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「眠り展:アートと生きること」をもっと楽しむ ~展示絵画から生まれた音楽~

2020年11月25日から 2021年2月23日までの期間、東京国立現代美術館では企画展「眠り展」が催されています。この記事をクリックしてくださった方は「もうこの展覧会見てきた」もしくは「これから見に行く」または「見てはないけれど興味はある」など、様々な方々がいらっしゃると思います。

本記事では「眠り展」に展示された絵画やアート作品にまつわる音楽にフューチャーします。美術館でのアート体験を、ぜひ音楽まで広げてみてください。

「眠り展」は、スペイン絵画の巨匠ゴヤの版画作品を案内人としながら、「眠り」というテーマが内包する、目を閉じる・夢やうつつ・生・目覚めなど7章にわたってたどっていく内容です。本来は東京五輪後の展示を予定していたそうですが、展示内容にコロナ禍に起こった変化なども展示に反映させ、より現代の人々にアプローチしていく目的でこの展示期間になったそうです。

さて、「眠り」の世界とは芸術にどのように映し出されているのでしょうか?眠りが訪れるのは主に「夜」ということに着目してみると、西洋音楽の歴史では、19世紀前半ごろロマン主義が大きなムーブメントになったきっかけの一つにドイツの作家ノヴァーリスの『夜の賛歌』という小説の流行がありました。朝が来なければ、夜がずっと続けば夢や幻想が永遠に続き、愛する人を終わりなく愛し続けるのに…といった夢想的な内容は「死」とのつながりも感じさせる世紀末的な美しさをたたえ、人々を熱狂させたそうです。ショパンがノクターン(夜想曲)を確立させたのもこの頃です。

「眠り」「夜」はいつの時代も芸術家たちにインスピレーションを与えてきました。本展覧会で展示されているオデュロン・ルドンの絵画『眼を閉じて』では、眠っているのか目を閉じているのか定かでない女性が幻想的に描かれています。

ルドン 閉じた眼

     オデュロン・ルドン『眼を閉じて』 出典:オルセー美術館

浮遊したような神秘的な魅力を持つこの絵画。実は日本人作曲家・武満徹(1930-1996)は、この『閉じた眼』からインスパイアされ二曲のピアノ曲を創作しています。彼はルドンの絵に魅せられ、ルドンに関するエッセーまで書いているのです。二曲のうちのひとつ1988年に作曲された『閉じた眼Ⅱ』はこちらです。

武満は、たとえ白黒の作品であってもルドン作品には光が満ち、「観る、という領域を超えたものを感じる」と述べています。『閉じた眼Ⅱ』では半音階を多く含むハーモニーが多用され、聴いているとまるで現実と夢の間をふわふわと漂っているかのような不思議な感覚にさせられます。ルドンが描いた神秘に満ちた絵画を、武満徹は幻想的な音世界で表現しました。

最後に「眠り」というキーワードから連想した音楽をもう一つご紹介したいと思います。
ジョン・ケージ作曲『夢』です。浅い眠りの中で忘れていた記憶がよみがえってくるようなノスタルジーが感じられる、極上にシンプルで美しいピアノ曲です。

「眠り展」が展示しているあらゆる角度からの眠りの表現、そして関連する音楽をご紹介しました。
「観る」経験が「聴く」こととつながって、より楽しいアートを体感していたければ幸いです。

角田知香

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