小湊すい

「のけものけもの」という動画を作っています/雑感と小噺/優しくなりたい

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  • あつ森日記

  • のけものけもの

    "のけものけもの"のエッセイまとめ

最近の記事

正義 対 正義 /キタニタツヤ「次回予告」を聴いて

 ぼんやり音楽を聴いていたら、とある曲が耳に飛び込んできた。キタニタツヤさんの「次回予告」だ。 「いけ たたかえ まけないで! せいぎはかつ まけたらわるもの?」  とんでもない歌詞が、幼い子どもの声で紡がれる。テレビの前でヒーローを応援する子どもたちは、この歌詞をどう受け止めるのだろう。けれどタイトルに「次回予告」とあるように、ただ単に絶望する曲ではない。  わたしたちは、大した変化のない毎日を送る。仕事や学校、たまに遊んで、また仕事。それが「予定調和」の日々。昔は夢

    • 迫る夏 あつ森日記#3

       休職して2ヶ月弱。春はあっという間に過ぎ去って、もう既に夏の片鱗を見せている。用事があって昼間に外出したら、上着を投げ捨てそうになった。そのくらい暑くて驚いた。これから増していく夏の暑さに、ついて行けるだろうか。いまからちょっと、怯えている。  あつ森をプレイする時間は少し減った。休職してから他にできることがなく、起きてあつ森、少し寝てあつ森、ご飯を食べてあつ森という、ほぼターン制で助けてもらっていたけれど、最近は文章を書く時間の方が長い。回復傾向、なのかも。  ゲーム

      • 憧れと執着、音楽の話

         幼稚園の頃、友だちの家に遊びに行ったら、子ども用のドレスが飾ってあった。いまでも覚えている。明るいピンク色の、裾の長いキラキラしたドレス。綺麗で可愛くて、ほんとうに羨ましくて、何度も着せてほしいとねだった。友だちの物なのだから、当然嫌がられた。その後どうしたか忘れてしまったけれど、わたしの家にドレスが存在したことは一度もない。  恐らく家に帰ってからも、ドレスが欲しいと何度も言った気がする。母親の返事はいつも同じ。すぐ着れなくなるでしょ、と。4歳5歳なんて身長は伸びるし体

        • 夢か現か

           眠りが浅いのか、よく夢を見る。内容はあまり覚えていないけれど、身体がすごく怠かったり、泣きながら目が覚めたり、あまり良いことはない。そして以前より、現実味のある夢を見るようになった。境界が曖昧で、ちょっと怖い。  昔は自分でも夢だと分かるシチュエーションが多かった。大きな鉄球が転がってくるとか、なぜか竹藪で宝探しをしているとか。あり得ないと笑えるような。  ただ最近は、妙に現実性が増してきた。会いたいなと思っていた友人から連絡が来るとか、数年前に亡くなった祖父と話をする

        正義 対 正義 /キタニタツヤ「次回予告」を聴いて

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        • あつ森日記
          3本
        • のけものけもの
          4本

        記事

          人間とよく似た

           先週の通院ぶりに外出した。どうしても外せない用事があり、這うように布団から出た。身支度を整えて、久しぶりに眼鏡を外す。コンタクトを入れるだけで、世界が鮮明に見えた。休職してから姿を整える気力もなく、家を出られるだけ御の字。いつも眼鏡とすっぴんで、地味な身なりをしていた。  軽く化粧をして前髪を整えたら、鏡の中には人間が写っていた。少しホッとした。まだ人間の姿を取れる。まるで人間ではないような言い方だけれど、実際わたしは自身を"人間みたいな何か"だと思っている。やっているこ

          人間とよく似た

          短歌と自己紹介

           はじめまして。小湊すいと申します。特にお伝えできることはありませんが、読んでもらえば分かると思います、きっと。どうぞよろしくお願いします。 「いまを生きている」 水面に ぷかぷか浮かぶ その影は 魚になれず 人にもなれない 淡々と 進む生活 つつがなく 儘ならないと 泣いたとしても 隣人を 愛せと神は 言うけれど 愛されたいと 願うのは罪? あたたかな 海とひとつに なりたくて 水の世界に 幸あれと願う 泣いている ちいさなわたし 頬を撫で ぜんぶ抱えて 歩き始

          短歌と自己紹介

          無人島にも春がきた あつ森日記#2

           適応障害と診断されて2ヶ月目。薬を変えたり増やしたり、実験のように過ごしている。睡眠に難ありで、何故だか同じ時間にきっかり目が覚める。それで元気に活動できれば良いのだけれど、身体を起こせず天井を眺めていることもある。また昼くらいに眠り、夕方に起きて夜を待つ。その繰り返し。時間だけが無情に過ぎていく。もどかしいけれど、致し方ない。  起きている時間は、ほとんど島で過ごしている。いつの間にか4月になって、北半球の無人島には桜が咲いた。島を歩けば、ひらひらと花びらが舞っている。

          無人島にも春がきた あつ森日記#2

          怖がりの泣きごと

           とても臆病な子どもだった。お化け屋敷にジェットコースター、暗い部屋、高いところ、初めての場所、知らないひと。未知に溢れていて、そのすべてが怖かった。こわい、こわいよと母親に縋って泣いていた。  3歳くらいの時、子ども向けの映画に行ったら、暗くなった瞬間に大泣きしたらしい。うるさくて周りの迷惑だから、すぐにロビーに出て戻れなかったと聞いた。せっかく連れて行ったのに〜と大人になっても言われる。  小学生になった頃には、明石海峡大橋の下の部分を歩くツアーに連れて行かれた。当然

          怖がりの泣きごと

          創作/気ままなきみへ

           空が白み始めた頃、まだ辺りは薄暗いというのに、きみは「おはよー!」と大きな声で言う。わたしはまだ眠くて、布団に包まり、寝ぼけたまま返事をする。もう少し寝かせてくれたらいいのに、ごはん食べようよ!と目をキラキラさせるものだから、仕方がないなあと身体を起こす。  眠い目を擦りながら、ふたり分の朝食を用意する。トースターで食パンを焼くけれど、きみは待ってくれなくて、わたしより先に食べ始めてしまう。自由だなあと思いつつ、あんまり美味しそうに食べるものだから笑ってしまう。  食パ

          創作/気ままなきみへ

          どうぶつの森で暮らしています

           適応障害になって約1ヶ月。ちょっと休めば元気になるだろうと思っていたけれど、ただぐったり横になる生活を続けていたら3月が終わっていた。寝て起きて食べて寝る、進んでいないどころか退化している。それでも何もできないのだけれど、唯一始めたのがswitchの「あつまれどうぶつの森」だった。  小学生の頃はDS版の「おいでよどうぶつの森」が大好きで、毎日のように遊んでいた。限られた空間の小さな村は、隅々までわたしだけのものだった。アバターには本名ではなく、かわいい名前をつけた。家具

          どうぶつの森で暮らしています

          創作/泡沫の夢

           近所に腰の曲がった老婆が住んでいる。古びたアパートの1階、角っこの小さな部屋。前を通るといい匂いがする。おばあちゃんは料理が上手だ。扉の前に立ち、大きな声でただいま!と叫ぶ。しばらくすれば、彼女はゆっくりと出てくる。いらっしゃいと微笑んで。  あまり陽の入らない部屋だけれど、空気は温かい。大きな鍋が火にかけられているから。薄暗い小さな空間に、大きめのテーブルと椅子が4つ。そのうち半分は荷物で埋まっていて、座れるのは2つだけ。いつも通り、洗面所で手を洗ってから席に着く。

          創作/泡沫の夢

          悲しみに蓋をして

           ずっと大人になりたかった。大人になれば自由だと思って。何から逃れたかったのか、あまり覚えてもいないのだけれど、昔から自立しなくてはという気持ちがあった。働いて、自分のお金で生活する。東京の端っこに借りた小さな部屋は、誰にも侵されない安寧の地となった。  適応障害と診断され、仕事を休んでいる。小さな部屋で眠ってばかり。寝て起きて食べて寝る、その繰り返し。薬のおかげで精神は割と安定しているけれど、この生活に意味はあるのかと不安になる。みんな働いているのに、わたしだけが何もして

          悲しみに蓋をして

          【ライブレポート】2024.01.19 おいしくるメロンパン 「answer tour – 結ぶリボンの方程式 -」LINE CUBE SHIBUYA

           7thミニアルバム『answer』を引っ提げ、2023年上旬から始まった全国ツアーのファイナル公演がLINE CUBE SHIBUYAで行われた。初のホールワンマンにしてソールドアウト!『answer』の締めくくりに、どんな"答え"を出すのか、とても楽しみだった。美しい世界のひとつの結末を見られる気がして。  はじまりは「斜陽」から。「信じてみたいんだ ひとつを ひとつの僕で」という歌詞は、バラバラになりそうな自分をそっと繋いでくれる気がする。橙色に照らされる舞台が、夕焼

          【ライブレポート】2024.01.19 おいしくるメロンパン 「answer tour – 結ぶリボンの方程式 -」LINE CUBE SHIBUYA

          悪い子になりたい/のけものけもの #4

           決められたルールは守る、友達を傷つけない、先生や大人を困らせない。物心ついた時には当たり前のことで、悪ふざけをしたり、騒いだりして怒られる子たちを冷めた目で見ていた気がする。子どものうちに叱られておいた方が健全だと、今なら思えるのだけれど。  世間的に良い子である、そのことしか価値がないような気がしていた。昔からあまり取り柄がなく、運動は苦手だし、手先も不器用、どんくさいと何度言われたか分からない。呆れて溜め息を吐かれることばかりだった。  突出した個性のない子どもは、

          悪い子になりたい/のけものけもの #4

          地続きの日々

           今年はライブハウスで年を越した。普段はコタツでぬくぬくしながら翌年を迎えるから、大勢と一緒なのが新鮮だった。「今年もよろしくお願いします!!!」と叫んで始まったギターのイントロ、歓声の上がるフロア。今年も変わらず、この空間を愛せたら良いなと思った。  誕生日や記念日といった、節目の行事のようなものがあまり得意ではない。友達の生まれた日はめでたいし、命日の頃には故人のことを思い出すけれど、特定の日に何か行動を起こすのが苦手。自分の誕生日も言わずに、何ら変わりない1日として終

          地続きの日々

          理想、期待、それから

           他人にも自分にも期待しない。そう言い聞かせていた時期がある。誰かに何かを望んだって叶わないし、自身に可能性を見出せるほど己を信じられなかったから。期待しなければ、欲しいと思わなければ、穏やかに過ごせるのだと思っていた。   穏やかというより、平坦だった。落ち込むことも減ったけれど、喜ぶことも少なくなった。ただ過ぎていく時間の中にぼんやりと身を置いて、感情があまり振れなくなって。なにか困ることが起きても、悲しいと感じても、それは相手に期待した自分が悪いのだと飲み込むようにし

          理想、期待、それから