寿美伶奈

東京藝術大学美術学部芸術学科卒業、修士課程デザイン専攻修了。専門は歌川広重『名所江戸百…

寿美伶奈

東京藝術大学美術学部芸術学科卒業、修士課程デザイン専攻修了。専門は歌川広重『名所江戸百景』。 クリエイティブディレクターとして働きながら、現代的なモチーフと伝統の融合をテーマに、執筆、デザイン、アートなど幅広い活動を行う。 https://kawashimakasumi.com

最近の記事

チャーリーとチョコレート工場の摩訶不思議な世界

 「こんな素敵な舞台なのに、騒動に巻き込まれてしまったのが残念だ」という感想が第一に頭に浮かんできた。  私は中学生の時からKinKiを応援していて、SHOCKを見ること、年末年始のライブは家族の風物詩だった。「KinKiを見ないと年が越せない」と話したこともある。けれど、8月から数ヶ月余りは気が気ではなかった。 ジャニーズという存在が今後どうなってしまうのか? 人生の半分以上応援してきたKinKiはこのタイミングで道を別れてしまうのか?  KinKiは長く活動してきたし

    • ガラスの中の金魚

      就職活動の時、良い会社に入れなければ自分の人生が死ぬんじゃないかと感じていた。  けれど、今、考えれば良い会社ってなんだったんだろう?年収が高くてハードに仕事をして、男性と肩を並べて働く。そのことだけが自分の求める正解のように信じ込んでしまっていた。 「女性には色々な生き方がある。歳を重ねる中で、子育てのほうが楽しいと思うかもしれない。プライベートが大事と思うかもしれない。正解はひとつじゃない。」  OG訪問をした時に、そんな風に言われたことがある。けれど、その時の自分

      • ソウルで感じる日常の重み

        現代美術館ソウルは、ひとつの特別展というよりいくつかの特別展が並行して開催されている場所だった。  場所は景福宮のちかくにあり、観光スポットだからか周囲には平日にもかかわらず人が多い。けれど、美術館に一歩足を踏み入れると落ち着いている。  展示は1人のアーティストを特集したものというよりは、いくつかの作家の作品を並べて、時代性を抽出したもののように思えた。  作品自体から感じるのは不穏さ、先の見えない時代の不透明さというものを予期させるものが多いように感じた。それは、2023

        • ルノアール 『女優ジャンヌ・サマリーの肖像』

             本日はルノワールの『女優ジャンヌ・サマリーの肖像』を紹介します。 ルノアールことピエール=オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir 発音例、1841年2月25日- 1919年12月3日)はフランスの印象派の画家です。日本でも人気が高く、印象派と聞いたら真っ先に名前が上がる人も多いのではないでしょうか? 『女優ジャンヌ・サマリーの肖像』(仏: Portrait de l'actrice Jeanne Samary, 英: Portrait o

        チャーリーとチョコレート工場の摩訶不思議な世界

          『ハンチバック』を読んで感じる世界の見え方の歪み

           『ハンチバック』という作品を読む前は、もっと社会的な小説なのではないか?と想像していた。けれど、読んでみたら想像を越えて下世話な話だった。  今、自分が生きている世界は健常者向けにできている。いくらバリアフリーが進んだ部分があると言っても、そもそもの世界が健常者を中心に設計されているから小数の人に向けては作られていない。紙の本を読むといった行為も簡単にはできない。  生活の大半が病室や家といった室内が中心になる。オンラインで授業や仕事ができるようになった今ならともかく、

          『ハンチバック』を読んで感じる世界の見え方の歪み

          Look at Me とLook at Thisに見る作る仕事とは?

          私が広告の仕事をしていて、広告クリエーターの仕事とインフルエンサーとしての仕事はベクトルが違うという話を聞いた。   「Look at Me」と「Look at This」 インフルエンサーは個人を見て聞いてと発信する。一方で広告はサービスや化粧品などの商材を紹介する仕事だ。  私自身は幼い頃から作ることに携わっていた。藝大に進学し、課題や展示などで常に作品を作って批評されるというプロセスを何度も繰り返していた。けれど、社会人としてデザイナーとして働くことを始めた後に

          Look at Me とLook at Thisに見る作る仕事とは?

          ミュシャ『四季』に見出す煌めき

          新しい試みとして、作品を紹介しようと思います。  まず、初めに取り上げさせていただくのはミュシャです。 チェコの画家アルフォンス・ミュシャ(1860〜1839)が1900年に描いた『四季』の《秋》をモチーフにしています。ミュシャはチェコ出身のグラフィックデザイナー、画家です。彼の描いたポスターやパネルは日本でも人気があります。 ミュシャは四季の題材を使用したリトグラフ作品を1886年、1897年、1900年に発表しました。それぞれの季節の植物を女性に擬人化して作品化してい

          ミュシャ『四季』に見出す煌めき

          感情の奴隷になって、会社を辞めた。

           ある時、タイムラインで「感情の奴隷になってはいけない」という言葉を見かけた。その投稿では、感情の奴隷になっている人が多すぎると語っていた。自分から感情が湧くのではなく、自分が抱いた感情に囚われてしまう。  自分にも覚えがあることだった。去年の私は怒りに囚われていた。  前職で、内示が出た後に知らずに異動になって、体制図にいるはずの場所に自分の名前がないことで異動したことを知った。疑問符が浮かんだ。このままこの会社に私は居続けるべきなんだろうか?  結果として、担当する

          感情の奴隷になって、会社を辞めた。

          ネット炎上と速水御舟『炎舞』

           Twitterのタイムラインを眺めていると、私の目に燃え盛る炎の煙に舞い踊る蝶の姿を絵画が目に飛びこんだ。 この作品は見たことがある!1925年に描かれた速水御舟の『炎舞』だ。  この絵を見ると、なんでこの虫たちは炎に引き寄せられているんだろう?と疑問に思ってしまう。画面下部の呪いが刻まれたような炎の姿が印象的な作品だ。 西洋のような目の前の光景をそのまま映し取った写実性ではなく、琳派の系譜を組んでいるみたいな装飾性が感じられた。禍々しいという言葉で当てはめてしまうのが正し

          ネット炎上と速水御舟『炎舞』

          女性としての生き方を突きつける『しろがねの葉』(直木賞受賞作)

             千早茜さんの『しろがねの葉』を読んだ時、銀山という題材は自分に全くもののように感じた。ただウメが銀山という場を知っていく過程が面白かった。暗かった世界に色がついていくみたいだ。名前がなかったものに新たな呼び名が教えられてゆく。主人公が男社会の中で生きようとしている様が眩しかった。  けれど、そんな心意気も女性として初潮を迎えたことで色を変える。男の社会から、女性になった主人公が追い出されていく。自分では男のように働きたいと思っていても、成長は止めることができない。主人公

          女性としての生き方を突きつける『しろがねの葉』(直木賞受賞作)

          平和ボケしている自分に気付かされた。『同志少女よ、敵を撃て』

          これが今も起こり続けている悪夢だと考えると読み進める手が止まりそうになる時があった。 ソ連出身の主人公はドイツを敵だと見做している。けれど、今はおそらく逆だ。ロシアが敵であり、ウクライナが侵攻を受けている側だ。 戦争が人間を戦地に適応させ、感性や思考を大きく変える。彼女が撃った「敵」は彼である。けれど、戦争そのもののような気もした。 あまりに切なく、未来が失われた最後だ。とても長い物語を最後まで読み進める中で感じたのは、戦争がなくなってほしいという願いだ。  セラフィ

          平和ボケしている自分に気付かされた。『同志少女よ、敵を撃て』

          私が宮脇咲良を推す理由

           私が咲ちゃんを興味を持ったのはIZONEの活動の最終期でした。 それまで妹のほうがKPOPに興味を持って見ていたのですが、私自身は韓国に対してはあまり関心もなく、コロナ以前は行きたいと思ったこともなかったです。  そんな感情が変わったのはコロナであり、NIZI PROJECTでした。虹プロを見る中でオーディション番組の面白さに気づきました。 TWICEやBlack pink、IZONEなどの動画を見るようになり、自然とPRODUCE101にも興味が湧いて、YouTube

          私が宮脇咲良を推す理由

          群像新人賞2作を読んでみての感想

          『ジューンドロップ』  もう一つの受賞作『もぬけの考察』と比較して、正統派な作品だと感じた。女子高生が亡くなってしまった人を受け入れるまでの過程が端正な筆致で描かれている。  主人公と女友達の出会いと関係性の深まりが丁寧に描かれ、彼女たちがお互いの喪失感を乗り越えていく様がお地蔵さんという存在を通して繋がってゆく。 「ジューンドロップ」という、熟すことができず、未熟なまま落ちてしまった果実というタイトルはあまり知らない言葉だったから効果的だと感じた。  主人公は血のつ

          群像新人賞2作を読んでみての感想

          光と陰を映す「テート美術館展」

           ターナーと言うとぼやっとしたもやのような空気と光を描く画家だという印象が強い。モノ自体のカタチというよりは空気を捉えるような筆致が印象的だ。  私は、去年イギリスに短期留学していた時にテートブリテンもテートモダンも、ナショナルギャラリーも何度も足を運んだ場所だ。本場で毎日のように行ったし、この展示は観なくてもいいかな?と思う気持ちも少しだけあった。けれど、また違う側面が見れた気がする。  実際のテートブリテンはかなり敷地が広く、ひとつひとつの作品の印象が薄い。こうしてテ

          光と陰を映す「テート美術館展」

          直木賞受賞作『地図と拳』の時空を超えた旅路

           この本の旅はある一人の男が船で満州に渡るところから始まる。彼が満州で過ごした時間、そして形見の短刀が時空を超えて受け継がれていく。 本の中の時間も1900年から1950年頃までととても長い時間を描いているためだろうか、なかなか読み進めることができず3ヶ月以上の月日がかかってしまった。  舞台となる満州の中の「李家鎮」という街はロシア、中国、日本と様々な国の人々が関わり、義和団事件、日露戦争、満州事変の中で揺れ動いていく。主人公は人間ではなく攻防によって名前を変えて移り変わる

          直木賞受賞作『地図と拳』の時空を超えた旅路

          JYP「A2K」から始まる旅路

           虹プロが他のオーディション番組と一線を隠したのは、やはりJYPARKさんが審査員だったからだと思う。 ガルプラ、ボイプラ、アユネク、クイーンダムシリーズなど多くのオーディション番組を見る中でその違いを感じるようになった。 他のオーディション番組ももちろん面白い。悪変と呼ばれることもあるフィクションめいたMネットのオーディション番組は、リアリティではなく、物語を見るようで楽しさがある。参加者の性格がどうなのかはわからないけれど、番組側の改変によって切り取られた姿。それを楽しむ

          JYP「A2K」から始まる旅路