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光と陰を映す「テート美術館展」

 ターナーと言うとぼやっとしたもやのような空気と光を描く画家だという印象が強い。モノ自体のカタチというよりは空気を捉えるような筆致が印象的だ。

 私は、去年イギリスに短期留学していた時にテートブリテンもテートモダンも、ナショナルギャラリーも何度も足を運んだ場所だ。本場で毎日のように行ったし、この展示は観なくてもいいかな?と思う気持ちも少しだけあった。けれど、また違う側面が見れた気がする。

 実際のテートブリテンはかなり敷地が広く、ひとつひとつの作品の印象が薄い。こうしてテーマに沿ってまとまって見ると観やすいというのが第一の印象だった。ターナーに関していえば、ロンドンで作品自体は浴びるほどに見たはずだ。最初に述べた印象を抱いただけだった。

ターナー『<ゲーテの理論>ー大洪水の翌朝ー創世記を書くモーセ』


 例えば今回のターナーの『海に沈む夕日』という作品を見た時に感じるのはオレンジと薄い青のグラデーションが溶け合い、色の美しさが印象的だということだけだ。タイトルを見ない限り、一体何のモチーフを描いているかが抽象的でわかりにくい。対象をリアルに捉えているというよりも、海と夕陽という題材から受けた印象を絵の中に映し取ったような感覚を抱かせる。

ターナー『海に沈む夕日』

 今回の展示を見た時にターナーのまた違う側面を見た気がした。教授時代に学生のために描いた習作はターナーがものを捉える上での視点を表している。遠近法や球体への室内の映り込みといった、作品にはならないけど、形作るためのプロセスが見れるのは興味深かった。本場でも見てるのかもしれないけど、全く印象がない。近くで見ると荒く見える筆致も遠くから見ると実物を写しとっているかのようにリアルに感じられる。こうした写実性とも言える力によって作品が成り立っていることを感じさせた。

 テートブリテンの展示が終わるとテートモダンの現代アート作品が並ぶ。光を使ったインスタレーション、写真など表情が異なる作品が見れるのが印象的だ。

撮影可能エリアのインスタレーション
影が美しいインスタレーション
鏡に映ると絵画がまた違う表情を見せる

 けれど、きっともしテートブリテンやテートモダンにふたたび足を運んだとしたら、この作品たちを見つけることはできない気がする。伝統と現代が織りなす多彩な色彩を見ることのできる展示だった。

テート美術館展
東京展

会期2023年7月12日[水]-10月2日[月]

会場:国立新美術館
 
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