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群像新人賞2作を読んでみての感想

『ジューンドロップ』


 もう一つの受賞作『もぬけの考察』と比較して、正統派な作品だと感じた。女子高生が亡くなってしまった人を受け入れるまでの過程が端正な筆致で描かれている。

 主人公と女友達の出会いと関係性の深まりが丁寧に描かれ、彼女たちがお互いの喪失感を乗り越えていく様がお地蔵さんという存在を通して繋がってゆく。

「ジューンドロップ」という、熟すことができず、未熟なまま落ちてしまった果実というタイトルはあまり知らない言葉だったから効果的だと感じた。

 主人公は血のつながらないお父さんと、実の父親との複雑な関係や母の不妊治療などはリアリティがある描写だった。

 けれど、ラストがこれで良いのか少し疑問に感じた。子供が生まれるというのは使い古されたエンディングなようにも思える。それまで丹念に積み上げてきたものが一気に陳腐にありきたりなものに変化した印象を受けた。

 この最後の部分に関しては、もっとこの作品にピッタリの素敵なエンディングがあるのではないか?と少し残念にも感じられた作品だった。


⚫︎夢野さんのインタビュー

https://book.asahi.com/article/14941786



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『もぬけの考察』


 この作品を最初に読んだ時、読みやすいけれど、一体何が主題なのかわからないと感じた。最後の章を読んだ時になるほど!と納得した。

 全体を通して、とても純文学らしい作品のように感じた。私が美大出身でアートを日常的に鑑賞しているからか、デザインというよりは現代アートを鑑賞してるような気分にさせる作品だ。デザイナーを志す学生の作品はパッと見た瞬間に内容がわかる作品が多い。けれど、油絵や現代アートの作品はパッと見ではわからず、作者の解説な作品が多い。これはあくまで一般的な傾向でそうではないものも存在することは置いておいて。作者が美大のデザイン科出身だからこそ、なせる技なんだろなんだろうか?読んだ後にすっとコンセプトが伝わるというよりは何度か噛み砕いた後に、ようやくあぁと納得する作品というような印象を受けた。

 この作品は緻密に構成されていて、完成度が高い。小説自体に感情を乗せにくい感じがする。それは一人称と三人称の違いのような気もした。ひとつの部屋の中で移り変わる登場人物によって、感染症に翻弄される時代というものを浮き出した小説である。



村雲 菜月 『もぬけの考察』 7/31発売

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