2024 Jリーグ にフォーカス4『 異次元の距離感vs個への絶大な信頼~相乗の対局~ 』J2 第10節 ロアッソ熊本 vs ヴァンフォーレ甲府 レビュー



1、前置き~抑えきれない期待感~

2024 J2 第10節 ロアッソ熊本 vs ヴァンフォーレ甲府
2024年4月14日(14:03kick off) えがお健康スタジアム

 プレビューのためにライバルクラブの試合をチェックするようになった上でレビューを書いてみるシリーズの3作目。1本目は、川崎と磐田のあの打ち合いに惹かれて勢いでレビューを書いた。

 そこからのここまで3本は、記録も残したいという想いから私の拙いサッカー眼や表現力では、多くの方の目に止まることは少ないと感じながらも、雉球さんが、毎試合コメントを下さるので、とてもモチベーションになっている。

 ダメなりにもプレビューを書けるようになってきたという手応えを感じてきています。やはり、試合を観てみないと分からない所があるというのが、正直な所ですが、この試合に関しては、両チームの良さが出たうえで、両チーム3得点ということで、時折ある両チームの好プレーに拍手を送りながら、最後まで視聴した。

 やはり、岡山の試合がないこと。中立の立場であることで、純粋な気持ちでサッカーを楽しむことができるという事を感じながら、最後まで試合を観戦することができた。

 今季は、できる限り多くのクラブの試合を観たいという想いから多くの試合をチェックしてきているが、恐らく熊本と甲府の試合をチェックするのは初めてであったので、その点はとても楽しかった。

 そして、私なりに、両チームの特徴というのを「なんとなく」ですが、掴めたので、そこの言語化にトライしていきたいと思います。それでは、よろしくお願いします。

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2、持てる熊本と焦れない甲府~好感触~


 前半に関しては、熊本が距離感良くパスを繋ぎながら前進していく。それを迎え撃つ甲府は、そのパスワークに対して、人数をかけて制限をかけていくというよりは、もし奪えて攻撃に移った時を意識するポジショニングでのバランスが崩れない範囲で、プレスをかけていくという形であった。

 そのためボール奪って、シンプルに前方へのアクションを起こした時に、懐の深さを持った強力な個の力を持った甲府が、個で仕掛けていくということができていた。

 そういったシンプルな凄さを武器に獲得したCKで、密集地をずらしていうか視点をずらしたマイナスのボールを入れたことで、フリーでシュートを撃つことができたが、こぼれ球を混戦の中で押し込めるかという所で押し込めず、サイドにこぼれた所にいた51番 アダイウトンが、密集地の僅かな隙間を突き抜けるレザービームのような強烈なシュートを突きさして、先制する。

 ビハインドになった熊本も距離感良くパスを繋いで前進しつつ絶妙なクロスとパスワークで、甲府の守備ブロックを無効化していく。人数こそ揃っているが、精度に全振りしたような、守備側からすると嫌らしいというか怪しいクロスが、信じられないほど、繋がるだけではなく、高精度のクロスが中に来るなかで、難しい対応が迫られていた。

 そんな中で、同点に追いついたのが、熊本。パスサッカーの広島を彷彿させる絶妙な難しい角度のパスでペナルティエリア内深くに潜り込んだ9番 大本 祐槻 選手から、シュートを打って下さいと言わんばかりの近い距離からのマイナスの優しいグラウンダーのクロスに対して、7番 竹本 雄飛 選手が、迷いなく振りぬいたシュートは、DFとGKと少し重なった先を突き抜けて、ゴールネットに突き刺さり、同点に追いつく。

 ここからホームの熊本が、流れを取り戻すかと思われたが、直後の甲府の攻撃で、この試合通して、サイドの位置にポジションを取ることが多いボランチの26番 佐藤 和弘 選手からのパスを受けた34番 木村 卓斗 選手が、ドリブルでバイタルエリアまで侵入すると、寄せに行けなかった熊本の守備対応の隙を突いて、右足を振りぬいた強烈なシュートは、熊本のGKの手の先を超えて、瞬く間に勝ち越しに甲府が成功する。

 このまま熊本が意気消沈しても不思議ではないが、熊本がボールを持ち主導権を握っているように見えても、一本のパスで得点を狙えるよという自信に溢れた甲府の試合運びの前にしばらくそのスコアで推移する。

 それでも甲府のパスでの前進の速度とゴール前でのクロスやパスでの崩しに難しい対応が迫られる中で、GKの88番 渋谷 飛翔 選手が、接触プレーで手を痛めて、33番 山内 康太 選手と交代した。

 そして、同点ゴールも再び9番 大本 祐槻 選手の右足から生まれる。球足と精度と共に再び素晴らしいクロスが上がると、DFの前で上手く頭で合わせた逆サイドのWBの13番 岩下 航 選手が、GKの触れないコースへと軌道を変えて決めるというパーフェクトな得点で、再度同点に追いついた熊本。

 熊本が持って、甲府がカウンターに近い形を狙うという構図は変わらない中で、甲府に再度アクシデント。今度は、CBの29番 神谷 凱士 選手が、熊本の選手と激しく接触。この際、衝撃で頭が激しく揺れたことで、脳震盪で、3番 孫 大河 選手と交代することなってしまった。

 この難しい対応を迫る熊本の精度に意思疎通に練度の伴った崩しの完成度というのは、J2でも屈指なのではないかと感じるクロスやパスには、驚かされるというよりは、その上をいく惚れ惚れする印象すら抱く。

 しかしながらこの試合で、常に先行していたのは甲府。二度のアクシデントで、前半ながら長く取られたATでの甲府の直接FKは、クロスバーに当たって上で、GKにも当たったが、こぼれ球に一番早く反応した9番 三平 和司 選手が押し込んで、甲府が再度勝ち越して前半は終わる。

 後半に何点入るかという内容が濃く、得点が多く生まれた前半を終えて、勝負は後半へ。


3、目まぐるしい膠着と攻勢~完遂~


 後半も基本的には、同じ流れで推移したが、得点に至らなかった。もしかすると、HTに2選手交代してきた甲府の選手が変わった影響もあったかもしれないが、しばらく試合は、2-3で、甲府のリードで推移する。

 そんな中で、試合を動かしたのは熊本。29番 道脇 豊 選手へのパスは、少し引っ掛かったが、勢いがそこまで死ななかったので、生きたパスの零れ球を29番 道脇 豊 選手がパスが繋がったように回収すると、そのまま前を向いて良い位置までドリブルすると、シュートコースがあると見るや強烈なミドルシュートを左隅に突きさした。

 この得点で、29番 道脇 豊 選手が、J2初ゴール及びクラブ通算600得点目というメモリアルな得点を記憶にも記録にも残る形で決めた。熊本ユース出身で、期待を一心に背負う若いストライカーの得点は、チームを勢いを作るには十分な得点であった。

 甲府もすかさず、99番 ピーター・ウタカ 選手を投入したが、前半にアクシデントもあったことで、後半はハーフタイムでの交代を含めて3枚使い切った形になったが、最後の攻勢にでる。

 手数が多いのは依然として熊本であるが、甲府も人数をかけた攻撃で、勝ち越しを狙い勝ち点3を目指す。99番 ピーター・ウタカ 選手の年齢による衰えを感じさせないスピード感のある仕掛けと懐の深さを活かしたチャンスメークと51番 アダイウトン 選手の推進力のあるスピード感のある仕掛けの強力2トップの攻撃は、迫力があった。

 決定機という点では、熊本の方に分があったが、甲府の体を投げ出してのシュートブロックと最後の所での精度が足りなかった熊本の精度に甲府は助けられて、3-3で結局タイムアップ。

 3度リードした甲府に3度追いついた熊本。両チームの高い攻撃力が、両チーム合わせて6ゴール生まれたエキサイティングな打ち合いの試合を作り出した。両チームの戦いかは、引き分けに終わったが、まさに興奮冷めやらぬ試合といった印象である。

 しかしながら甲府としては、手を負傷した88番 渋谷 翼 選手の負傷交代も心配ですし、29番 神谷 凱士 選手の脳震盪での状態も心配される。1週間あるとはいえ、際どい所での体を張って守っていただけに、3度のリードを守り切って勝ちたかった試合ではないかと思う。

 熊本としては、試合の主導権を握って、崩して得点を積み重ねたが、課題である守備により、リードを奪うことができず、勝ちきれなかった。決定機自体も多かっただけに悔しい引き分けかもしれないが、29番 道脇 豊 選手の得点は、今後に繋がることは間違いないという意味では、大きな得点を決めることができた試合になったはずだ。


4、距離感と意思疎通の連結~ロアッソ熊本~


 パスを細かく繋ぐ。タッチ数も少なく球離れも良いが、驚くべきことにミスパスは少なく、前進も早い。全体を良く見ていると、全選手が周りを観ながら、細かく動いている。そして、他クラブと違い、前方に人数をかけていることもあって、前にパスコースがあるので、しっかり繋がる。

 また細かいパスワークでの前進だけではなく、左右のWBが高いポジションを取ることもあり、フリーであれば、自然とそこにロングパスに感じさせない足下に付く精度と速さが伴ったパスが何度も通る。シンプルにクロスを入れていくこともパスで崩しに行くことが何度もあった。

 そして、このパスには、角度を付けるという工夫があり、クロスはGKがキャッチできないようでDFと熊本の選手の間のような所を狙って、スピードより精度を重視したパスのようなクロスにより、甲府の守備ブロックを無力化していた。まるで熊本のクロスはパスのような精度の高さという良さを取り入れて、パスには角度を付けるというクロスのような対応の難しさという良さを取り入れた「パロス」という某アニメ映画の名言の「バ〇ス」ような破壊力のあるボールを中に配給することで、まさに守備ブロックを破壊するという攻撃ができていた。

 一方で、攻撃の距離感にかなり全振りしていることもあり、守備の時にスペースが出来やすい傾向にある。3バックで一時期流行っていたポゼッションサッカーは、被攻撃機会を減らす狙いもあるが、熊本のポゼッションサッカーは、前進も攻撃力のある攻撃にかなり割合を割いた攻撃に感じた。

 まさしく、火の国に相応しい攻撃の勢いが凄まじい「距離感と意思疎通が連結」した超攻撃サッカーのスタイルこそ、熊本の唯一無二のスタイルの特徴に感じた。


5、風林火山~ヴァンフォーレ甲府~


其疾如風: 其の疾ときこと風の如ごとく
其徐如林: 其の徐しずかなること林の如く
侵掠如火: 侵掠しんりゃくすること火の如く
不動如山: 動かざること山の如し

 熊本のサッカーの前に、勝ちきれなかった試合で、守備も3失点してしまったが、甲府のサッカーができなくて、3失点した試合ではなかった。どちらかと言えば、互いの良さを出し合った試合で、風林火山らしく、甲府のサッカーを体現できた試合に感じた。

 「其疾如風」という点では、51番 アダイウトン 選手のスピードのある仕掛けのように、一瞬のスピードで、一気に熊本のゴールに迫る仕掛けを個の力で実現できていた。この試合では、囲まれてDFを振り切ってシュートを打つこともできていたシーンを含めて、甲府として全体としてスピード感があった。

 「其徐如林」では、守備をしていたと思っていたら、1本のパスや少ない手数で、そこにいつまにか攻撃においての良い位置にいるという感じに、まるで突然に攻撃のターンになるという攻撃を何度も仕掛けていた。これは、やはり攻撃を意識したポジショニングを前の選手ができていて、ボールを奪うことで、そこへの選択肢の成功率を高めることができているからである。

 「侵掠如火」では、チャンスと観た時や攻める意思を明確にした時には、人数をかけた分厚い攻撃ができていて、最後までできる。つまりシュートで終えるという事もしっかりできていた。枠内シュートも12本の内の8本という事で、その勢いを感じる精度と力である。

 「不動如山」では、劣勢に見える中でも、自分たちの形を攻守で見失わない。3失点した試合であってもやるべきことをやり続けた試合に感じた。混乱というよりは、熊本の精度の形が凄すぎた面がある。そういった中でも勝ちきれなかったものアウェイで、3度もリードを奪えるだけの自分たちのスタイルへの自信と強さを感じた試合となった。

 個が光った試合であったが、岡山で考えれば、チアゴ・アウベス 選手とミッチェル・デューク 選手の2トップの時みたいに、強力な個性を最大限活かす戦い方ができる。ある意味、そういった100%を安定してだせる組織美のような強さを感じるチームである。

 そういった「風林火山」のような総合力の高さを感じた試合となった。


6、杉さん的な両チームのMIP


『 FW 29番 道脇 豊 選手(CF) 』

 ホームの熊本からは、2アシストの9番 木本 祐槻 選手を推したい所ではあったが、やはりメモリアルゴールとJ2での自身初のゴールを決めた29番 道脇 豊 選手を推したい。巧さに特徴がある選手が多い中で、良い意味での異物感がある。

 その高さもそうであるが、速さや強さもあって、得点もパンチ力を感じた。熊本のスタイルでも崩せない時に、力でこじ開ける。そういった事ができるスケールの大きさを感じる選手であった。

『 FW 51番 アダイウトン 選手(左SH→CF) 』

 スピードというか単独でもシュートまで行ける推進力も去ることながら、90分間これだけスプリントできる持久力、簡単に倒れないことでポストプレーや球際での力も凄い。そして、得点を奪えるシュートの精度と力がある。まさにFWに欲しいものを全て持っている怖い選手に感じた。

 WG気味にサイドでプレーできますし、CFとして、ゴールに近い所でもある。他にも、1人で仕事ができる選手も多く、甲府の強さの一端を感じるとることができる素晴らしい活躍であった。


7、総括~相乗の対局~


 両チームの良さを消しあう試合もあれば、100%をお互いに出し合えるサッカースタイルもある。この試合では、まさにそういったチーム同士の対決により、そういった両チームのスタイルが良く分かり攻撃での良さが際立った試合となった。

 次戦の対戦でも同じように点の取り合いになるのではないか。そういった予感めいたものを感じる。両チームのサポーターからすれば、複数得点で完封するような落ち着いた試合を安心して観たいとは思うでしょうけど、この両チームの対戦となった時は、恐らくそういった事にはならないのではないかと感じる。

 個人的には、スコアを知った上での観戦ではあったが、攻撃においての良いプレーが多くて、とても面白かった。どちらかと言えば、攻撃的な選手に目が行ってしまう私としては、そういった良さが出た試合であったことでより楽しめた。

 熊本の2点目に関しては、WBからWBでの得点で、まるで4トップになるような超攻撃的なスタイルであることは感じた。甲府にしてもボランチの二人が、まるで2列目やサイドの選手のような高い位置で攻撃に絡んで、得点まで決めて見せた。

 こういった得点の局面を切り抜いて、お互いの攻撃の良さが引き出されるまるで攻撃×攻撃の計算式が、敵と味方での計算式が行われた事で、超攻撃的な試合になった「相乗効果」と、将棋の「対局」に「対」の要素と1つ1つの局面の「局」という要素を込めた「相乗の対局」のようなとても見応えのある試合で、とても見応えのある試合でした。

 最後に、今節もとても面白い試合をダゾーン観戦できたことに感謝の気持ちを書いて終えたい。有難うございました。

文章・図=杉野 雅昭
text・figure=Masaaki Sugino

 J2の次節である第11節である本日のファジアーノ岡山vsロアッソ熊本の試合が気になる方は、プレビューの方もよろしくお願いします。



筆者紹介
 冷静さと熱さを両立した上で、自分の感じた事を自分の言葉で表現することを大事にしている。ハイライトやテキスト速報をレビューを書くために確認するが、極力SNSは、情報を遮断して、レビューを執筆している。流石に通知なので、軽く目にすることこそあるが、綿密に分析するというよりは、サッカーというスポーツの魅力を発信することを一番大事にしており、ファジアーノ岡山だけではなく、対戦クラブにも最大限のリスペクトの気持ちで、サポーターとの交流や魅力を語り合うことが好きで、レビューを書き始めて、中断期間や書けなかった試合もあるが、10年以上、ファジアーノ岡山を中心にサッカーのある生活をエンジョイしつつ、応援してきた。



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