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「成瀬は天下を取りにいく」本屋大賞2024大賞!おめでとうございます。

半信半疑で成瀬と出会った書店員S

私は書店員をしております。
成瀬は天下を取りにいく』、この小説に出会ったのは2023年の1月ごろでした。新潮社の本社の方が店に来られ、
「お勧めしたいデビュー作の小説があるんですけれど」とのこと。
「滋賀の中学生が云々…」とかおっしゃってたと思います。

実際それおもろいの?青春ものは読まへんよ?と半信半疑ながら後日プルーフ(製本前の見本)を送っていただきました。

そこから「成瀬班」と命名された成瀬の本を売りまくる書店員さんの一員に名を連ね、書店員人生で初めて本屋大賞に真面目に取り組みました。もちろん成瀬に天下を取ってもらうためです。
本屋大賞2024大賞を受賞されたこのタイミングで、noteでも成瀬をお勧めしたいと思います。

成瀬はどんなお話?

中学2年生の夏。主人公、成瀬あかりのこのセリフから物語が始まります。

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

「成瀬は天下を取りにいく」冒頭/宮島未奈 新潮社

西武?なんのこっちゃ!?  中学生ぽくないな? 読み進めると、懸案だった(?)甘酸っぱさ無し。青春すぎることもなさそう。

成瀬は、8月末に完全閉店する西武大津ショッピングセンター(実在)への愛とお礼を込めて、地元テレビ局の中継に1ヶ月間映り込むこという奇想天外な捧げ方を始めます。
そこはお店の人たちと別れの挨拶をしてまわるほうが…とは一般人の発想なんですよね。

初読みのときは、めんどくさそうな子だねえ、この主人公。と、思っていました。そんな気持ちも最初の数ページで霧散します。
この話、どう決着するんだろう?成瀬が西武の閉店を見届けた先には何があるんだろう。読まずにはいられなくなるのです。
斜め上の行動を開始してこそ成瀬あかりなのですが、「それでこそ」なんて思えるのは、成瀬を愛してしまった今だからこそ。

宣言したことは実行する、成瀬のその言動は地元の大津を愛することを基盤としています。「どう行動するか」をつきつめているようです。

その後も成瀬は、親友島崎とM1に出場したり、坊主にしてみたり、部活の遠征で広島から来た男子高校生と琵琶湖デートをしたりと、ちゃんと青春しているのです。
坊主は青春のキーワードから外れてるけれど。そこが成瀬。

親友や周囲の人々を巻き込んで、助けられて、成瀬がちょっと大人になるのです。
あああ、高校3年生の夏の成瀬で終わってしまった…続きが読みたい…

プルーフを読んだ書店員からは、一作目が発売前だというのにすでに続編を渇望する人続出だったようです。私もそうでした。

「成瀬は天下を取りにいく

2作目の「成瀬は信じた道をいく」での成瀬の活躍も、全て地元をどう愛するか、自由に生きていいんだよ、ってことに帰結するように感じます。

京都の超難関国立大学😁に受かった成瀬は、滋賀の地元のスーパーでバイトを始めます。なぜ引く手あまたのはずの家庭教師ではなく、地元のスーパーなのか。
膳所と滋賀を愛する成瀬が、自分が地元でできることをコツコツと行うための手段なのです。

「成瀬は信じた道をいく」

ちょいちょい出てくるおもしろ一文

話の筋とは関係なく、登場人物がちょいちょい面白いことを言うのが宮島未奈さんの魅力です。

「俺はカレーライスをおかずにご飯を食べるほど米が好きだ。」

「成瀬は天下を取りにいく」広島の西浦くんの談話/宮島未奈 新潮社

「思ってたんとちゃう」

「成瀬は信じた道をいく」あかりの父 慶彦の談話/宮島未奈 新潮社

笑いどころもふんだんに盛り込みながら、どんどん成瀬のペースに巻き込まれていくのがこの小説の楽しさです。小説はおもしろくてなんぼやな、と改めて思いました。

成瀬あかりの危険回避術

小説は古今東西を問わず社会問題に深く根ざしたものも多いかと思います。
最近は生きづらさや違和感がこれでもかと表面化したお話を読んでは、「そうだそうだ!」とか「その気持ちを言語化してくれた」とか感じるのです。

成瀬の周辺にも、集団の中でのつらさや、子離れの寂しさ、現状の生活に満足できず他者を攻撃してしまう自分への嫌悪感、などいろんな人々が登場します。
その問題をえぐるのではなく、現状を抱きしめたまま斜め上の案を提示するのが成瀬なのです。どう人生を渡っていくのが楽しいのか、成瀬は教えてくれます。

抱えた荷物は減ってはいません。泰然とした成瀬に引っ張られて、自分の気持ちを大切にしたまま生きていいんだと、教えてもらえるのです。
生真面目で正論でユーモアがなさそうにすら見える成瀬は、その存在自体がユーモラス。成瀬に関わる人々はちょっと反発しながらも成瀬のおかしみを感じ取り、なぜだか自分自身を認めるのです。
「成瀬は天下を取りにいく」一作目を読み始めた私と同じ反応ではないですか。

成瀬には幼馴染の島崎という生涯の相方がいます。付かず離れず成瀬を見守ってきた島崎だけが成瀬の直進を乱す存在でもあります。そんな二人を眩しく羨ましく思います。こんな友人いたらいいなあ…とか。
この感想って、青春小説読んだときに思うやつーー。ねじくれた青春を生きた大人たちが成瀬に惚れ込むのは、その生き方もありなんだと確認できるからかもしれません。

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