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卒業文集〜彼女の決断〜


彼女は、卒業文集がなかなか進まずにいた。


理由はいろいろあるのだが、
全てにやる気が出なくなっていた頃だ。

学校は登校したいと思うが、
体が動かない。
気持ちが追いついていかない。
登校が徐々にできなくなっていき、
やることもできなくなっていった。


思うように動くことができない。
気持ちばかりが焦る。

やったほうがいいこと
自分も周りも望んでいること
それも十分にわかっている。


だけど、彼女の体は動かない。
動けない……
気持ちがどんどん弱くなっていた。


そんな時は、やりたくてもできないものだ……




みな、心配していたが、
ようやく、担任と少しずつ話ができるくらいの
心のエネルギーが回復してきた。


担任は、彼女を配慮し、できる限り寄り添った。
業務の負担がかかるほど……
こんなにも親身になって考えてくれる先生と、
出会えた彼女は、とても幸せだ。


昨年度から2年間、彼女をずっと支えてきている。
学校側と板挟みになることもあった。
親と同様、想いを注いでいるからこそ、
自分の気持ちとのバランスが難しくなることだってある。


長い月日、皆で彼女を支えてきている。


卒業文集の期日は過ぎていたけど、
ギリギリのところまで、
彼女の気持ちを尊重していた。


彼女は葛藤の中に居続けている。


書けないと思います……
親は残念そうにそう話す。


彼女本人はどう思っているのか……?


最終日、
もう待つことはできない。


決断の日。




彼女の気持ちはどうなのか?


文集は皆もう清書が終わってるから間に合わない……
でも、文集を書かないといけないから……
書かないと先生がいろいろ大変……
文章がダメなら絵でもと言われるているけど、
絵は絶対にいや……
今日までだよね……
もう、書いても書かなくてもどっちでもいい……


考えるとたくさんの感情が渦巻いて、
混乱する。
考えることができなくなって、投げやりな気持ちになる。

だからこそ、
ここまでずっと手がつかずにきたのだ。


まずは向き合えるくらいに
エネルギーが回復できてよかった。


私の役目は、彼女が納得して、
自己決定していけるように導くこと。
納得し落としていけるように。
後悔せずこれでいいとけじめを自分でつけられるように。


決断が迫る。


期日は今日、この1時間。

清書まで終わらせるのは、
とても難しい。

清書までいかなくとも、
下書きまでは書く。

その後は、
清書の延長が可能か?
可能でなければ、その時はそこまでと、
区切りをつける。


さすが小学6年生。
自分の状況は理解できているようだ。


彼女は、
うーん、どうしよう……
と決められずに思い悩む。

感情だけが渦巻いて、
自分の気持ちがわからなくなっている。


自分はどうしたい?

 うーん……わからない……


学校や先生のことは、考えなくていい。
できるかどうかも、考えなくていい。
それは、こちら側が考えることだから大丈夫、
そこは考えなくていい、心配しなくていい。


自分の気持ちが大事だよ。
自分の本当の気持ちはどうなの?


 う……ん
 書かなくてもいいし、書いてもいいし……
 う……ん……わからない……


文集に自分のものを載せたい?
自分のものが載らなくていい?


 載せたいか、載せたくないかでいったら、
 載せたいかな……
 うん!載せたいから書きたい!
(声にハリ出て、ぱっと表情が明るくなる)

 でも、清書までの時間が……
(少し不安がよぎる)


下書きまでなら書けそうなの?


 うん、下書きなら書けると思う。
 ある程度まとめたのがある。
(また少しやる気が湧いてくる)


下書きが途中だったら、そこまでだよ。
下書きが終わっても、まだ載せられるかどうかは、
その後、確認してからになる。
そこは大丈夫?

 

 うん、私には時間がないから、途中ならそれまでだし。
 皆は清書までいってて、私は清書までできてないから。
 わかってる、大丈夫。


よし!できるところまでやろう!


彼女は、限られた時間の中で、
状況を理解もし、
今、目の前の明確になったすべきものへ集中し、
自分の意志で、
自分が最善を尽くすことと向き合った。




彼女は鉛筆を走らせた。

短い時間の中、自分自身と戦っていた。

慣れ親しんだ、リラックスできる場所で。
彼女は鉛筆を進める。
時々、手が止まり、時間を気にしたり、
集中が途切れる姿もあったけど、
すぐに、書くことへ注意を戻し鉛筆を進めた。
自分のできることに力を注ぎ、
最後まで頑張っていた。


できた!


すごい!頑張ったね!
この短い限られた時間で、よく書ききったね!
それだけでもすごいことだよ!


下書きを時間内に終わらせた。
それだけで、もう十分に素晴らしいことだ!


じゃ、その下書きを担任へ渡しにいこう。

 いや!ダメ!
 出したくない……
 文章がめちゃくちゃだから……


……そうか。
それでもいいと言うかもしれないし、
先生に渡して確認してもらおうよ。

 いや、いい!
 見せなくていい。


どのあたりで、見せたくないって思ってるのかな?

 内容がめちゃくちゃだから……
 見せたくない。
 納得いってないから……
 出したくない。


うん、皆のように見直したり修正したりする時間がないからね。
この短い時間の中だけで書いたからね。

 う…ん…時間があれば、ちゃんと書けた…。
 でも、この時間しかない……。
 この下書きは、不完全。
 納得のいく下書きではない……。


そうか……
先生に出せないと、文集に載せることができないけど……
 
 う…ん…もういい!
 載らなくていい!(少し投げやりな言い方)


先生が見て、これでも大丈夫、オーケーだよって言ったら?
皆と同じように文集に載せられるかもしれないよ?

 皆と同じように載せたいけど……
 これを載せるのは……
 だからって絵になるのはもっと嫌。
 絵になるなら載せなくていい。
 もういい、載せない(投げやりになる)


今は少し気持ちが落ち着けてないみたいだから、
投げやりに決めるのでなくて、
少し時間あげるから、ちょっと落ち着こう。
それから考えよ。
自分の気持ちがどうなのか、自分の中を見てみて。

(2〜3分ほど、様子をみていた)

彼女は、俯いてじっと黙り、一点を見つめ考えていた。
自分を内省している。


先生、決めた!
載せなくていい。


表情は晴れやかに、明るく言葉を発した。
落ち着きもある。


そうなの?

 うん、載せなくていい。(明るい声)


そうか、よく決めたね!えらい!
よくがんばったね!

 うん!


決めた理由って聞いてもいい?
どうやってその答えを出せたのか教えてもらっていい?

 あ、いいよ。
 卒業文集は載せたいけど、
 それは、他人が見て載ってるとわかるためで、
 他人のためにしてることだなって。

 自分の気持ちを大切にするなら、
 不完全なものを載せたくない。
 納得してないものを載せたくない。
 これは自分のためにすることだなって。
 
 他人のためにするのは、ちょっと違うかな……
 自分のことだから、自分のためにする方を選んだ。

 自分の気持ちの方を大切にした。


彼女は、自分の内省をこのように話した。

他人軸と自分軸


素晴らしいね!
なかなかこの年齢で、そこまで考えられる人は少ないと思う。
大人でもできてない人もいるからね。
すごいことだよ!


彼女は、その視点に気づき、
自分のことを自分の責任で、
自分の進む道を選択し、決断した!




あ〜なんか、スッキリした!

明るく清々しく、言葉を吐く。
肩の荷が降りたように、
気がかりなことが無くなったように、
自分の中でけじめがつけられたことに、
気持ちよさを感じているようだった。


諦めてしまって、投げやりに、心残りに、
そのように決めたわけではない。

自分のできることをやりきって、
やるだけのことをやって、
限界と向き合って、
自分でケリをつけたのだ。


卒業文集に自分のものが載っていなくても
平気!大丈夫!

誰かに何か言われても、
自分には時間がなかったからって言える。

不完全なものなんて載せない。
自分を大切にした。


載せなかった自分への理由づけも、
本人の中で腹に落とすことができていた。
自分の行動を自分で責任を取った。


この後、担任への報告も、
自分で伝えると言って、教室へ向かった。
軽やかな足取り。
彼女の心を表しているようだった。




落ち込んでいる時、
将来の夢、なりたい自分というテーマと向き合う。

それは、とても難しいことだろう。

時間は本当は皆と同じようにあった。
だけど、彼女の今の状態や状況では、
なかなか、向き合うことができなかった。

時間がなかったと話すが、
あれだけたくさん時間があったのに……
と、大人や周りは思ってしまうけれど、

彼女の状態と状況で考えれば、
向き合えた時間は、本当に少なかったと思う。


本人が弱っている時に頑張らせても、
益々気力も体力も消失させるばかり。
支援できるこの時まで、
可能な支援で繋ぎ、辛抱強く待った。

親、担任、その他の関わる人たちが、
最後の最後まで、文集を載せることを願った。
それでも、限られた時間というものはある。

担任は自分の作業の負担を受ける覚悟で、
ギリギリまで待った。
先生も人間だ。気持ちの限界まで頑張っていた。


きちんと納得させてあげること。


「諦めたらそこで試合終了」


本人も、担任も、親も、関わる人たち皆が、
諦めず、最後までやり抜いた。


彼女の卒業文集は載らない。
これから先、もしかしたら、
後悔することもあるかもしれない。

だけど、それで自己否定することはないだろう。
できることをやり抜いて、自分と向き合い、
納得し自分で決断した。
きちんと過去にし、手放した。

後悔がよぎっても、けじめをつけられている。


一つ一つ丁寧に、力となる経験を積んでいる。
それは、彼女の財産、宝だ

この先のあらゆることを、
乗り越えていってもらいたい。


経験を糧に




〜子どもたちの未来を願う〜




長文(3900文字)をお読みいただき
感謝します✨


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