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32万人の調査で明らかになった『病は気から』の実体

📖 文献情報 と 抄録和訳

うつ病の頻度が低いことは、心代謝系疾患のリスク低下と関連する

Honigberg, Michael C., et al. "Low depression frequency is associated with decreased risk of cardiometabolic disease." Nature Cardiovascular Research (2022): 1-7.

🔗 DOI, Google Scholar

🔑 Key points
- うつ病エピソードの頻度の低下が、ライフスタイルに関わるリスク因子や遺伝的感受性とは無関係に、冠動脈疾患リスクの34%低下と、2型糖尿病リスクの33%低下に関連することが明らかになった。

[背景・目的] 多遺伝子リスクスコア(PRS)は、心代謝系疾患のリスク予測を精緻化するためのツールとして、ますます利用されるようになっている。好ましい生活習慣は多遺伝子リスクの上昇を相殺するかもしれないが、抑うつ気分の頻度がPRSに関連するリスクを層別化するかどうかは不明である。また、心疾患の患者に無認識のうつ病が多いことは、40年以上も前から知られているが、うつ病が心疾患の発症に寄与するのか、それとも大半が臨床症状による二次的なものなのかは、まだ解明されていない。

[方法] ここでは、UKバイオバンクに登録されたヨーロッパ系の32万8152人(年齢40~69歳)を対象に、冠動脈疾患(CAD)、2型糖尿病(T2D)、心房細動に関する個人レベルの3百万バリアントPRSを算出した。

[結果] 臨床/ライフスタイル因子およびPRSで調整した後、抑うつ気分の頻度が低い場合と高い場合では、CADの発症リスクが34%、T2Dの発症リスクが33%、心房細動の発症リスクが20%低下することが示された。抑うつ気分の頻度は、PRSが低い層(最低五分位)、中間層(中間三分位)、高い層(最高五分位)で、CADとT2Dのリスクを層別化した。観察されたこの関連性は、精神的健康が損なわれていることと心血管疾患の発症リスクの両方に関連する食事、運動、喫煙といったライフスタイルに関わる因子とは無関係(独立している)であることが分かった。うつ病は、男性に比べて女性でより強くCADと関連していた(Pinteraction < 0.001)。

[結論] 全体として、抑うつ気分の負荷が低いことは、心血管代謝多因子リスクスペクトル全体にわたって、CADおよびT2Dのリスクの低さと独立して関連していた。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

身体化 Somatization、人が心の不安や心理社会的ストレスを身体症状のかたちで訴えること(🌍 >>> site.)。
言い換えれば、「病は気から」
今回の研究は、32万8152人という大規模な調査において、独立して「病は気から」が存在することを明らかにした。

今回の研究の最大の強みは何だろう。
それは、『独立して』という部分と思う。
心と身体の関係を考えたとき、それ以外にもたくさんの因子が関係してくる。
たとえば、うつ傾向と糖尿病発症の関係を考えたときに、
- 悪い生活習慣が関係しているでしょ?
- 運動不足でしょ?
- 家族歴、遺伝的要因が大きんじゃない?
・・・
といった、糖尿病の発症の要因となる多くの因子、その影響を統計解析によって取り除き、かなり『独立して』といえる状態をつくっている。そして、そのためには膨大な被験者数が必要だが、32万人いれば、そちらも余りある程。
その上で、くっきりと「病は気から」の実在が見えてきたところに、この研究の最大の面白さがあると思っている。

勉強になるのは、この研究デザインだ。
たとえば、今回は「うつ病エピソードの頻度と心代謝系疾患」の関連を見ているが、これをそっくり居抜きして、「うつ病エピソードの頻度とサルコペニア」の関連にしたら、一気に理学療法士にとって輝かしい研究になることだろう。
この研究デザインは、ストックしておきたい。

ココロとカラダ。
- 身体は心の状態を反映する(病は気から、身体化)。
- 心の状態は身体の動きによって影響される(認知的不協和理論)。
唇歯補車。環状の関係。仕組みをもっと知りたい!

将来の医学でさえ、いずれは治療の目的のために喜びの感情の助けを求め、
また、病気の心理的要素に対しても、単に人間の肉体的な面のみを考慮した機械的な治療手段に劣らぬ治療効果を認めないわけにはいかなくなるであろう。

【ヒルティ】眠られぬ夜のために(1) P. 13

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