -1.36 to -0.25;P = 0.005;I2 = 82%;n = 372)で痛みを軽減したことを明らかにした。アウトカムである痛みの強さに関するエビデンスの質は、GRADEのアプローチによれば、fairと判定された。

[結論] MTが幻肢痛の軽減に有益であることを示す、質の高いエビデンスが存在する。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

まず、幻肢痛の概論については以下の文献を参考にされたい、網羅されている。

📕 大住倫弘, et al. "当事者とともに拓かれる幻肢痛リハビリテーション." 認知科学 29.2 (2022): 303-311. >>> doi.

さて、最近『超適応』なる概念を学んだ。

✅ 超適応とは?
超適応:=身体や脳の変容に対して、脳の潜在的な機能を再構成しながら新たな行動遂行則を獲得する学習過程
🌍 参考サイト >>> site.

たとえば、超適応はパラリンピック選手に見られる。
タチアナ・マクファーデン選手は、二分脊椎症による先天性下半身不随。
8歳で車いすレースを始める。2004年のアテネ大会から2021年の東京大会まで6大会連続で夏季パラリンピックに出場し、 延べ19個のメダルを獲得。 クロスカントリースキーにも挑戦し、1年半のクロスカントリートレーニングを経て、2002年のソチ冬季大会で銀メダルを獲得。
そのマクファーデン選手の『運動野足領域が手の領域になっている』という衝撃の事実を内藤栄一先生の勉強会で学んだ(📕Morita, 2022 >>> doi.)。
この例では、通常足の役割を果たすのが手であるため、手の領域が拡大した。

そして、幻肢・幻肢痛の改善もこの『超適応』ではないかと感じた。
起こっていることは、似ているのだ。
例えば下腿切断の場合。
下腿以遠(足関節・足部・足指etc...)の役割を、下腿近位部が果たすことになる。
そのための脳における超適応が、徐々に起こっていく(速度は不明)。
切断は、いきなり人為的になされる。
身体にとっては、突然世界の一部が断絶され、以後なくなってしまうのだ。
その混乱たるや、想像を絶する。
脳では、これまでのボディスキーマが残っている。
だが、そのボディスキーマのうちの一部は、現実には、もうない。
このギャップを埋めていく時間と方法が必要だ。

その方法の有力な1つとして、鏡を用いた視覚によるフィードバック(非切断肢の運動を鏡で対側肢のように写し見ながら学習)が、脳と現実のギャップを妥当に解消することを可能にするらしい。
そして、今回抄読したメタアナリシスは、その効果が真実に近いことを証明した。
このような極限状態の学習が、義足で踏んだ小石を検出するような、魔法を起こすのだろうか。
その固定された幻肢を、魔法の杖に変えるのは『鏡』かも知れない。
幻肢に困っている症例を経験したら、ミラーセラピーを第一選択に入れよう。

ないものは考えない
あるものをどうするかだ

東京2020 パラリンピックポスター

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