見出し画像

2021ファジアーノ岡山にフォーカス31 J2:第27節:ギラヴァンツ北九州vsファジアーノ岡山(Away) 「個から連動した組織へ」

1、 前置き

 19ミッチェル・デューク加入後に、今まで以上に安定感が出てきた岡山。マークや対策が進む中でも、依然として高い存在感を発揮している。ただ、オーストラリアのA代表に選ばれた事で、チームを離脱することとなる。この試合を最後に、しばらくチームを離れる事になるが、19ミッチェル・デュークのピッチにプレーしている時のサッカーと、不在時にどういったサッカーを展開していくのかは、来季を見据えた上での試金石となる。

 その中で、19ミッチェル・デュークがプレーしたこの北九州戦は、0-0であったが、岡山がしたいサッカー自体は出来ていたので、その点を整理しつつ、岡山というチームの良い時と悪い時の見方と、2チームを作るイメージでのチーム作り進めて行く事の必要性、それが問われるここからの数試合。38ブレネー・マルロス選手の実践デビューのタイミングについて、北九州戦を振り返りつつ触れて行きたい。

2、 外から内に行く北九州

メンバー:2021ファジアーノ岡山「第27節vs北九州(Away)」

「ファジアーノ岡山」
・好調の1トップ気味の4-4-2の継続。
・同じくスタメンメンバーも継続。
・リザーブメンバーも珍しく変更なし。
・5井上と7白井の全試合フル出場継続。
「ギラヴァンツ北九州」
・バランスを意識し、4-4-2システムを採用。
・今節から18富山、17針谷、32永田がスタメンに変更。
・今節から19平山と11永野がリザーブに変更。
・5村松と10高橋の全試合フル出場継続。

 北九州は、ここ得点ができている反面、失点が多くなっていたが、カウンターを受け易い中央からの崩しを意識している以上、ある程度仕方ない部分はある。北九州の個の力というのは、局面において発揮する場面があったが、チームとして連動した形というのは、なかなか出来ていなかった。これは、北九州の攻撃が悪かったというよりは、岡山の守備が良かった側面もある。

 北九州としては、最初から中央に付けて崩していくというのが、理想ではあったと思うが、北九州の組み立ての時に、岡山によって、前の19ミッチェル・デュークと14上門 知樹の2人から睨みを効かされていた事で、どうしても外を経由する事が多くなってしまう。岡山のファンタジスタシステムと、ミッチェルプレスを巧く融合して、バランスをとった守備の仕方を敷かれた事で、北九州としては、攻撃の良さを封じられる形となっていた。

 やはり、中央からの崩しが得意なチームが、外から組み立てて行くという事は、シュートまで行くというのは、どうしても遅くなってしまう。試合を通して、なかなか決定機を作れなかった。もっと言うと、シュート数でも岡山と大きく差が開いてしまっていたのは、その辺りにある。ただ、残留争いの真っただ中にいる北九州としては、無理をして、勝ち点1も取りこぼすというのは避けたいので、リスクを嫌い攻撃的に行く選択肢を避けた側面もある。

 もちろん、強引に中央に、パスを集めて岡山の守備に真っ向勝負するという選択肢もあったが、攻撃的MFである39椿 直起の肉離れによる離脱により、攻撃的なカードが一枚少なくなっている事を鑑みて、バランスを重視した戦い方を採用した。これにより、攻め合いというよりは、膠着した戦いになると思われたが、19ミッチェル・デュークの加入した岡山の攻撃は多彩であった。

 ただ、北九州としてもバランスを意識するという事は、守備への意識も高いことでもあり、ある程度、守勢であっても手応えを感じていた部分はあった筈である。シュート数を競う競技ではなく、得点数を競う競技であるので、無失点で推移している以上、高い士気を持って戦えていた。かといって岡山にも焦りはなく、スコアはなかなか動かなかった。

 北九州もクロスと中へのパスを入れて、パスやドリブルで崩す形の選択も良く、形を作っていた。岡山によって、自分達のサッカーからは少し離れたが、勝ち点3を狙える内容であり、岡山の守備が一歩遅れて、シュートコースが空く事や、集中力を欠き、フリーの選手が北九州に出ていれば、北九州が1チャンス決めて、そのまま守備を固めて逃げ切るという展開もありえた。そういった意味では、引き分けであるが、ある程度主張が通った戦いかできたというのが、北九州の立場であるだろう。

「北九州のサッカー」
・4-4-2で、全体のバランスを意識し、安定した守備を構築。
・中央を固める岡山の守備の密集地をさけて、サイド主体の攻め。
・サイド攻撃からのクロスと、中央攻撃の機会も窺う攻撃スタイル。
・粘り強く人数をかけて守る中で、最後まで1チャンスを狙う。

3、 内から外に行く岡山

 北九州がサイドを経由する攻撃を選択する事が多かったという話をしたが、岡山は、中央を使う攻撃ができていた。北九州の外からの攻撃に対して、中央での奪取力の高さが、岡山にあったというのもあるが、19ミッチェル・デュークの存在も大きかった。彼をターゲットに一本の縦パスを通す事ができれば、そこからの攻撃にスムーズに移行できた。

 中央で、攻め切るのではなく、DFが対応するために集まってきたところで、外を活用。集中と展開を素早く行う事で、有効なサイド攻撃を岡山は、何度も魅せる事ができた。しかし、北九州の守備意識は勿論、攻守の入れ替えの意識も非常に高く、スペースが空くという事は、90分間通して、ほぼなかった。正確には、あと一歩の所で、フリーというシーンや遠目に選手がいて少し影響のあるシーンは何度もあったが、完全フリーというシーンは最終的にはなかった。

 それでも、守備意識が高い相手に、しっかり崩せそうな形を作ったシーンもあり、岡山の着実な進化を感じた。19ミッチェル・デュークに入った後の攻撃の発展性の多彩さにより、中央攻撃、サイド攻撃、カウンター攻撃の3種を状況に応じて使い分ける事ができる。相手にしたいサッカーをさせないという事ができるという点で、再開後に岡山の4試合負けなしという結果に繋げる事ができている。

 また、この試合での中央での奪取力の高さで際立ったのが26パウリーニョの存在である。運動量とスピード感のある奪取からのショートカウンターは、迫力があり、北九州にパスを奪われる恐怖を受け付けるだけのインパクトを与えたことは間違いない。6喜山 康平と26パウリーニョのボランチの存在感もさることながら、41徳元 悠平や7白井 永地も本職がそれぞれ、SBとDH(CH)という事もあり、守備が巧い。

 岡山は、中盤から前線まで守備が巧い上に、ハードワークできる選手を多数そろえる事で、堅守を構築できている。単純に走れているとか、サボらないとか、人数をかけて守っているといった理由だけではなく、守備適性の高い選手を揃えている事で、岡山が堅固な守備組織を構築できているのが良く分かる。

 加えて、守備陣には、足下の巧い攻撃的な選手を揃える事で、自陣でのボールロストの可能性を極限まで小さくするサッカーを展開している。自陣でのボール奪取後に安易なボールロストすることなく、技術を活かして、前に運ぶ力と、前から奪ってショートカウンターを仕掛ける力。それが、今の岡山の一番の武器と言える。

 つまり、岡山は、相手陣地では、対戦チームにリスクの大きい選択をさせるように迫りつつも、岡山の自陣では、極力リスクの小さい選択をするようなチーム作りがなされているということである。ただ、やはりというかその結果として、得点が少なくなっているというのが、現実的な問題として、岡山が上位に顔を出しきれない原因ともなっている。

 実際に、この試合でもあと一歩の所で得点を奪えず、シュートを多く打ちながら「まさか」ではなく、「またもや」スコアレスドローという結果に終わってしまった。ただ、中断前と違い我慢して、1チャンスを狙うというサッカーではなく、ある程度主体的に攻めての引き分けである。後は、上位に対しても自分達のサッカーを展開できるか。それとも大宮戦のように苦しい試合となるのか、上位との対戦が非常に楽しみである。

「岡山のサッカー」
・相手の中央攻撃を制限し、サイドに誘導する組織的守備を構築。
・19ミッチェルを軸に中央&サイド&カウンターの多彩な攻撃パターン。
・前の選手の高い奪取力で、相手チームにリスクのある選択を迫る。
・自陣では、基礎技術と機動力を活かし、リスクの小さいプレーを選択。

4、 依存か共栄か

 試合後に、小林 伸二監督が、岡山が丁寧にサッカーをやろうとしていたので、助かったという趣旨のコメントをDAZNの試合後のインタビューで、残していた。ここに、岡山が今後戦う上での1つのヒントがあると言える。具体的には、どういった部分が当て嵌まるのか。それは、19ミッチェル・デューク加入前の岡山のサッカーの強みを考えると分かり易いかもしれない。

 例えば、この試合での14上門 知樹がドリブルで仕掛けて中に入っていくというシーンが何度かあったが、以前であれば、シュートコースがあれば、思い切りよく遠目からでも打つシーンが何度かあった筈である。しかし、最近のドリブルは、深く侵入するパターンが多く、自ら決めるというよりは、19ミッチェル・デュークにパスを出すという事に意識が強くなっている傾向にある。

 実際にそれで、攻撃の形ができていて、岡山が主導権を握る事ができているが、それによって、持ち味を出せなくなってしまっては、意味がない。特に、14上門 知樹のミドルシュート数が明らかに少なくなっているという点は、気になっている。これは、ドリブル後の選択肢が、クロスやラストパスを選ぶウェイトが高くなっているからである。

 ただ、全てが悪い訳では無いので、基本はシュートコースを作るというドリブルの意識で、コースを作れない時に、次の選択肢を考えるという優先度の判断を微調整するという事で良いが、これが難しいのも事実。同じ形の再現性の難しい競技である以上、その時の選手の判断やプレーの質が、試合を左右するという競技だけに、ここが良くなければ劇的に良くなることも、逆に悪くなることもあるスポーツが、サッカーである。

 恐らく19ミッチェル・デュークと対極にあると思われる38ブレネー・マルロスをどうチームに組み込んで来るのか。チームでというよりは、ブラジル国籍の選手らしく、個で勝負する選手ではないかと期待しているが、なかなかデビューが出来ないことを考えると、19ミッチェル・デューク程のスペシャルな選手ではないだろう。ただ、彼が入る事で、より個で勝負する意識が出てくる事も期待したい。

 現状、チームとして、一体となって組織的に戦えている中で、組織的に守るチームや人数をかけて守るチーム、個で守るチーム。そういった守備を如何に打ち破るのか。正解こそないが、岡山には、組織的に戦える一体感と、個でも勝負できる選手も数人を擁するチームとなった。個を活かすために組織があり、組織を意識過ぎると、個が薄くなってしまう。

 これは、サッカーに限ったことではないが、岡山というチームは、1点差の試合が多い様に、このギリギリの境界線でのバランスを巧く保ちつつ戦えるチームであり、19ミッチェル・デュークの加入で、よりバランスがとれるチームとなって事で、成績も安定してきた。不在時にどういったサッカーになるのか、38ブレネー・マルロスのデビューの可能性を含めて注目したい。

「19ミッチェルの加入効果と課題」
・19ミッチェル1人で攻撃の形ができるため個で勝負する意識の低下。
・微調整が進む中で、意識や連係の擦り合わせが毎試合行われている。
・まだ出場機会のない38ブレネーの個で勝負する意識に期待しての待望論。
・組織と個のバランスと相乗効果で安定した成績も不在時の不安。

5、 後書き(A代表の敗戦から学ぶ)

 森保 一監督は、良くも悪くもモチベーター的な監督である。五輪の前田 大然と先日のアジア最終予選の初戦での古橋 亨梧の左SHでの起用に既視感を感じた。イメージ的には、3バックのシャドーのような意図で起用していると思われるが、シャドーではなく左SHという事で、プレー内容が根本的に違う。これを巧く細かいポジショニングなどの指示で、持ち味を活かせていれば良いが、それもできていない。

 選手のコンディション管理を含めて、ベストメンバーを招集できておらず、メンバー選考段階での現会長が重視しているコミュニケーションによる意志疎通によって、合理的なメンバー選考の結論に導くことができたかどうかも怪しく、試合内容もお粗末であったが、酒井 宏樹の離脱を見ても、本来であればA代表は、現段階での日本代表のネームバリューや、個の力だけではなく、メンバーのバランスやコンディションを含め、戦術的に思考を巡らせた上で、ベストメンバーを呼ぶという基本原則ができていない。

 代表でのパフォーマンスが安定しない上に、戦術浸透などで大きな伸びが期待するのは酷と言える広島の佐々木 翔を呼び続けるのも良く分からない。五輪のメンバーが増えた際も、調整が難しかったのもあるかもしれないが、そのままのメンバーで戦った結果、出場機会に偏りがあっただけではなく、FWに関しては、本来ならメンバーとして選べないFWの林 大地が、一番出場機会が多かったという謎の采配。

 こういった噛み合わない組織のA代表や五輪を任された森保 一監督の一連の監督としての選択を見ていると、如何に「普通」という当たり前の判断をするのかというのが難しいかを感じる。五輪でのベスト4自体も悪くない結果で、広島の監督時代に指揮して戦ったクラブワールドカップでも3位という結果を残している。実績だけみれば、日本屈指の監督に何が起きているのか。人間は一度迷うと、なかなか冷静さを取り戻すのは難しい。

 ハリル氏は、異国の地である日本代表の監督としてその手腕を存分に発揮して、ロシアW杯の出場権を勝ち取る事に成功したが、その傍で、サポートしていた協会スタッフを現会長が、権力の地盤の強化のために、自らの考えに近い人を迎い入れる一方で、会長職のライバルであり、ハリル氏の招聘に関わりサポートしていた原 博実氏に投票で勝利すると共闘する意志を示さなかった現会長。

 原 博実氏と霜田 正浩氏の2人が、最終的に協会を去ったのは2人の意志ではあると思うが、ハリル氏をサポートする重要な役割に担った2人を失った事で、我の強いハリル氏はより孤立する事となった。ハリル氏と向き合う意志が会長にあれば、この2人を慰留し、選手との関係を取り持てた筈だが、それをせず、曖昧な理由で、W杯直前での解任に漕ぎ告げた現会長。

 しかし、ロシアW杯では、事前情報がなかった事で、逆に功を奏し、ベスト8という結果に繋げた。ただ、結果的に、本来の日本の実力が隠れてしまう事になった事で、日本の現在地を測ることができず、ロシアW杯を終えてしまった。これを日本の実力だと、誤った認識が協会に広がった事で、オマーン戦に完敗するという酷い結果に繋がったのではないだろうか。

 こうして考えて見ると、森保 一監督に対しても十分なサポーター体勢が、会長を中心に構築できているかも怪しい。そういった意味で、考えたくもないが、W杯の出場権を逃すという結果に至った時に、会長がどう責任をとるのか、個人的には注目している。そういった考えたくもない現実味を帯びるだけの内容の敗戦であった。

 ハリル氏も初戦こそ負けたが、そこから立て直しロシアW杯の出場権を掴んだが、森保 一監督に、そういった立て直しができる確かなビジョンと逆境に打ち勝つ信念があるかどうか。それを持って今後の試合を戦うことができれば、アジア屈指のタレントを巧く活かして、出場権を掴む事が可能である。そうあって欲しいと心より願っているし、そう信じたい。

 そうしたA代表のトップを見ていた時に、Jリーグのクラブチームのチーム作りの巧さというのは、時には、突っ込みどころがない完璧なチーム作りをするチームが出てきて、舌を巻くところがある。逆に、上手く機能せず、苦しんでいるクラブもあるが、それを含め、選手や監督というチームという組織だけではなく、強化部・フロント・スポンサー・サポーターという「○○(クラブ名)ファミリー」という組織での対抗戦というのが、Jリーグであると感じる。

 ファジアーノファミリーが、J2で、他チームを上回り、J1に到達できるのか。試合の結果だけではなく、内容。また、そこに至る強化を含めたチーム作りについても今後も触れていく事で、チームとしての課題や収穫を、整理し文章化し、それを読んで頂くことで、共有していく中で、よりJリーグを深く楽しむことができると嬉しく思います。

 少し後半は、まとめるのが難しい部分があって、読むのに疲れる内容になった部分があって申し訳ないですが、私も少しでもいい内容に出来る様にサッカーを深く冷静に見て行くことで、皆さんと一緒に岡山を中心にサッカーを楽しみ、TwitterでイイネやRT、noteで「すき」をして下さるだけではなく、今後も反論意見や間違いの指摘をして下さる、皆さんの声を真摯に受け止めつつ、内容に反映できればと思っています。いつも最後まで読んで下さり有難うございます。今後とも、よろしくお願いいたします。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

ファジ造語

「ファンタジスタシステム」
2トップに技術のある選手を据えて、中央にポジションをとる。中央を通そうとするパスコースを制限し、サイドへ出した所を狙う。そこを突破された後も、粘り強く守り、ボールを奪ったら2トップにボールを集め、技術のある選手が攻撃に移った時に、2トップの傍にいき、技術と創造性を活かして、ゴールに迫るやや攻撃よりの作戦。
「ミッチェルプレス」
速さ・高さ・強さ・巧さ・持続力によって、19ミッチェル・デュークがプレスを繰り返して行く中で、攻撃的なMFが追随する中で、相手のパス回しの自由を大きく制限する。また、後方の選手もハイライン、中盤もコンパクトに保つ事で、高い奪取力を発揮する。ただ、チームとしての消耗も大きく、19ミッチェル・デュークの1トップ時しかできない作戦。
「勝利の方程式」
リードした場面で、4バックから3バックにシステム変更し、重心を完全に後ろに置く分けではなく、中間に位置をとり、遊撃に専念しつつ、カウンターにより追加点を狙う。スペースを空けずに、岡山の守備時の集中力や献身性を活かし、守備にハードワークし、攻め手側のミスを誘発させて、時間を稼ぐことで、同点や逆転のリスクを小さくし、逃げ切る作戦。

関連記事
2021ファジにデータでフォーカス21
「有馬ファジ戦術の縮図」2021 J2第27節 北九州 0-0 岡山 レビュー
URL:https://sporteria.jp/blog/sugi8823/6840007272630849537
は、こちら(別サイト:SPORTERIA)。

ここから先は

0字

¥ 150

自分の感じた事を大事にしつつ、サッカーを中心に記事を投稿しています。今後とも、よろしくお願いいたします。