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連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その34


この物語はフィクションです。
如何なる人物も実存しません。


34.   24時間耐久レース


「ねえねえ真田くん!ちょっと!」


元気で明るい声に素直になる私の心。
無心に由紀ちゃんの側に寄った。


「なになに?」


「海に行く計画なんだけど。日取り決まったの。」


「は、はやい!」


「うん!早く行きたいしね!
休刊日の前の日の日曜日しかないし。
後メンバーなんだけど、
女子は4人行くから真田くん入れてこれで5人でしょ。
7人乗りの車が一番大きいからあと2人乗れるの。
あと誰誘う?松本先輩にする?それとも竹内くんと坂井くん?」


「ほうほう、なるほど。聞いてみるわ。女子4人って志賀先輩?」


「うん、そう。え?大丈夫?苦手?」


「いえ全然大丈夫です、はい。」


「良かった!じゃあ聞いといてくれる?
後お金はみんなで割るから。レンタカー屋さんなんだけど・・・」


しっかり者の奥様になりますよ、この子は。


そして
次の日の朝刊が来るのを待っている朝の時間。
松本先輩に聞いてみた。


「なんか、みんなで海行く計画が立てられてるんやけど、行く?」


「海ねぇ。みんなって誰?」


「えーっと、大野と優と俺。」


「ゼッタイ行かね。暑苦しすぎる!」


「ウソウソ!女子4人と俺運転手。」


「運転?車で行くん?」


「おっす。レンタカーっちゅうやつや。任しとき!」


「楽しそうやん。女子4人って誰?」


「今年の3人組と志賀さん。」


「しーちゃんか。あれ?彼氏は行かんのかな?」


「おっ、ホンマや。別れたか?」


「いや、入り浸ってるやろ。
今日もパチ屋で会ったで。」


「そうか。また聞いとくわ。で?どうする?
誰の曲をテープに入れとけばいい?」


「そうやな〜、やっぱMr.Bigは外せんなー。
CD聞けるんかなレンタカー。」


「おしっ。参加決定やな!」


「もちろんやん。CD聞ける車で頼むわ。」


「曲足りなくなったら俺たちで歌ったらええんちゃう?」


「せやな。」


キキキー。
油の切れたブレーキの音が聞こえた。


「おーい!来たぞー!」


朝刊が来た。
みんなぞろぞろと表へと歩く。


お店の中から由紀ちゃんと志賀先輩が出て来た。


でも今は聞けない。


他の先輩たちには俺たちの楽しさが
うっとおしいだろうから。


朝刊を配り終えてご飯を食べていたら
由紀ちゃんが下に降りて来た。


「ねえ、聞いてくれた?」


「聞いた聞いた。まっつん行くって。
ところで志賀さんの彼氏って行かへんの?」


「今ケンカしてるんだって。
だからちょうどいいってさ。」


「ほうほう。ケンカか。
原因を聞くだけで片道分の時間を要しそうやな。」


「あと1人かー。」


「もう6人でいいんちゃうかな。7人乗りに7人乗ったらギュウギュウやし。」


「そう?そうしようか!」


さて当日。
我ら6人は3列シートのステップワゴンに
ちょうど2人ずつ乗り込んだ。


「えー、私が今回の運転手を務めさせていだたきます真田直樹ハタチです。
特技は飲酒運転。趣味は飲酒。好きなタイプはビールです。よろしくお願いします。」


誰も聞いていなかった。
みんなそれぞれ自分の事で忙しい。


なんと滑り出しから助手席が取り合いになった。
人気者は辛い。


「あの、私が道をナビしたいから助手席に乗りたいんですけど・・・」


そう由紀ちゃんが言い切る前に
松本先輩はもうすでに助手席に腰を下ろした。


「いや、前の席は男の世界や。まずはMr.Bigを聞かなあかん。それに
ボリュームを調整したりCDを入れ替えたり色々と助手の仕事が忙しい。」


確かに男子は松本先輩と私だけだ。
私は男子も女子も意識していなかったが(ウソ)、
松本先輩は志賀先輩の横に座りずらいのだろう。


麻里ちゃんと千尋ちゃんが一番後ろのシートに
二人仲良く座ってもうお菓子を食べていた。


しかたなく諦めた由紀ちゃんは
真ん中のシートに志賀先輩と座った。
もちろん運転席の真後ろだ。
そこなら運転手に話しかけやすい。


出発した。
エンジンもみんなの元気も絶好調!
不調や疲れやダルさなどこれっぽちも存在しない車内。


オレンジ色の太陽の光に照らされて
オレンジ色になった私達の車は海へと向かった。
いざ湘南のビーチへ!



大阪の私の実家の車も
このような大きいワゴンタイプの車だったので
運転は慣れている。


事故の処理にも慣れている。
運転を交代できる者が居ないのにも慣れていた。


ただ道がさっぱり分からない。
青い道路案内の看板を見ても
さっぱり土地勘がない。
書いてある地名がどっち方面だか
さっぱり分からない。


例えば、
大阪から神戸方面と書いていれば西へ行ってるとか。
それが姫路と書かれていても同じだとか。
いきなり彦根と書いてあれば京都方面だとか。
そういった全然親切でない頑固親父のような
青くて大きて角ばった案内看板に悪態をついてみた。


「おえい、半蔵門って書いてるけど、どこやねん!」とか、
「厚木?大和?あれ?あれ?横浜どこいった?」など。


地図を持っている由紀ちゃんのナビだけが頼りだ。


「しばらく真っ直ぐね!」


「凄いやん!どうしたん?その地図!
大きくてしっかりとした地図なこと!買ったん?」



「ううん。優子さんに借りてきたー。」


「バッチリでんな!」


まあ迷ってしまっても南の方へ行けばなんとかなるだろう。
私は太陽の位置を確認した。


「次の信号左に曲がったら、もうすぐ首都高の入り口だって。」


「首都高!高速に乗ってしまえば神奈川って書いてんのかな?」


「まず横浜じゃない?」


志賀先輩もしっかり前を見て、
運転手の私の目線の仲間になってくれていた。


「ん?なにや?このめっちゃ甘い匂い!」


志賀先輩がまたイントネーションがめちゃくちゃな大阪弁で
そう言ってから一番後ろの席を見た。


「あ、チョコレート!ちょうだい!」

「いいですよー」
麻里ちゃんが口をモゴモゴさせながら言った。


すかさず由紀ちゃんが自分のカバンを手に取って言った。


「私もお菓子持って来たんだ。真田くん食べる?」


私、甘党です。


「食べる食べる!やったー!ありがとう!」


「はい!ここに置くね!」


どさーっと色んなお菓子が運転席と助手席の間に
所狭しと置かれた。


「うわー凄い!いっぱいあるー!やったー!」


喜んではみたものの、
少しだけ【はい、アーン!】を期待した私は
黄色信号を無視してぶっ飛ばした。


次の信号待ちで急いでお菓子の封を開けようとした。
間に合わない!すぐに信号が青になってしまう!
片手では開けられない!
まずは塩っ気が欲しい!

無いときは気にならなかったお菓子が
目の前にあるとなると気になって仕方がない。


ごそごそしている私にようやく気付いた助手席の野郎が言った。


「あ、開けようか?はい。」


まあ、しゃーない。
女の子の手で開けて欲しかったが仕方ない。


「真田くん運転やから食べられへんやん。食べさせたろか?
はい!あーん!」



「いやいや10枚いっぺんには食べられへんてチップスター。」


「ハハハ!」


後ろの席から志賀先輩の笑い声が聞こえて来たので、
バックミラーを覗いてみた。


由紀ちゃんは笑っていなかった。
きっと自分がそうすべきだったと
思ってくれているのか。



手元の地図すら見ていない。
どこに行った?由紀ちゃんの心よ。
次に期待しようと思う運転手であった。


〜つづく〜

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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