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コンサルタントが提供すべきは、アイデアや戦略ではなく「結果」だと思う

コンサルタントの役割とは何でしょうか?

アイデアを提供することでしょうか? 戦略を考えることでしょうか? もちろんいろいろな答えがあると思いますが、僕は「結果を出すこと」だと思っています。

コンサル業界の契約期間の相場は「6ヶ月」と言われています。一方で、僕らの会社の平均契約期間は「3年半」です。8年前の創業以来、どんどん伸びてきています。

なぜそんなに長いのかというと、クライアントの課題やフェーズにあわせて、あらゆる分野の支援をしたり、契約期間が終わったあとも自走できるように体制を整えるところまでやるからです。

僕らが依頼を受けるときに大切にしているのは「そのクライアントを心の底から応援したいと思えるか?」ということ。

もし心のどこかで「このクライアントのやり方、あまり好きじゃないな」「このクライアントの事業は、社会にとって本当に意義があるのかな?」といった迷いがあると、長期間にわたって伴走することが難しくなります。

半年や1年という短期間であれば、ある種のごまかしが効くかもしれません。だけど僕らは3年や5年、ときには10年もの長期にわたってクライアントに深く入りこみます。

もし応援できないクライアントを無理して支援していると、途中でどうしても「自分のやっていることって、意味あるんだろうか?」と迷いが出てきます。そうすると結果も出にくくなってしまいます。

やるからにはちゃんとお役に立ちたい。だからこそ、案件をお受けするタイミングで丁寧にコミュニケーションをとって「応援したいと思えるかどうか」の気持ちを確認しているんです。

創業してから約5年は紹介だけでクライアントを増やしていました。

ありがたいことに、クライアントが新しいクライアントを紹介してくださるんです。コロナが来るまで広告費もほぼ使っていませんでした。そんなことができたのは、僕たちの支援に満足してくださっているクライアントがたくさんいてくれたからなのかもしれません。

では具体的に、僕たちがどのような支援をしているのか?

以前も鳥取の工務店さんの事例を紹介しましたが、僕らはマーケティングだけを支援しているわけではありません。クライアントの理念策定や社員育成まで請け負うこともあります。

今回は、5年ほど前から支援させてもらうなかで、業界を代表するほどにまで成長した工務店の事例をご紹介させてください。

「事業」と「組織」をバランスよく支援する

僕らが支援させていただいたのは、広島にある約30名の工務店です。最初に支援したテーマは「集客」でした。「ホームページのリニューアル」や「Web広告の運用」「インスタグラムのアカウント運用」などを支援しました。

「集客」が伸びてきたら、次は「営業」を支援。そうやってどんどん事業を伸ばしていったんです。その結果、受注棟数が3倍になりました。

事業が安定してきたところで、次に支援させていただいたのが「組織づくり」です。

地方の工務店を支援するときは、「事業」だけではなく「組織」もバランスよく支援することが求められます。というのも「地方」も「工務店業界」も、どちらも圧倒的に人手不足だからです。

東京の大企業やベンチャーを支援するのとは勝手が違います。もし事業だけを支援し続けると、お客さんが増えすぎて対応しきれずクレームになったり、社員が疲弊してしまったりします。

そのため、ある程度「事業」が軌道に乗ってきたタイミングで「組織」の支援も始めなければいけません。東京だとお客さんの増加にあわせて社員を増やすことも、地方と比べればやりやすい。だけど地方では採用が難しいぶん、より丁寧に組織の支援をする必要があります。

「事業」も「組織」もバランスよく支援するのは、地方の工務店に向きあってきた僕たちならではのやり方かもしれません。

事業が伸びてきた今回の工務店さんは「組織」の支援へと移行しました。

「良い行動」の総量を増やす

僕らなりに「組織力」を定義すると「良い行動の総量を増やすこと」です。

会社として「良い」と定義されている行動の総量が増えることが、組織力につながります。どんな行動が良いのかは「理念」や「戦略」によって決まります。

「良い行動」がしっかり定義されると、社員が指示待ちではなく、自分で考えて行動しやすくなる。すると「良い行動」の総量は増えやすくなります。

だから組織力を上げるためには、まず「理念の策定」が必要なんです。

理念を定めたあとに、戦略を決めていきます。

理念の策定をするため、僕らは「社員インタビュー」をやります。一人ひとりに「自社のどういうところが好きか」「どういう会社にしていきたいか」を聞いていくんです。

理想の会社をベンチマークする

社員インタビューで現状を把握したら、会社の理想を探っていきます。

僕らは「ベンチマーキング」という手法を使っています。GEが作った経営改善の手法で、簡単にいうと「理想の会社をマネる」ということです。

社長がひとりで理想を描くのであれば、ベンチマークのプロセスは要りません。だけど今回は、クライアントの社長から「社員のみんなと描きたい」という要望がありました。そこでベンチマークのワークショップをすることにしたのです。

社員30人全員を、広島のオフィスに集めてやりました。山口のオフィスにいるメンバーにも来てもらったので、かなりの人件費や交通費がかかっています。

なぜそこまでのコストをかけて、ベンチマークの時間をとったのか?

それはより視座の高い、実りある議論をするためです。社員のみなさんからすると、いきなり「どんな会社にしたい?」と聞かれてパッと応えるのは難しいです。もしくは思いつきのアイデアを言ってしまったりする。

それだと納得のいく理想を描くことはできません。まずは「こんな会社があるよ」と事例を示すことで、議論の土台を作りました。

あえて「異業種」をマネる

ベンチマークのポイントは「同業」ではなく「異業種」を参考にするところです。

同業にすると「あの会社はローコストだからうちとは違う」とか「この会社のこういうところはうちには合わない」などと反発が起きます。同業だと見えすぎるがゆえに、ちょっとマネしづらいんです。

そうやって社外の異業種の会社を事例にして、自分たちの理想と問題を半年ぐらい議論していきました。

ちなみにそのときベンチマークしたのは、リッツカールトンや星野リゾートです。ナイキもけっこう参考にしました。

ナイキが売っているのは、実は「靴」ではありません。靴のテレビCMを見たことがないはずです。そうではなくスポーツ業界をリスペクトしたり、アーティストをフィーチャーする。その結果として靴が売れている。「ああいう会社になれるといいよね」といった話をしていました。

過去・現在・未来を紐付けて、意味づけする

他社を研究したあとは、自分たちの会社に「意味づけ」をしていきます。

具体的には「過去、現在、未来」を紐づけていくんです。社員に「会社の強みは?」と聞くと「いやあ、なんですかね…」と詰まったりします。それは本当に強みがないのではなく、いろんな強みが「点」のままになっていて、認識できていないだけなんです。

社員のみなさんから出てきた「過去にお客さんからこういうふうに褒められたんですよね」といったエピソードや「実はいまこんな取り組みをやっていて」といった単発の話を、ちゃんと「線」にして意味づけしていく。

すると「やっぱりこの会社にいてよかった」「この会社は間違いなく成長している」と感じることができるようになるんです。

自信が持てるポイントを探す

ちょっと抽象的でわかりづらいかもしれないので、広島の工務店さんの事例で説明します。

まずは過去を掘りおこして、創業の歴史を振り返ります。そのうえで「自分たちはお客さんにどんな価値を提供してきたのか?」「自分たちの使命は何なのか?」といったことを、4回ほど全社員で議論しました。

大切なのは「過去」をちゃんと掘りかえして「現在」につなげることです。

今回の工務店さんの場合は、結果的に「社員を幸せにする」という価値観が浮かび上がってきました。みんなが自信を持てたのがそこだったんです。

僕としては少し意外でした。

その工務店はデザインに強い会社だったんです。ものすごくカッコいい住宅をつくっています。でも「デザインが強いこと」は、社員にとってあまり自信になっていなかった。僕らが「デザイン力すごいですね」と言っても「デザインは手段なんです。それより、スタッフが幸せに働いていることのほうがやりがいに繋がります」という答えが返ってきました。

「幸せ」を起点に理念を考える

僕は最初「『社員の幸せ』って、理念になるのだろうか?」と悩みました。「何をもって幸せか」というのは、人によって違います。僕にとっては「幸せ」というのは抽象度が高い言葉で、具体的なものとして感じたことがなかったんです。

でも、社員のみなさんは「幸せこそが大事」という価値観を持っていて、そこを起点にしていた。幸せを軸にすることで「過去と現在と未来」をつなげることができたのです。みんな、会社に自信を持てるようになった。僕は「ああ、これがこの会社の提供価値なのか」と気づいたんです。

結果的に、ミッションは「幸せをつくり上げる」というシンプルな言葉になりました。社員みんなが納得していました。「幸せとは何か?」を具体的に定義することも、あえてしませんでした。

社員が幸せだから、お客さんも幸せになる

「社員の幸せ」なんて、ベクトルが社内に向いているんじゃないか? と思われるかもしれません。

でも、その工務店さんでは「社員を幸せにする」という理念を、そのままお客さんにも発信しています。だからお客さんは相手がそういうスタンスだと理解したうえで取引することになります。すると社員は自信を持って働くことができるんです。

正直、僕は不思議に思っていました。

僕としては「カッコいいデザイン」に自信を持ってもらうのがいいのかなと思っていました。彼らは、全国的にもトップクラスのデザイン力を持っています。だから新しい情報を取り入れたり、流行をいちばん初めにおさえることを行動規範にするのかなと思っていました。だけどそうじゃなかったんです。

彼らは「社員の幸せの先に、カッコいいデザインがある」と考えていました。「自分たちが幸せだからこそ、いろんなものがビビッドに入ってくるんですよ」と言うのです。見方を変えれば、自分たちの幸せを最優先しているからこそ、デザイン力で強くなれたのかもしれません。

「自分たちが幸せになる」を最優先にすることで、結果的にお客さんもハッピーになっていく。「幸せをつくり上げる」というミッションには、そんな思いを込めました。

理念を決めて終わりだと「絵に描いた餅」になる

理念を決めたあとは、それに従って「戦略」を固めていきます。

理念を決めて終わりだと「絵に描いた餅」になります。理念をちゃんと戦略に落とし込んで社員みんなが実行できるようになって、初めて組織は変わるんです。

たとえば経営戦略は「指標を売上ではなく、粗利にしよう」となりました。いまのある程度事業が安定したフェーズで無理に売上を伸ばすより、一人ひとりの生産性を高めて粗利を上げたほうが「社員の幸せ」に直結すると考えたからです。

最近は「間取りのシュミレーションから家の購入まで、すべてできるサイト」を開発し始めました。

商談をせず、ネット上で家の販売を完結させることができれば生産性を上げることができるからです。

また評価制度は、会社が社員に目標を与えるのではなく、社員に自ら目標を考えてもらうようにしました。社員それぞれが自分の目指す成長スピードやキャリアに合わせて目標を立てたほうが、幸せに働けるだろうなと思ったんです。

「就業ルール」まで支援する

就業ルールを言語化して、手帳にまとめたりもしました。

組織づくりをするときに「経営戦略」や「評価制度」を支援するコンサルは、もしかするといるかもしれません。だけど「就業ルール」という細部まで徹底的に支援するコンサルは、あまりいないんじゃないかなと思っています。

「月に残業していいのは何時間まで」「夜の何時までには絶対に帰ってね」といった就業ルールを明記することで「時間内に仕事を終わらせたうえで、結果を出す」という意識を強めてもらいました。「週に何十時間も残業して、ようやく達成できる」みたいな状態は、幸せとは言えません。

またそれまであまり活用されていなかった「産休」の取得手順を、手帳にまとめたりもしました。産休や育休でしばらく仕事を休んでいた女性が、再び働きやすくなるためのルールも整えたりして。

その結果、社員の7割は女性になりました。

工務店の女性比率は約13%というデータもあったりするので、7割は結構高いです。「社員を幸せにする」ための環境づくりを徹底したことで、出産や子育てを迎えた女性も働き続けてくれた結果なのかなと思います。

「理念」を策定して終わりではなく、それを「就業ルール」といった細かいところにまで落とし込む。だから結果が出るし、仮に僕らの支援期間が終わっても「幸せをつくりあげる会社」に向かって自走し続けてくれるはずです。

僕らなりのコンサルティングを証明していく

あたりまえですが、僕らの支援のやり方が唯一の正解ではありません。

うちのように深く入りこむ支援ではなく、短期でアイデアや戦略を提供する支援が中心のコンサルタントもいます。だけど僕らは「地方の工務店が、どうすれば結果が出るのか?」を試行錯誤した結果、いまのやり方にたどり着きました。

僕らが支援させていだいているその広島の工務店は、いまや業界を代表する会社に成長しました。日本中の工務店さんから「御社の設計デザインのデータを使わせてください!」という連絡が殺到するようになったのです。いつの間にか「カッコいいデザインといえば、あそこの会社だよね」と言ってもらえるぐらい業界を代表する存在になっていました。

最近はその広島の工務店さんが手がける、規格住宅の販売もサポートし始めました。最高にカッコいいデザインの規格住宅です。その設計データを使いたい工務店さんには、加盟店になっていただきました。

加盟店の工務店さんにアンケートをとって規格住宅の契約率を聞いてみたところ、なんと30%を超えていました。住宅業界では異常に高い受注率です。

もちろん、各工務店さんの営業力や信頼力があってこそです。だけどその広島の工務店さんが提供した業界最高レベルのデザイン力がなければ、これほどまでの高い受注率は実現しなかったと思います。

アイデアや戦略を提供して終わりではなく、深く入りこんで自走できるようになるまで伴走する。

これからも僕らなりのやり方で結果を出して「こういう支援のやり方もあるんだよ」ということを証明していきたいと思っています。

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