うつは「家族病」「組織病」かもしれない│#11
休職期間に入り、身体をゆっくりと休ませる時間ができたものの
家族の理解をうまく得られず、すぐに折り合いがつかなくなって、心が休まらない日々を過ごすことになりました。
そんなときに主治医にかけてもらって印象に残っているのが、「うつは家族病だからね」という言葉です。
責任はひとりだけのもの?
「あなたはいまの現状を、精神的に弱い自分の責任だと決めつけているかもしれないけど、そうじゃないよ。
誰かがうつになったということは、家族や組織のあり方が歪んでいるという証拠なんだ。たまたま繊細さと敏感さを持ち合わせていたあなたが、そのシワ寄せを受けているというだけで。
そもそも、誰かが必死に耐えたり我慢しなければ続かないチームなんて、無理があると思わない?」
泣き疲れて、逃げるように診察室に飛び込んだ暑い日。
当然ながら、メイクや身なりを整える余裕なんてあるはずもなく。真っ赤に泣き腫らした目はパンパン、水分を失った髪の毛はボサボサで。
「人生がつらいです」と全身で訴えかけていたであろう、疲れきったわたしの顔を見た主治医は、訛りまじりのあたたかい声で話しを続けてくれました。
根拠のない自信を持つために
「あなたには反抗期ってあったの?」
「いえ、なかったです。正確には、ぶつかり合うことすらできなかったというか……。
父はあんな風だし、母は弱々しく見えてしまっていたので、わたしが何かを主張したらこの家は回らなくなるだろうなと思って。
自分の気持ちを表現することを諦めていました。」
……そういえば、その癖があってよく友だちから「すみれは本心では何を考えているのか分からない」と言われていたっけ。
「なるほどね。親を信頼していなかったら、そもそも反抗すらできないもんね。
それに、あなたの父親は“俺が一番”であるために、怒鳴ったり暴力を振るったりしていたわけでしょ?」
「そうですね。だからもう、自分は無力だとか外の世界は怖いと思い込んでしまったり、自己肯定感がどんどん低くなっていったりして……。」
「困った話だよね。本来なら、親は子どもの踏み台になるというか、乗り越えさせてあげなきゃいけないんだよ。
それは人間が成長するための通過儀礼のようなもので。
子どもがさ、自分はお父さんやお母さんよりも強くなっていいんだ! 幸せになってもいいんだ! って思えるように。
思春期にそういう思いを周りの人たちに受け止めてもらうことで、生きる上での根拠のない自信がつくようになるんだよ。そうすると、安心して外の世界でも踏ん張れるようになるの。」
これまで、人よりも幸せになってはいけない、自分は何もできなくてダメな存在だと強く思い込んでいたわたしは
主治医のその言葉を聞いて涙が出そうになりました。
弱い人ほどよく吠えてしまう
「いい? これは上司だって同じなんだよ。
本当に優秀でよく出来た人なら、まず権力を振りかざすような真似はしないし、部下に自分を越えていってほしいと願うはずだよ。
弱い人ほど、自分の居場所がなくなったり、実力のなさが露呈したりすることを恐れて吠えるんだ。
それはあくまでも相手の問題なんだから、あなたは何も気にする必要はないよ。」
そっかあ、そういうものなのか……。
ふと、入社して間もない頃から「お前は頭がおかしいんだよ!」などと怒鳴ってきた上司の顔が頭に浮かびました。
もしかしたら、いままで父親の印象を強烈に抱えすぎていたせいで、無意識のうちに同じような人を引き寄せていたのかもしれないな。
うつはきっと、心のなかの悲しみと怒りのプールが満杯になって、溢れ出してしまったような状態なんだろうなあ。
ひとしきり主治医に話をしたら心が落ち着いて、少しだけど笑えるようにもなって、薬にはない“癒しの力”を感じたのでした。
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