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イベルメクチンのメタ解析サイトに要注意①

イベルメクチンに関する研究を集めたメタ解析のサイトが広まっている。リンクを載せることに抵抗があるがどうせ巷に広がっているので載せることにする。https://ivmmeta.com/
画像も拡散されていて、イベルメクチン承認を推す根拠として提示されることが多いが、以下に述べるように問題点が多い。

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①異なる研究デザインの結果を統合
メタ解析とは複数の研究を統合する手法であるが、なんでも統合してよいわけではない。ある程度「似ている」研究同士を統合する必要がある。観察研究はRCTに比べバイアスのリスクが高い場合が多く、異なるデザインの研究を一緒に統合しないことが推奨されている。(注1) 例えばバイアスのリスクが高い大規模の観察研究と質の高いけど規模が小さいRCTを統合すると、前者の結果が大きく左右してしまう。以下のようにこのサイトはRCTと観察研究を統合している。

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さらに、その観察研究も様々で、イベルメクチンを集団投与している国とそれ以外の国を比べたEcological study(Hellwig et al)なんかも加えていてめちゃくちゃである。

② 個々の研究の質の評価がなされていない

個々の研究の質が悪く、バイアスのリスクが高い場合、統合された結果もバイアスを生み、誤った結論に至ってしまう。したがって、個々の研究の質を、「チェックリスト(注2)」を用いて複数の研究者が評価することが必要である。しかし、このサイトではその評価がなされていない。

複数の観察研究を確認したところ、個々の研究の質が低かったり、このサイト自体が用いたRisk ratioの算出方法に誤りがあったりと、とても信頼できない。

特に観察研究では交絡因子を考慮して、その影響をなるべく減らす統計手法を用いてリスク比を計算することが主流である。私が観察研究のメタ解析をする場合はそのような解析を行った研究と、行っていない研究を別々にメタ解析をするであろう。そのような配慮がなされていないため誤解を生む結果になっている。

③異なるアウトカムの統合

死亡・入院・重症化・症状改善・ウイルス量の減弱など異なるアウトカムの結果を統合し、"improvement"とまとめており不適切である。アウトカムの種類によって臨床的な重要性が異なる。

複数の研究はウイルス量の低下をアウトカムにしている。しかし、以下のNIHのガイドラインに言及されているように、ウイルス量の低下をもって臨床的効果を結論付けることができるのか、ウイルス量の代用マーカーとしての役割は確立していない。

④不適切な結果の提示方法

以下の表のような結果の提示方法はあまり見たことがない。"Positive result"があった研究の数が100%であったと述べているが、そもそも一つ一つの研究のサンプルサイズが少なく、統計学的有意差が出ていないものが多い。また質が低くバイアスの危険性が高いものが多く、それらをもとにPositive resultの数を数え、またその確率を計算しても何の意味もないだろう。

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⑤クロロキンのメタ解析も載ってるけど。。。

同サイトではクロロキンや他の薬剤にもメタ解析をしている。このメタ解析の結果があまりに既存のSolidarity試験やRecovery試験の結果と乖離している。質の低い研究を統合すると誤った結果に至る一例だと思う。また、このサイトの方法論自体に大きな疑念を呈する。

このサイトにはRCTも24個含まれているので、それに注目したらいいのではという意見もあるだろう。その通りだがこれらのRCTにも問題のある研究が多い。この点については次回にまとめる

注1:https://training.cochrane.org/handbook/current/chapter-24#section-24-6
"Estimated intervention effects for NRSI with different study design features can be expected to be influenced to varying degrees by different sources of bias (see Section 24.6). Results from NRSI with different combinations of study design features should be expected to differ systematically, resulting in increased heterogeneity. Therefore, we recommend that NRSI that have very different design features should be analysed separately. This recommendation implies that, for example, randomized trials and NRSI should not be combined in a meta-analysis, and that cohort studies and case-control studies should not be combined in a meta-analysis if they address different research questions."

(注2)ROB2: https://methods.cochrane.org/bias/resources/rob-2-revised-cochrane-risk-bias-tool-randomized-trials
ROBINS-I: https://methods.cochrane.org/bias/risk-bias-non-randomized-studies-interventions



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