覚悟の組み立て方
おはようございます。公認会計士/税理士の柿本です。
前回のメルマガで瀧澤さんが弁護士らしく便利な対人関係術を書かれてました。
弁護士と言えば「交渉術」に長けた方が多く、きっとみんな「人間5回目」くらい経験しているんだろうな、
と「人間1回目」の私は思ったりしています。
そんな瀧澤弁護士に簡単に感化されまして、私も公認会計士/税理士っぽいことを書いてみようかなと思います。
士業の知見とクライアントの皆様から学ばせていただいたことから感じる、起業にあたっての鉄則です。
「想定外」を想定する
「想定内です」
時代の寵児と呼ばれた実業家が発したこの言葉が一時期ちょっと流行りましたね。
強がりやうそぶきの響きも感じられたのかもしれませんが、実は深い言葉だな、と感じています。
経営者の方とお話をしていると、よくこの言葉を思い出させる質問が飛んできます。
「最悪の事態では、どういった選択肢がありますか?」
「一文無しになって借金返せなくなったらどうしたらいいですか?」
「どうにも立ち行かなくなって自己破産したらどうなるの?」
どれも『最悪のケース』を想定しておこうという姿勢で、『想定外の事態』を想定しようとしています。
ビジネスを大きく成長させている経営者の方は、当初のうちに『最悪のケース』もしっかり考えておられることが多いように感じます。
もちろんそんな事態に陥らないほうが良いことは皆様わかっています。
ですが、起業するときはすごく不安なものです。
1.初めて借金をして店舗を構えたが、お客が一人も来なかったらどうしよう……。
2.売れると思って大量に仕入れた商品が、鳴かず飛ばずで在庫山積みになったらどうしよう……。
こんなことをついつい考えてしまうのではないでしょうか。
端的に言いますと、この「どうしよう」が厄介なのです。
具体化の効能
事業計画を立て、経営数値の予測を立て、金融機関に事業説明を行いドキドキしながら審査を待って、
「きっとこのビジネスはうまくいく、軌道に乗る」と自分に言い聞かせながら、
でも「最悪の事態になったらどうしよう」と考えてしまって、起業を踏みとどまってしまいます。
ではどうするか。
「どうしよう」を「こうしよう」に具体化してしまうのです。
具体的に想像できるレベルまで、現実に落とし込んでしまうのです。
こんな感じです。
①万が一、店にお客が一人も来なかったら、どうしよう……
--1か月にかかる経費が100万円くらいだから、毎月100万貯金が減っていく。現在の預金残高が500万だから、最悪5か月で資金がショートして消えてしまう。資金が足りなくなる前に問題点を見つけ出してお客が来るように施策を打つ必要がある。では最低5か月ある猶予をどう使って施策を考えようか……
「どうしよう」から、だいぶ話が進展しました。具体的な猶予期間が見えるとスケジュールを立てたくなったりしませんか?
そこで考え付いた施策がうまくいくかどうかは、経営手腕と時の運になってきますが、話は先に進んでいると思います。
②在庫がどうしても売れなかった場合はバルクセール(破格で処分してしまう)に出してしまおう。
それで原価の7割くらいは回収できるはずだ。となるとバルクで売っても現金が600万円は残る。600万円の持ち球があればまだビジネス続投できるな。最悪全部捨ててしまうことも考えなければ。そうなると残り300万円か。まあ死にはしない、大量在庫を一括処分した話をSNSで広告したらむしろ宣伝にすらなるのでは。バイトでもしていけば最低食いつなげるし、さらに最悪……
まあ例えばこんな感じです。そして、いずれのケースでも日本なら下記の選択肢が必ず残ります。
「最悪、自己破産すれば最低限の生活は保障される」
(ちょっと脱線しますが「自己破産なんて」と毛嫌いせずに制度を手段のひとつとして理解することが重要です。リスクが顕在化したときにいくつ手段・対応策を持っているかがダイレクトに経営者の強さでもあります)
なので、よければ皆様さらに一歩踏み込んで「自己破産で保障される最低限の生活」が何なのかまで調べてみましょう。
そうすると、もし自分が事業で失敗し、山ほど借金を抱え首が回らなくなったとしても「このレベルの生活は国が保障してくれるのか」という『最悪のケース』における自分の所在を具体的に想像することができてきるようになります。
具体的に詳細に想像して、その想像に自分を放り込むことができれば「そんなもんか」と、いくぶん気持ちは和らぎます。
わからない≠フィフティ・フィフティ
ちょっと余談ですが「わからない」と「フィフティ・フィフティ」って、ある種似た意味合いだと思うのですが、
人間は「フィフティ・フィフティ」と言われた方が確実性を感じるのだそうです。
「コインを握っているのは右手か左手かわからない」と言われるより「コインを握っているのは右手か左手か、それぞれ50%の確率です」と言われた方が安心するらしいのです。
言葉の持つ意味もバイアスがかかっていると思いますが「どうしよう」と「自己破産すれば済む」にも同じ空気を感じませんか?
覚悟を決めて、楽観的に
さて、わからないことや不安なことを具体化できたところでも、それでも嫌なものは嫌だな、とは思いますよね。
そこから最後にたどり着くべき場所は覚悟なのだと思います。
最悪のケースと自身の描く成長曲線の期待値を天秤にかけ、どちらが楽しいかな、と想像したりしてみます。
そして、傾いたほうを選択すればよいのかな、と。「悲観的に計画を立て、楽観的に遂行する」に似てますね。
こうして覚悟が組み上がれば、ちょっとやそっとじゃ揺らがないで済むのかな?
と、自問自答している今日この頃です。
柿本耕市郎
公認会計士・税理士
専門分野(ビジネスモデル、新規事業、税務)
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