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女性としての生き方を突きつける『しろがねの葉』(直木賞受賞作)


 
 千早茜さんの『しろがねの葉』を読んだ時、銀山という題材は自分に全くもののように感じた。ただウメが銀山という場を知っていく過程が面白かった。暗かった世界に色がついていくみたいだ。名前がなかったものに新たな呼び名が教えられてゆく。主人公が男社会の中で生きようとしている様が眩しかった。
 けれど、そんな心意気も女性として初潮を迎えたことで色を変える。男の社会から、女性になった主人公が追い出されていく。自分では男のように働きたいと思っていても、成長は止めることができない。主人公は親のような存在でもあった喜兵衛とは生き別れてしまったものの、隼人から思われ安定した生活と子宝に恵まれる。
 けれど、女性としての幸せを得ていながらもどこか満たされらない気持ちを抱いて、かつての住まいを訪れている。彼女は喜兵衛を愛する気持ちと同時に、男社会の中で男性と肩を並べて働いていた自分を懐かしんでいたのかもしれない。ウメはもう以前の自分に戻ることはできない。女性と男性としての役割は明確に分けられ、昼間のウメは母として貞淑な女性であることを求められる。夜になると彼女は自分の役割を離れ、本来の自分に戻るのかもしれない。夫である隼人も危険な場所であると理解しながら、仕事場である銀山から逃れることはできない。彼は銀鉱の持つ毒に蝕まれ命に関わる病に侵されていくがそれでも職場から離れることはできない。
 彼らが向かっていく運命は現代の私たちとも重なる部分がある。男性は会社に主従する。女性は家庭に縛られる。男性が仕事をして、女性が家事や子育てをして家庭を守る。日本の女性の家事労働に関わる時間は先進国でもかなり高いと言われる。関ヶ原が起こっていた戦国時代や江戸時代と比べて、女性の地位はどれだけ上がったのだろう?歴史小説でありながら現代の問題を突きつけられているようにも感じた。

 仕事を頑張りたいと思う時期と結婚、妊娠、出産などのライフイベントは重なる。仕事を続けたいと思いながら、家族の事情で離れざるを得なくなった同世代の友人を何人も知っている。歴史小説という枠組みながら、現代の女性の生き方について考えさせられる作品だった。銀鉱=会社として置き換えれば、自分たちの生活と密接した物語のように思える。会社に所属して社畜になる男性と、会社の枠組みから外れてしまった女性、そんな風に読むと自分とも重なってくる。

 果たして、ウメたちが生きた時代から、女性はどれだけ自由になれたんだろうか?

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