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ハイコンテクスト症候群を抜け出せば、売れる営業になる!

「田中、昨日のあの件、どうなった?」

「はい、順調です!」

「良かった。いい感じで頼むよ!早めでよろしく!」

「了解しました!」

何気ない上司と部下の会話である。
しかし、どこか違和感がある。

あなたはこの違和感に気づいただろうか?

普段、身近な人と話している場合には共通の知識や前提を用いたコミュニケーションが行われる。
この時、日本人特有ともいえる『阿吽の呼吸』が生まれる。
ツーと言えばカー、細かい説明はしなくても心と心で通じ合っている。
そんな間柄には、憧れすらある。
何十年と寄り添った夫婦であれば、こういったコミュニケーションが可能になるのだろう。

しかし、これがビジネスの場において求められるとしたら、非常に危険である。

現代では、様々な国籍の社員が同じチームで仕事を進めることも少なくない。社員の多様化に伴い、積極的な中途採用を進めた企業では、前職が全くの畑違いの社員が半分以上在籍しているということも決して珍しい話ではないだろう。

このような状況において、同じ前提や同じ知識が相手にあると思って接することには無理がある。

いい悪いではなく、自分と相手とでは積んできた経験や、学んできた知識が全く異なるのだから。

冒頭の上司と部下の会話を見ると、不安なやり取りが多数存在していることに気づくだろう。

昨日のあの件 ⇒ どの件なのだろう?
順調です   ⇒ 何に対してどのくらい進んでいることを順調と言っているのだろう?
良い感じで  ⇒ どの程度のクオリティのアウトプットを求めているのだろう?
早めで    ⇒ 一週間以内は早めだろうか?今日中であれば早めだろうか?

この会話で、
「了解しました!」
と言っているが、はっきり言って

何ひとつ、了解できない

冗談のような話ではあるが、実際にこのようなコミュニケーションは様々な場面で発生している。
これをハイコンテクスト症候群と呼ぶ。

そして、なんとこれが営業の商談の場面で発生しているケースもある。

私が営業指導を行う際に着目しているポイントは複数あるが、大きくは以下の4つのカテゴリに分解して評価している。

①関係性構築
②ヒアリング
③プレゼンテーション
④クロージング

細かい話は別の機会に譲ることにするが、営業によって圧倒的な差が生まれる部分に②のヒアリングがある。

そして、このヒアリングにおける課題の中でも非常に多くの営業が犯しているミスが、実はハイコンテクスト症候群、つまり『わかったつもりで何となく話を進めてしまうミス』なのだ。

例えば、あなたは車の営業だとする。

ある日、お客さんとの会話の中で、「今回は白いワンボックスカーを探しています」と言われたとしよう。

この後の発言で、営業の能力がはっきりと透けて見える。

「わかります!やっぱり白はかっこいいですよね~!ワンボックスは使い勝手が良くて、大人気です!とっておきのおススメがあるので、こちらをご覧ください!」

こう伝える営業。
この営業は、残念ながら売れる営業にはなれない。

何が悪いのか?
答えは、

相手の発言の背景を確認しないまま、話を進めてしまっているから

では、売れる営業ならどう聞くか?
少し長くなるが、売れる営業と顧客のやり取りを見ていこう。

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「なるほど、白ですか!いいですね~!ちなみに、現在は何色のお車に乗られているのですか?
「今は黒です。」
「そうでしたか。今回、白をご検討されていらっしゃるというのは?何か理由が??
「はい。実は、黒だと光が反射して、傷が目立ってしまうのです。今の車も傷だらけで(笑) これからは、妻と一台の車に乗ろうと思うのです。そうすると、更に傷がつきそうで…。」
「そういうことでしたか!奥様と兼用ということであれば、比較的、奥様の運転しやすいサイズの車をご検討される方が多い印象がありますが、今回ワンボックスをご検討している決め手は何でしたか?
「家族で出かけることを考えると、車が広い方が楽じゃないかなと思ったのです。」
「確かにそれはありますね!ご家族は何名でしょうか?」
「5人です。」
「特に長距離のお出かけの際には楽ですよね。実際に、どのくらいの頻度で5人で遠くへお出かけになるのですか?
「う~ん…5人で、というのはほとんどありませんね。年に1回あるか、ないかです。」
「そうですか。すると、普段奥様が車に乗られる時間や回数の方が多いということになりますね?
「確かにそうなりますね。」
「街乗りの普段使いとなりますので、車幅が大きいことで奥様の運転が大変になり、車の傷が今よりも増えるという可能性については特に気にはなりませんか?
「あ~、確かにそれは嫌ですよね(笑) 大丈夫かな、ちょっと本人にも確認した方が良い気がしてきました。」
「そうですね。もしかしたら色をお決めになるよりも、一度車のサイズ感について使用用途に合わせてご検討された方が良いかもしれません。是非一度、奥様とご一緒にご来店ください。私から最適なお車のご提案を差し上げます。いつがご都合よろしいでしょうか?優先的にスケジュールを開けておきます。
「では、来週の日曜日の午前中にもう一度伺います!」
「かしこまりました、お待ちしておりますね!」
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違いがお分かりだろうか。
最初の営業は、白のワンボックスカーと言われてそれで納得している。
しかし、次の営業は

・なぜ白なのか?
・なぜワンボックスカーなのか?

という、顧客の発言の背景にある理由を質問によって全て可視化している。
このままいくと、1500㏄の黒い車に着地する可能性も十分にあり得る。
顧客の発言をうのみにせず、しっかりと背景を確認できる営業が、強い営業であり売れる営業なのだ。

自分は大丈夫だ、と油断せずにこの機会に『もしかしたらハイコンテクスト症候群になっているかもしれない』と疑ってみるのが良い。

顧客の本質ニーズを探る云々の前に、正しく情報を取得することができていなければニーズも何もあったものではないのだ。
自分のヒアリングを振り返る機会にしていただけると幸いである。


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