2023ファジアーノ岡山にフォーカス47『 海から山への協奏曲~颯爽~ 』J2 第36節(H)vsジュビロ磐田
1、想いと歩みの先に〜交錯〜
2023年02月18日14:04に僕たち私たちファジアーノ岡山とジュビロ磐田の2023シーズンが始まった。
試合結果は、2-3で岡山の勝利であったが、一時期3点差開いていた試合とは思えないスコアでの決着であった。
それだけサッカーの魅力や怖さの詰まった90分間であった。岡山としては、J1昇格候補の最有力クラブの1つである磐田に対して、3得点決めることができた得点力や勝ちきることができた自分達のサッカーへの自信を深めた試合となった。
磐田としてもホームの意地、昇格候補として、1点差まで迫り、同点や逆転になっても不思議ではない所まで、岡山に肉薄することができた。そして、何より磐田ユースから昇格した生え抜きルーキーの42後藤 啓介の終了間際の2得点で、開幕でいきなり内外に多くのインパクトを残すことができた。これは、磐田と42後藤 啓介の将来にとって、大きな意味を持つ2得点でもあった。
それから両チームは、どういった歩みを進めたかは、両チームのサポーターが、よくご存知であると思うが、岡山は、引き分け地獄に陥り、負けないものの勝てないという試合が時期が続いた。ベストメンバーが揃わない中で、選手層を活かした戦い方でやりくりに苦しんだ。そんな中で、22佐野 航大のオランダ一部のクラブへの完全移籍での戦力ダウンへの不安こそあったが、エース7チアゴ・アウベスの復帰とともに、その不安を払拭する破竹の4連勝で、逆に岡山は、チームとして一つとなった。前節、アクシデントにより連勝こそ止まったが、決して悪くない状態で、自動昇格圏を目指す磐田を迎えた。
磐田もまた、序盤こそなかなか勝てない時期もあったが、地力のある磐田も徐々に順位を上げて、気がつけば自動昇格圏の2位まで、浮上していた時期もあった。しかし、試合内容こそ、良いものの1点が決めきれない試合や守備が不安定な試合もあったことで、成績上は、ここに来て連勝ができていなくて、少しブレーキがかかっているように見え、実際に3位に後退こそしたが、ゲーム内容に目を向けると、シュート数をみても内容で攻勢に出ている試合も多い。残り試合も僅かとなってきたが、その辺りをどうクリアしていくか。流石に、この時期に3位付けているチームという事もあり、チームとしての目標もクリアすべき課題の次元も高い。だからこそ、開幕戦で敗れている岡山に対して、アウェイの地で、勝利する事で、自動昇格の先の優勝も目指す。岡山の地に勝ちに来たのだ。
次に、両チームのメンバーに目を向けてみたい。
まずは、ホームの岡山は、終盤戦の鉄板のベストメンバーを揃えてきた。クラスターによる体調不良者(スタメン組:43鈴木 喜丈、5柳 育崇、41田部井 涼、48坂本 一彩とリザーブ組みの19木村 太哉))も無事に戻ってきたことで、このメンバーを組めた。ただ、公式戦が2週間空いてしまった部分と、コンディションの部分での不安も残っているが、やはり、このメンバーで、結果を残してきたのだから、このメンバーで戦うという覚悟も感じた。
対する磐田は、左SHの31古川 陽介が、リザーブに回り、DHの33ドゥドゥが左SHへと回った。そのDHには、28鹿沼 直生が入った。そして、磐田の10番である山田 大記が、スタメン復帰。代わりに、13藤川 虎太朗がリザーブメンバーへと回った。岡山には、不在の10番である山田 大記の出来は、試合を左右するかもしれない。そういった期待を抱けるメンバーである。
では、ここ5試合、4勝1敗の岡山と2勝2分1敗の勝ち越している両チームの戦いを振り返っていきたい。
2、譲れない形~主張~(前半編)
立ち上がりの岡山は、二つの差を磐田に突き付けられた。一つは、主軸選手が、公式戦を2週間空いてしまった部分とコンディションの部分である。とは言っても、上位かつ得点力のある磐田相手でなければ、気にならない僅かな隙である。両チームは、それだけ高いレベルで戦っている。
二つ目の差は、高い個の力の差である。その個の力に裏打ちされたスピード感のある磐田のサッカーは、二つの差となって、明確な両チームの差として浮き彫りとなっていた。
その結果、この試合の立ち上がりに岡山にとっては普段では、考えられないキープ・パス・ドリブルでの前進での所での連携のズレが、立ち上がりから中盤にかけて何度かあった。これは、磐田の運動量が落ちてくる時間帯と岡山が試合の中で、状態を上げてきている中で、岡山の形ができるようになってきたこと減った事からも、立ち上がりに両チームに「差」が存在していたことは明らかだ。
その磐田の狙いとして、長めのパスを多用していく中で、18ジャーメイン 良のスピードを活かす狙いと、本来では長めのパスは、通り難いが出し手の精度の技術、受け手としてトラップで収める技術、このこの力をシンプルに活かす狙いがある。厄介であるのは、浮き球とグラウンダーのパスを使い分けて、縦にパスをつけられることだ。
この結果、岡山は、磐田のパスワークによる速攻でありながらポゼッションサッカーでもあるスピード感のあるサッカーで、岡山を封殺していた。
そのため、岡山の1つ目の隙を浮き彫りにさせる磐田の高い位置からの守備が実現する。まさに前半の立ち上がりは、攻守でのスピード感のある展開で、岡山のゆっくりと着実に前進していく形を作らせず、相手陣地深くへと押し込んでいたのだ。
普段で少ない43鈴木 喜丈が何度もクリアする守備対応が増えていて、15本山 遥や17末吉 塁がゆっくりボールを保持して、スペースを作って、前進していくことが岡山は、できなかった。
こうなって来ると、活きてくるのが、磐田の両SBである。チームとして、押し込めているので、4松原 后と17鈴木 雄斗が、良い形で、攻撃に関与することで、磐田のしたい人数×クオリティの力で、得点に繋げることができるのだ。
磐田の先制点のシーンも、岡山の陣地深くとは思えない人数をかけて、岡山の前進を阻んだ上に、ボール奪取後のショートカウンターから18ジャーメイン 良が、ゴール前に潰れかけるが粘って、10山田 大記に預けると、更にゴール前へと楔のパスを入れる。これで、磐田がゴール前に岡山の選手を釘付けにすると、14松本 昌也が、左のスペースへとパスを出すと、プレスバックしてきた17末吉 塁より先に後からフリーで駆け上がって来た4松原 后が、パスの転がるポイントへ到達すると慌てて、シュートコースを消す岡山のDFやGKの守備の穴を冷静に見極めて、決めきった。
これぞ磐田という得点で先制に成功した磐田。先制した試合での磐田の勝率は、8割を越える。そのため、この先制点により、勝利が近づいたと感じた磐田サポーターも多かったかもしれない。岡山サポーターとしても、これで終わる岡山ではないと気持ちを新たに応援のボルテージが上がった方もいることだろう。
サッカーを多く応援していれば、良くあることだが、どれだけ理想的なサッカーができるチームでも90分間での時間を考えた時に、ペース配分が迫られて、選手交代を含めて、どう自分達の良さを出すのかが問われるのがサッカーの試合である。
この試合でも例外でもなく、磐田のスピード感のある攻撃こそ減らなかったが、前からの守備の回数や強度が落ちた。もしくは、そう感じられるぐらい岡山も落ち着きを取り戻し、地に足をつけて戦うことができた。
その理由として、岡山のキープ・ドリブル・パスで、着実に前進していく形を作れるようになったからである。実際に、岡山の同点ゴールもまさに岡山のやりたい攻撃の形そのもで、43鈴木 喜丈、42高橋 諒、41田部井 涼、48坂本 一彩といった左サイドの選手が複雑に動き、パスとフリーランの意図を共有して行く中で、最終的に43鈴木 喜丈が、ゴール前までフリーランで進入すると、42高橋 諒のパスがそこにでてくる。一度は、43鈴木 喜丈が収められなかったが、その先にいた48坂本 一彩が、絶妙な落としで、43鈴木 喜丈の進行方向のスペースへと出される。そこに走り込んだ43鈴木 喜丈が、冷静にGKの21三浦 龍輝の位置とCBの6伊藤 槙人の動きを見極めて、6伊藤 槙人の股を抜き、21三浦 龍輝が届かないコースへと利き足とは逆の右足で蹴る事で、流し込んで、岡山が、同点に追いついた。
両チームのスタイルの狙いとしている形で、それぞれ1点ずつ取り合った前半は、1-1で折り返すこととなる。岡山としては、自分達のサッカーを体現することで、後半組みの99ルカオや8ステファン・ムークへと繋げるか。逆に磐田としては、開幕戦2得点の42後藤 啓介の得点で、今度こそ勝利に繋げたい。そういった交代後のゲームプランが、明確に見える中で、勝利を手にしたのは、どちらであったのか。
3、信じられる力~自己表現~(後半)
後半に入ると、両チームのスタイルは、見事に体現されていた。私の磐田との試合の印象として、お互いの良さを消すのではなく、自らのスタイルを貫くことで、表現する事に主眼をおいているように感じていた。それは、この試合でも例外ではなかった。
お互いの良さを消しあう中で、1点を争う我慢が求められる試合もまた魅力だが、磐田戦のように、攻め合う心躍るサッカーもまた魅力的である。個人的には、どちらが好きかと言えば、後者の方かもしれない。だから、磐田との試合は、楽しみな試合の1つである。
ただ、どれだけ完成系に近いスタイルを体現できたとしても、勝負は芸術点ではなく、得点というスコアで競うものであり、どちらが、そのスタイルの完成度をより完成させていくかという積み重ねと、そのスタイルを体現するベストメンバーを組めるかどうかが、勝敗を左右する。
岡山は、主軸では、14田中 雄大と16河野 諒祐が怪我をしているが、木山ファジのスタイルを体現できる選手で戦えているからこそ、今の成績に繋がっている。
一方で、磐田は、やはり補強ができない中で、どうスタイル構築するかで、補強と同じぐらいのチームベースを完成させて、勝てるチームへと再生して、昇格していく事が今季のテーマであった。
残念ながらこの試合で、両チームの勝敗を分けたのは、シーズン途中に上積みができたかどうかの部分の影響があったかもしれない。もちろん、磐田サイドからすれば、そこを言い訳にしたくなく、今の戦力に自信を持っている。ただ、怪我などによる長期離脱や移籍などによるアクシデントに対して、動く事ができないのもまた事実でもある。(筆者は、岡山サポーターであるので、両チームが、ここまでどうチーム作りをしていたか、正しく認識するために、必要なことであると考えて、あえて言及させていただきました。)
岡山は、シーズン序盤に加入した99ルカオを比較的早い時間帯に交代する事で、ぐっと流れを引き込んだ。磐田は、99ルカオの強さ・速さ・高さを抑える事ができない場面もあり、磐田からは許してはいけない縦への突破や入れ替わりで前を向かれるという形を、岡山の99ルカオを中心に作れるようになった。
磐田もまた14松本 昌也に交代して入った31古川 陽介を投入する。33ドゥドゥがこの交代に伴い右サイドに移ったが、33ドゥドゥのプレー強度が高い上に巧さがあった存在感とは違い31古川 陽介の独特のリズムと切れ味鋭い一歩のドリブルとキープの前に搔き乱されて、岡山は、またしても対応に苦慮していた(90分間通して、守備対応に追われる時間が長かったことで、17末吉 塁が、前にでていく形をなかなか作る事ができなかった)。
岡山も交代カードで、より攻勢にでる19木村 太哉と8ステファン・ムークを投入することで、左IHであった41田部井 涼とFWの7チアゴ・アウベスが下がった事で、前線から中央のMFはより流動的(3-4-2-1や3-1-4-2、5バック気味)となる。
99ルカオ、19木村 太哉が、自由に動きシンプルな単独突破の形が増える中で、左右のWBのフォロー、中央でバランスをとることで、岡山の守備はより安定した。
この動きにも直ぐに手を打つ磐田。強烈なミドルや効果的な縦パスで存在感を放っていた7上原 力也の交代により33ドゥドゥを本職のボランチに移し、右サイドには、42後藤 啓介が入った。中央には、13藤川 虎太朗が、10山田 大記に代わって入る。
磐田としては、この交代で、この時間に失点してしまえば、重く圧し掛かる事となってくるために、守備を安定させた上で、42後藤 啓介を投入することで、開幕戦のような得点で、今度は、勝たせる得点を決めるというプランの実行に踏み切った。
選手の配置転換を図る事で、効果的にチームにパワーを生み出そうとした磐田と、後半に入った選手を主体にフィジカルやドリブル突破を主体にした攻撃的なカードを切り続けた岡山。
この攻勢で、この試合初めて得ることができたCKで、キッカーとして残していた44仙波 大志がキッカーとして蹴ったCKの軌道の先に、回りこんだことでフリーで合わせることができた5柳 育崇の強烈なヘッドは、流石の21三浦 龍輝も止める事ができず、岡山が、逆転に成功する。
しかし、昼の試合である上に、ここまで押し込む時間帯が長かった磐田に対しての守備対応で、タフなゲームになっていたことで、42高橋 諒が、足を痙攣してプレー続行を避けるべき状況が生まれた事で、予定より早く2高木 友也を投入し、病みあけで足を痙攣したことが何度かあった43鈴木 喜丈を下げて、23ヨルディ・バイスを投入することを決断した岡山。この交代で、岡山は交代回数及び交代選手数の上限をフルに使って、最後までやりきるだけという状態に後半の34分にはなっていた。
岡山が、追加点ではなく、前線でキープすることで、時間を稼ぐ兆候が出始めたことを察知した磐田は、50遠藤 保仁をボランチの28鹿沼 直生に代わり投入し、クロスやパス、セットプレーでの右足にかけると共に、この試合でも押し込める時間が長かった事で、やや攻め疲れの見える4松原 后に代えて、5小川 大貴を投入した(プレー強度が高く、負担も大きいはずの18ジャーメイン 良のフル出場が多い事は、杉本 健勇の移籍や他の選手のコンディション面などにより手薄である影響があり、出場状況からは磐田の厳しさを感じるが、そこを成績の面では感じさせない結果と順位の磐田。)。
時間を稼ぎ、このままクローズしたい岡山と時間が少しでも残っている内に、同点に追いつき、逆転の足掛かりを作りたい磐田の最後の戦いに投入した。
50遠藤 保仁の投入は、大正解で、磐田の最終盤の多くの決定機やシュートは50遠藤 保仁から生まれていた。もし決まっていたらという後半の磐田の最大の決定機であった18ジャーメイン 良のシュートも50遠藤 保仁の機を見た飛び出しからの神業とも言えるラストパス。これが、決まっていれば同点となり、逆転の流れもあったかもしれない。
この決定機を防いだのは、結果的に決勝点をなった得点を決めた5柳 育崇のクリアであった。前回の対戦に続き、最後の最後まで分からない試合であったが、99ルカオや19木村 太哉、8ステファン・ムークといったプレー強度が高く、キープできる選手が前にいたことで、効果的に時間を使うことができたことで、その後の反撃を凌いで、岡山が、なんとか逃げ切った。
この結果により岡山が、記録上は2勝しているが、磐田サイドからすれば、どちらとも勝ち点獲得に限りなく近づいた試合であり、負けたというイメージはあまり抱いていないかもしれない。
岡山が、終盤戦に多くの上位チームに勝つことができているのは、開幕前の補強や99ルカオと17末吉 塁のシーズン途中での補強があったからである。もし、この補強がなければ、岡山は、ここまでの戦いを開幕戦で、そして、この試合のように戦いきることができなかったはずだ。
その差をほとんど感じさせなかった磐田の強さやスタイルの完成度を考えると、補強ができなかった今季でもJ1の自動昇格や優勝を狙える磐田が、チームの上積みができる来季の展望は、非常に明るくなってくる。問題は、そこが、「J1」か「J2」かという事である。
両チームともに「J1」を目指す以上、リーグ戦では対戦を終えたが、もう一度戦う可能性(両チームともプレーオフに進出して対戦する可能性)も残されているが、磐田としては、自動昇格を決めたいはずだ。
岡山にとっては、夢の舞台のために、プレーオフ進出の実現と、そこを勝ち抜くための戦い。磐田にとっては、そこを避ける展開(自動昇格)に持ち込むことで、いるべき場所への帰還を目指す戦いが、両チームに、残り6試合も待っている。
両チームにできることは勝ち続けることだ。願わくは、次回の対戦の舞台が、J1であって欲しいと切に願うばかりである。
4、サックスブルーと共に~浜松の風~(磐田編)
私の抱く磐田のイメージは、優しいイメージだ。サッカーは、勝負事なので、熱くなる部分があるが、磐田のイメージは、クールである。それは冷たいクールではなく、優しさのあるクールさである。このイメージは、サッカースタイルについても通ずる部分がある。
既に、この部分については、語って来た部分もあるが、磐田との対戦のヨーロッパの試合のような柔らかさと美しさがある。それは、手の届かない高貴なものではなく、日常の中の青空の中で吹く、心地よい浜松の風のような美しさである。
サックスブルー。それは、もしかすると海から吹く風の色なのかもしれない。
では、このサックスブルーをクラブカラーとする磐田のスタイルに、筆者が、どういった印象を抱いたのか。これから語っていきたい。
一番は、基礎技術の高さをスピード感のあるサッカーへの体現に全振りしているのが、今のスタイルへの大まかなイメージである。
通常であれば、浮き球のパスで、比較的長いパスやグラウンダーのパスが多くなれば、それに伴って、ボールロストが多くなるはずで、セカンドボールを巡る回収で、デュエルが多くなるが、磐田のサッカーは、相手チームのクリアすらも磐田の選手へのパスへと変えてしまうこともできる。
これは、精度の高いパスと浮き球とグラウンダーのパス問わず、速くて正確なパスを出せる事で、簡単にクリアされてしまうことを許さず、対戦チームのクリアに、対戦チームの選手のメッセージ、魂を吹きこませない事で、味方の下へと引き込む確率を高めることができている。
もちろん、それでも回収できない事もあるが、人数をかけた守備で、囲い込むことで、相手のボールにさせる所か、ショートカウンターに移行し、2次3次攻撃と、分厚い攻撃へと繋げることができる。
岡山が、いくら不安要素があったとはいえ、ポゼッションが武器のチームに対して、前半にパス数で上回れる試合があるほど、この試合のスタメンのメンバーの安定感があったののにも関わらず、磐田に対しては、これだけバタバタした。
岡山のホームであるが、立ち上がりは、まさにジュビロ磐田のホームタウンに浜松市が加わったことで名実共に、ジュビロの風となった「浜松の風」という勢いが磐田にあった。
ロングパスやミドルパスの選択の比重が高いながらポゼッション色を失わず、主体的に攻める力。これは、J2の中でもトップクラスで、磐田のみの唯一無二の武器と言っても過言ではない。それこそショートパスと錯覚してしまうぐらいである。
それだけではなく、その迅速さが際立つスピード感のある攻撃スタイルでも前線の人数が足りないどころか、むしろ人数が多いぐらいである。その分、後方は、時には2バックになる時間帯があるぐらい左右のSBも積極的に上がる。時には、失点を重ねてしまう試合もあることはあるが、36リカルド・グラッサのプレーは、まさにそういった超攻撃的なサッカーである磐田の中での耀く、適任の中の適任である。
この日の36リカルド・グラッサは、7チアゴ・アウベスを抑えただけではなく、99ルカオや19木村 太哉の2人を抑えたプレーは、驚くべきプレーであった。かと言って守備だけの人ではなく、2得点2アシストと攻撃への貢献度も高い。
そして、高い位置に運んでからの攻撃もまた磐田の真骨頂だ。ロングパスやミドルパスに手段に依存しているのではなく、そのパスで得点に繋げる自信があるからこそ、その選択をしているのであって、磐田の選手にとっては、ショートパスの感覚で、そのパスを出しているようにも映った。
更に、この時期に3位につけているチームという事もあり、そのイメージを「選手間」ではなく、「チーム間」で、しっかり共有できている。ゴール前の崩しのアイデアもあり、意外性もあった。そこにSBまでも加わった攻撃により、フリーの選手やフリーの空間を見つけ出して、そこで決めきるこの試合の先制ゴールのような得点が多い事は、SBの成績という結果だけからではなく、磐田のスタイルからも感じ取ることができた。
そういったコンセプトの攻撃だからこそ、後方や外から来るSBがフリーとなり易く、そこからの決定的なクロスやパスでのアシストやそのままシュートにいく事で、得点も決める事ができるのだ。
磐田と再び対戦してみて、このチームがなぜこれだけ得点できて、3位につけることができているのか。それを肌で感じる事ができた試合となった。
磐田についての言及については、この次から語る最後の磐田スタイルをまとめることで〆て、5章で、岡山について語って、この試合のレビューの〆に入っていきたい。
磐田のサッカーは、守備では、必要最低限の人数で、個の力で抑えることをコンセプトしていて、その分、攻撃では、高速で前進する術(主に多彩なパス)を個の力で安定的に体現し、チームとして前進して行く中で、後方の選手も次の選手、また次の選手と、続々とフォローにやってくることで、途切れない攻撃を仕掛ける。その結果、フリーの選手を作り出して決めることができる。そして、攻撃が巧くいかなかった時も高い位置で囲い込んで奪いきって、2時3次攻撃へと繋げる。相手陣地で攻守で完結させることで、内容だけではなく、スコアでも押し込んで勝ち切る「高守専攻のサッカー(高い位置で守備できる状況を意図的に作りだし、攻撃に集中できるサッカー)」である。
こうして特徴を文章だけみてみると、泥臭い印象を持ちそうな部分もあるが、実際に目にした時は、サックスブルーという響きのように、美しい音色と攻撃と守備がリンクしていることで、奏でられるハーモニー。まるで協奏曲のようであった。
ジュビロ磐田は、サックスブルーと共に浜松の風を吹き、協奏曲を奏でる。
5、謙虚にそして力強く~未知の扉~(岡山編)
岡山にとって、磐田戦は、まさに未知の戦いであった。今のスタイルとなって、これだけ奇麗に崩されて、攻撃を抑えられて、無力化したことがあっただろうか?
正直なところ、失点した時に、負けを覚悟した部分と、現実の厳しさを突き付けられた気持ちにもなった。もちろん、根底として諦めていた訳では無いが、そういった気持ちの割合が、心の中の気持ちの比率が高くなってしまった。
ただ、昇格するためには、その気持ちを覆す、気持ちの強さは、必要不可欠である。今の岡山には、J1の未知の力を突き破れる可能性もあるかもしれない。
自分達のサッカーを信じて、愚直にやり続けられる逞しさが今の岡山にはある。我慢して戦うことで、先制されても逆転できる事を証明した。岡山は、36節にして、今季初めての逆転勝利であった。
7チアゴ・アウベスが得点から遠のいている部分こそあるが、チームとして7チアゴ・アウベスを意識して観ることが、共通意識となりつつあり、オフサイドの回数も増えてきた。そして、7チアゴ・アウベスが、ジェスチャーでパスが欲しかったという回数も目に見えて減って来た。逆に、シュートを決めきれなくて、ラインの駆け引きを巧くできてなくて、自身のプレーに対して悔しがる回数の方が多くなってきているぐらいだ。
ただ、チームとして7チアゴ・アウベスの得点を軸に考えていたとしても周りの選手が如何に得点を決める事ができるか?特に48坂本 一彩に対しては、その部分への期待も大きい。惜しいシーンを多く作れているだけに、そこでどう決めきれるか。この試合でもあった決定機をきめることができていれば、気持ち的にもう少し楽に戦えたかもしれない。
チームとしてのスタイルに確かな自信と手応えがある中で、日替わりで、ヒーローが誕生する。いえ、多くの選手が、チーム単位で、高いパフォーマンスもみせることができている。残り試合6試合となった中で、もしプレーオフに進出できれば、この好調のまま突入できるかもしれない。
そういった状況で迎える千葉戦。千葉も6連勝中で、岡山は、17末吉 塁と18櫻川 ソロモンが、出場することができない。そういった状況下で、不動の右WBとなった17末吉 塁の穴をどう埋めて行くのか。
プレーオフに進出した場合も対戦する可能性もある中で、残り試合も少ない中で、この試合をどう戦うのかというのは、チームとして、プレーオフに進出するためだけではなく、プレーオフで対戦する事になった時にも、とても重要な一戦であることは間違いない。
後半組の99ルカオ自身の得点にはあまり期待できない中で、99ルカオの突破からセットプレーやチャンスから得点できそうなシーンも増えてきていて、得点に繋がるシーンも増えて来た。23ヨルディ・バイスも、この試合では、勝負所での跳ね返す守備が光り、スタメンとリザーブ共に、チームとしての充実を恐らく、練習から作る事ができているチームの雰囲気や状態の良さを感じることができる試合が出来ている今の岡山。
そして、チームとして、このメンバーを軸に1点でも得点を多く、1点でも失点を少なくという微修正や上積みしていることは、どの対戦チームにも岡山のサッカーを体現できるようになってきているからも明らかだ。
この磐田戦で、先制点を決められても逆転できた実績ができたように、〇〇されてもという条件で、どれだけ勝てるチームになれるか。そこが、残り試合で問われる。残り試合に目を向けると、次節の上位の千葉、群馬を終えると、昨季終盤に敗れたチームを含めて、残留を決めたいチームもある中で、どう勝ち切るか。〇〇されてもという状況になってもしっかり勝ち切って、内容の伴った確かな自信を深め、Jリーグの「頂」のリーグである「J1」へと望みを繋ぎ、今度こそ挑戦権を手にできると信じて、私も皆さんと共に最後まで応援をやり遂げたい。
文章・画像・図=杉野 雅昭
text・photo・figure=Masaaki Sugino
6、アディショナルタイム~海と山~
岡山もまた瀬戸内海の風を受けて、日々戦っている。J1のクラブは、都心部のクラブが多い中で、岡山もJ1に昇格することで、地方クラブの奇跡を夢見て、応援を続けて行きたい。
・アンケート
2023 J2 第36節(H)vsジュビロ磐田
【 岡山のMOMは? 】
・今節のフーズ
お手軽価額という事で、控え目な量だが、肉の味がしっかりしていて、とても美味しかった。
・写真紹介
今季は、こういった記録を達成した選手が多い、こういった実績のある選手、経験を積んだ選手の力を一つとして、クラブとしても新たな記録を作るシーズンへとなって欲しい。
チームとして、残されたホームの試合は、少ないが、勝ち続ける事で、更なる支援と観客の力で、悲願のJ1昇格という夢を達成して欲しい。
とても分かり易い解説で、声も柔らかく、とても聞きやすい。解説されている話やトークショーを拝聴する中で、好きになった解説者の一人かもしれない。また、別の試合で岡山戦の解説することがあれば、楽しみです。
・公式コメント紹介
FWと心理が良く分かる磐田のジャーメイン 良のコメントであると感じました。確かに、絶対防ぐことのできないノーチャンスのエクセレントなゴールがある中で、どうして、それが決まってしまうのかという得点もあれば、どうしてそれで決めることができないのかというシーンもある。
今のJ2リーグは、そういった運で勝敗が左右することが多く、昨季は、J2の甲府が、天皇杯を制して、今季も熊本がベスト4へと進出している。こんいったジャイアントキリングが、生まれやすいスポーツであることを考えても、「運」と「サッカー」は、切り離せないスポーツであると感じる。特に、「ストライカー」に関しては、その部分は、特に強いと感じられた。
横内 昭展 監督の「今までシンプルにプレーしていた」という表現が、磐田の強さの秘密であり、一つ一つのプレーの成功率が高く、簡単にしているように見せる事で、シンプルなプレーを繰り返していると表現できる。これが、連動する事で、磐田らしいスピード感のある攻撃ができて、持続的かつ流動的な攻撃ができる。
ここで時間がかかるようになってしまったのは、岡山が、持てる時間ができるようになってきた部分と、磐田の即時奪回の動きがやや鈍くなってきた部分は、少なからずあったのだと思いますが、試合は、90分間あるので、こういった時間にどう戦えるかは、チーム問わず、問われていくことなのだと感じました。
木山 隆之 監督が、メンバーを最後の最後まで悩んだという部分が、個人的に、気になりました。これが、スタメンメンバーではなく、ゲームプランという観点で、リザーブメンバーを迷ったのであれば、この路線を継続していくのだと思いますが、これが、スタメンのメンバーをコンディション面以外で、迷っていたのであれば、木山 隆之 監督の中で、改善したい点、修正したい点、もしくは、対磐田を意識した構想があったこととなる。千葉戦では、17末吉 塁と18櫻川 ソロモンがでれないので、その辺りが、一端が見えるかもしれない。
木山 隆之 監督の感じた「相手の圧力」は「浜松の風」と私が、表現した部分です。試合を通して、この風、磐田の勢いは凄い試合でしたが、岡山も突き進む選手がいたことで、CKを得て、なんとか勝つことができた厳しい試合であったことを、改めて、木山 隆之 監督のコメントから感じました。
3バックの目指すところで、左右のCBの攻撃参加は、必要不可欠であると感じています。そういった意味で、右の15本山 遥を含めて、着実に前進することができる力を持っている両選手の存在は、まさに岡山のサッカーを支えている一人だと感じます。
そして、43鈴木 喜丈の守備の貢献だけではなく、勝利に繋げる事ができる得点力は、間違いなく大きな武器で、セットプレーでの得点だけではなく、流れの中での得点が増えてくれば、選手も手応えを感じる得点になると思いますし、残り試合でのチームの勢いに繋がると思います。
攻撃は、記録に残るので、その過程での意志共有ができたことが良く分かることが多いですが、このシーンでは、守備でもチームの中で選手間で、守備の意図を共有できたことで防げたクリアであったことが良く分かります。
ただ、18ジャーメイン 良が、決めれるかどうかは、運もあると話していた通り、毎回このシーンのように意図を共有できるわけではないのもまた事実であると思います。だからこそ、練習からお互いのコミュニケーションが重要で、この辺り、岡山も磐田もチームとして、意志共有することができている事が良く分かるプレーが多かった試合でした。
岡山に関しては、この部分で難しい時期もあって、木山 隆之 監督もベンチに入る事を禁止されることになってしまった事もありましたが、両チームとも苦しみながら1つとなった。そういった事を感じられる両チームのサッカーであり、ハイレベルな戦いであったと感じました。
・ファジ造語
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