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【次世代の米津玄師】majikoについて語らせてくれ。|鯨records

米津玄師にEve、天月にまふまふなど、近年ニコニコ動画出身のアーティストが人気を集めている。今や若者から絶大な人気を誇る、いまやソニーミュージック在籍・Chico with Honey Worksも、告白実行委員会を立ち上げる前までは「竹取オーバーナイトセンセーション」「ラズベリーモンスター」などでニコ動を盛り上げていたイメージが忘れられない。


わたしが人生で初めて行ったライブは、2013年の「EXIT TUNES ACADEMY」さいたまスーパーアリーナでのライブだった。通常E.T.Aと呼ばれるこのライブはインターネット上で人気を集めるアーティストを集めた、歌い手の祭典である。わたしはここで、彼女に出逢った。出逢ってしまった。




「--ねえもしも。僕に心があるなら」

透き通るような歌声。しかも一発目から赤ペラ。

マイク一本でアリーナのスタンディング席まで力強く響く彼女の声に、背筋がゾクっとした。なんならここで一生のお願いを使うので、聴いたことがない人はほんとにほんとに聴いて欲しい。下に動画貼っておくので……!Mステに出てようが、紅白に出てようが、majikoを超える女性ヴォーカルに出会ったことが、わたしはまだない。

いまでも「majikoの心做しを初めてのライブで聴いた」のはわたしの自慢話だ。


トレードマークの黒髪ボブにインナーカラー。エスニックな服装と、ファンからもらったという手首に巻いた数珠。もちろんMVのファッションも、毎回個性が光る。



そう、彼女の名前はmajiko


あのライブの当時はまだメジャーデビュー前で、名義も「まじ娘」だった。本名の小島を逆から読むと「まじこ」。それが彼女のアーティスト名の理由らしい。現在はユニバーサルミュージックと契約をしており、ドラマ「限界団地」の主題歌を務め流他、ストレイテナーのトリビュートアルバムに参加するなど、活躍の場はネット以外でも年々広がりを見せている。

2010年に初めての歌ってみた動画をあげて、ニコニコ界に舞い降りたmajiko。ボイストレーナーの母とドラマーの父の間に生まれた、才能も実力もありきの彼女は瞬く間に人気を集め始めた。

彼女を一躍有名にしたのが、まさにあのとき聞いた「心做し」や「アイロニ」カバー動画である。わたしには、ほんとうに人生やめたくなるほど辛い時に聞くボカロ曲が2曲ある。そのうちの一つがmajikoカバーの「アイロニ」だ。23歳を迎えた2015年にはアルバム「Contrast」でデビューを飾った。


2019年に出したレーベル移籍後初のフルアルバム「寂しい人が1番偉いんだ」では、ボカロP・カンザキイオリとタッグを組んだ「エミリーと15の約束」をオープニング曲に。個人的にmajikoにたいして圧倒的なバンドサウンドのイメージが強かったので、儚く語りかけるようなこの曲は、わたしの中では「新たなmajiko」であった。


“よく聞きなさい。わたしはこれから、遠いところに旅行に行くの。”

“ちゃんとお土産は買ってくるからね?それまで、わたしと約束して欲しいの。エミリー”


母が子に語りかける口調で、「エミリーと15の約束」はまるでお伽噺の一ページを捲るように始まる。この曲でmajikoは、タイトル通り、15の約束を歌い上げる。この約束は、人が定められた道を幸せに歩むための教えである。幼い子どもへのメッセージという形をとって、大人たちにダイレクトに響く、カンザキイオリさんの歌詞たち。




“寝る前はちゃんと歯を磨いて、パパにおやすみって言いなさい”

“学歴になんの意味もないわ。好きな場所で働きなさい”

“清く正しく愛を学んで、正しさはあなたが決めなさい”

“いつ何時も笑顔でいなさい。笑顔はあなたを強くする。でも悲しい時、苦しい時、大切な人の前で、泣きなさい”


わたしたちの日々は、色やカタチは違えど、みな棘だらけだ。悪意や妬み、嫉妬の渦のなかで、擦り切れていってしまう小さな無垢な優しさとmajikoの切なさが篭る、それでいてエモーショナルな歌声がシンクロする。


アルバム発表時のインタビューにて、majikoはこの曲について、自身の母との思い出を語っている。


「自分は母を亡くしているからこそ、この歌詞にはすごく共感できたんです。母が亡くなってもう4年が経ちますけど、いまだにその傷は癒えてないので、カンザキさんがこういう曲を書いてくれたことで、自分が母に抱いていた感情に改めて気付くことができて、すごく良いタイミングでした。たぶん母が私に言いたかっただろうことをこの詞に当てはめて納得したり、懐かしい気持ちになったり。母のことはすごく尊敬していたので、この曲に限らず、歌い方やメソッド的なものは全部の曲に入ってると思いますし、どこかしらで意識してますね」(Mikikiインタビュー


15の約束のなかで、わたしが1番好きな、13番目の約束は、このmajikoの想いをそのまま表しているような歌詞だ。


大人になったらわたしを忘れて。あなたの価値観があなたを支えなくちゃいけない。

理屈じゃ守れないものがたくさんあるの。ただあなたの信じるものが、あなたの愛するものが、何よりも大事な真実になるのよ



大人になった彼女を支える、歌。そして、彼女の歌を愛する、この世界の人々。最初はパソコンの画面を通して発信されたmajikoの歌声は、いつしか多くの人の心を救い、生身の傷を癒やし、その孤独を埋めてきた。その大きな真実はいまや不動のものとなり、彼女の道となっている。

お伽話や空想の世界を親が子に話すのは、彼または彼女に、自分の信じるものを見つけて欲しいから。誰に馬鹿にされたって、辛いことがあったって、心に自分だけの十字架を持っている人は、大丈夫。自分の価値観が、自分を守ってくれる、最高のお守りになるから。


昨年12月にリリースした「世界一幸せなひとりぼっち」は彼女、そしてわたしたちをどこへ連れて行くのか。寂しさの果てが冷たい場所でないように、majikoの歌声が、わたしたちを包んでくれる。果てしなく続く孤独への祈りのようなmajikoの歌声に、どうしようもなく惹かれてしまう。


孤高の歌姫majikoから、今後も目が離せない。







2021.02.13

すなくじら

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