st@公衆衛生・疫学某所

医師、公衆衛生修士。臨床・疫学研究に従事。 疫学、新型コロナウイルス対策について気にな…

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医師、公衆衛生修士。臨床・疫学研究に従事。 疫学、新型コロナウイルス対策について気になった話題などをまとめていきたいと思っています。 いつまで続けるかはわかりません。

最近の記事

「イベルメクチンの COVID-19 臨床試験成績のメタ分析に関する一考察」の考察

以前に↓の記事でその手法のおかしさについて解説したメタ解析サイトを、「最も情報量が多く、選択によるバイアスが掛かっておらず公正であると 考えられる」と紹介している論考を発見した。北里大学大村智記念研究所 客員教授 八木澤氏によるものである。 どのような論拠を基にしているのか、詳述してあり有り難いが、同意できない点が複数あるため、以下に述べる。 まず、このサイトは適宜改訂されているので、(行われている解析はともかく)どのような研究が現在までに行われているのかを概観するのには

    • 複数のPCR検査の感度が独立ではないことを説明してみる

      この話が最も話題になっていた頃は私はツイッターアカウントを持たず、たまに見ているだけであったが、議論を興味深く見ていた。ちょうど前回の記事で検査について書いたので、複数のPCR検査の感度が独立でないことの説明を試みてみる。 もともとの主張は概ね以下のようなものだと思う(数値に違いがあるかもしれないが、数値の違いは概念には影響はない) 仮に鼻腔スワブによるPCRの感度が70%、唾液PCRの感度が70%であるとすると、2回とも偽陰性の確率=0.3×0.3=0.09 よって少な

      • 感染性のある者を発見するPCRの感度は100%論のおかしい点

        リアルタイムの感染性をみるのにはPCRの感度が100%だという論をしばしばみる。最近では岩波科学に掲載された「「宮古島市におけるスクリーニングPCRの疫学的推定」に対する検証」という論文で PCR陰性となったにもかかわらず、検査時点の感染性が高いケースは稀であるとみるべきである。すなわち、感染性をみる場合には、上気道検体を用いたPCR検査の感度はほぼ100%となる。(中略)リアルタイムの感染性を評価する場合には偽陰性率もほぼゼロになる。 さらに、 防疫上は検査時点で感染

        • ワクチン接種者で感染者数が多い?‐解釈の注意点

          イスラエルでワクチン接種済みの感染者数の方が、未接種者よりも多いためワクチン接種によりリスクが上昇するという説を見かけた。このような粗い分析のデータの解釈には注意が必要である。 ①分母を考慮する ②比べる集団の属性を一致させる ①分母を考慮する まず、すでに話題となっていたが、接種率が高ければ感染者に占める既接種者の割合が高くなる。単純な例として仮に全人口が接種していたらすべての感染者は既接種者になる。 ではここで実際に感染者数における既接種者、未接種者の比を基にワク

        「イベルメクチンの COVID-19 臨床試験成績のメタ分析に関する一考察」の考察

          イベルメクチンのメタ解析サイトに要注意②RCTについて

          前回の記事でhttps://ivmmeta.com/のメタ解析の問題点について、観察研究とRCTを統合していることなどの問題点を述べた。しかし、24個のRCTのメタ解析(下図)が有効性を示しているという反論が予想される。以下、この解析の問題点を述べる。 メタ解析の問題についてまずメタ解析自体の問題については前回と共通している。 ①死亡、入院、症状改善、ウイルス量低下などの異なるアウトカムをまとめてメタ解析しており不適切。 ②バイアスのリスクが評価されていない(以下に具体

          イベルメクチンのメタ解析サイトに要注意②RCTについて

          イベルメクチンのメタ解析サイトに要注意①

          イベルメクチンに関する研究を集めたメタ解析のサイトが広まっている。リンクを載せることに抵抗があるがどうせ巷に広がっているので載せることにする。https://ivmmeta.com/ 画像も拡散されていて、イベルメクチン承認を推す根拠として提示されることが多いが、以下に述べるように問題点が多い。 ①異なる研究デザインの結果を統合 メタ解析とは複数の研究を統合する手法であるが、なんでも統合してよいわけではない。ある程度「似ている」研究同士を統合する必要がある。観察研究はRCT

          イベルメクチンのメタ解析サイトに要注意①

          検査の有用性はどうやって判断するか‐PCR論争について考える

          検査の有用性はどうやって判断するか。私が学生の時には感度・特異度の話が主だった気がするが、本来はより包括的(または複雑)に考える必要がある。 臨床における感度・特異度の考え方は別記事を参照 包括的に考える際にはその考え方の指針となるフレームワークが重要だ。臨床にエビデンスに基づくガイドラインの作成のための指針を発表しているGRADEというグループがいる。その指針を基に考えていく。 診断/検査とは何かを発見または除外して、それに応じてマネージメントを変えることで、個人また

          検査の有用性はどうやって判断するか‐PCR論争について考える

          臨床における感度・特異度について

          感度について しばしばPCR検査の感度は100% vs 特に臨床側から感度は低い(70%等)などど言われるが私の意見では両方あっている。前者はウイルスRNAが検体にあって100%見つかるということで検査自体の性能を指す。後者は来院する患者に検査をしてどのくらい見逃しがあるかという診療行為の感度を指す。 ウイルスRNAが検体に存在する場合の検査自体の感度が100%であってもそれは臨床における有用性を判断するエビデンスとしては不十分である。 臨床応用のためにはシステマティッ

          臨床における感度・特異度について

          感染力が強まると弱毒化するの?

          イギリス、南アフリカで見つかった新型コロナウイルスの変異株が既存のウイルスより伝播しやすいと話題です。これに関して一部で弱毒化をしているはずだという楽観的な言説をみかけました。 実際に、感染性と毒性(感染した人がどのくらい重症化するか)について反比例の関係があるという仮説があります。 もともとは1982年に下記の著者たちによって提唱されたようです。 Anderson, R., and R. May. 1982. Coevolution of hosts and parasi

          感染力が強まると弱毒化するの?

          新型コロナPCRのCt値の議論について

          最近、新型コロナウイルスの問題を矮小化したい人々がPCRのCt値を持ち出してきているのを目にします。イギリスの公的機関(Public Health England)よりわかりやすい資料があったので以下に重要そうな項目をまとめます。ちなみに筆者はウイルス学やラボ研究の専門ではないので細部はわからないことを断っておきます。また、Ct値そのものの説明は省略します。 https://www.gov.uk/government/publications/cycle-threshold

          新型コロナPCRのCt値の議論について

          インフルエンザの死亡者は年間3000人だからコロナは大したことがない?

          ツイッターでインフルエンザは年間3000人死んでいて、コロナには2400人しか死んでいない。だからコロナで大騒ぎしているという意見をしばしば目にします。 コロナはかなり厳しい対策をして抑えられた結果ということは理解されているのでしょうか。 感染研の資料によると2018/2019年のシーズンに1200万人のインフルエンザ患者数が推定されています。 一方コロナでは史上稀にみるような厳しい対策をして現時点で17万人の感染者に抑えられ、その結果として2400人の死亡です。コロナ

          インフルエンザの死亡者は年間3000人だからコロナは大したことがない?

          新型コロナ検査-感度・特異度を越えた議論を

          昨日、以下のニュースがありました。 予想通りこれに対して批判的な意見が多いです。私も現時点での知見からは反対です。PCRの感度は100%ではなく、抗原検査の感度はさらに低いため、感染者の見逃しがあるためです。このように切って捨てるのは簡単なのですが、もう少し議論を深めてみたいと思います。 検査というのは何らかのアウトカムを改善するために行います。アウトカムとは医療分野では死亡や上記の場合コロナの感染などが当てはまります。コロナ検査の有用性について、今のところ感度・特異度に

          新型コロナ検査-感度・特異度を越えた議論を