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脳に依存する

 夜眠る前、手のひらに薬を並べる。抗うつ剤と睡眠薬。少しずつ増えて、結構な数になってきた。飲み込むと、じんわり手足が重くなる。20分もすれば動けなくなり、そのまま眠る。夢も見ない。

 落ち着いて暮らせることが、いちばんだと思う。薬を飲むと、ぼんやりと脳が鎮静される。極端に思考が落ちず、ハイになって喋りすぎない。感情の起伏が平坦になり、少し物足りなくも感じるけれど、希死念慮が遠ざかったのは良い。薬ひとつで、こんなにも変わる。

 当然ながら、副作用も存在する。身体の怠さとか、頭痛とか。理由なく感情が転がり落ちる日もあるけれど、唐突な不安感は、恐らく薬のせい。涙が止まらない日は、早く寝るに限る。対価を払って安寧を手にする、そういうイキモノになったのだ。

 それでも、薬を飲んでみて良かったと思っている。ひとりでは手に入らなかった安寧だ。楽になることを許せた。感情に振り回されすぎていたのかもしれない。自分だけで苦しみ続けるより、良い選択をした。

 感情は心にあると思っていた。嬉しかったり悲しかったり、心が揺れるものなのだと。実際は脳だった。脳に薬が作用すれば、感情がコントロールされる。人間は脳に依存しているのだと、体感することになった。本当のわたし、そんなものは証明できない。

 もう元には戻れない。数多の薬を頼りに、進むしかない。自分が誰かなんて、分からないけれど。この先も知り得ないのかもしれないけれど。いつか、こんな時期もあったと笑えたらいい。今はただ、自分に優しく生きていたい。

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